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144 最大限の賛辞

 皆さん。

 まずはお礼を申し上げます。


 地球を離れてから、ベータディメンジョンには私も参りたいと言い出しまして、時間のない中、よくぞここまで持ってきてくれました。


 グラン・パラディーゾの基幹部分は地球到達時までにあらかた構築されていたとはいえ、数々の変更や追加するシステムが、これほど短期間で作り上げられたことは、驚嘆に値します。


 しかも、先日来、幾度となく繰り返されてきたテストも何ら不安なくパスし、装置及びシステムの安定性は折り紙付きと伺っております。


 ここに、皆さんの叡知と不断の努力に、最大限の賛辞を送ります。

 本当に、本当に、ありがとうございました。




 通常時であれば、ここで拍手も起き、歓声でも上がるところだが、ミッション中止ないし延期の言葉が眼前にちらついていては、それもできず、ただ神妙に聞き入っている。


 係員が蹲ってはアイーナの言葉を聞き、都度、それを伝えていく。




 さて、このミッションがそもそも秘密裏に計画されてきたことは、皆さん、ご承知の通り。


 なぜなら、ミッション名にもある通り、ベータディメンジョン、すなわちかつての地球の重要かつ唯一の生産拠点、さらに言えば、使役ロボットから発展したアンドロの街として機能してきた別次元、そこに向かうものだからです。


 パリサイド星に住む我々が、彼の地に赴く意味がどこにあるのか。

 何のための調査か。

 計画開始から足掛け五年、これは公表されることなく、ここに至りました。


 もちろん、皆さんはこのミッションが目指すべきところをご存知です。


 現在パリサイド星にのみ寄る辺を持つ我々の社会基盤に、もう一つの異なったフロアを作ろうということです。

 将来、パリサイド星にいかなる事態が起きても、もう一つの基盤があれば、どれほど心強いことでしょう。

 私達は身に沁みて知っています。

 宇宙空間の過酷さを。



 そしてもうひとつ。

 こちらの方が重要かもしれません。


 我々の思慕してやまない地球との連絡通路ができることに他ならないのです。

 自由に、ベータディメンジョンを経由して地球と行き来ができるようになるかもしれないのです。

 これほど素晴らしいことがあるでしょうか。

 私は、このことを想像するだけで、もう胸が張り裂けそうなほど嬉しくてたまりません。


 私にとっての故郷、皆さん一人ひとりにとっての故郷、地球。

 そこに旅することができるのです。


 旅行じゃなく、定住もしたい。

 地球に住む人々に申し入れましたが、あのような事態になってしまい、ご了解を得られないままとなってしまいました。

 これが残念ではありますが、いずれにしろ、また自分の故郷に行くことができるのです。



 幸いにも、地球から来られた方々の中からも、このミッションにご参加いただける方がおられます。

 ベータディメンジョンに移行するという冒険、つまりある種の危険を伴うかもしれない実験にご参加いただけるというのです。

 しかも、以前、ベータディメンジョンで活動されたご経験のある方が。

 本当に頼もしい限りです。

 今回の実験が必ずや成功する。そう、信じて疑いません。


 昨夜、地球から来られた方々のご代表、ニューキーツ長官レイチェル閣下にもこのお話をさせていただきました。

 非常に喜ばしいことだというお言葉を頂戴しました。

 この場をお借りして御礼申し上げます。



 ああ、なんと素晴らしく、心躍ることでしょう!


 たとえ、地球には、太陽に焼かれ、廃墟となった街しか残っていなくとも。

 そこは私達のかけがえのない故郷。

 またその故郷を訪れることができるかもしれないのです。


 地球を離れて、もう何世紀が経ったでしょう。

 これほど喜ばしいことがあったでしょうか。

 思い返せば……。

 やめましょう。そんな話は。

 私は嬉しくて、嬉しくて、本当に感無量です。




 代役の言葉を聞くということに、最初はあった違和感は完全に消えていた。

 係官の横で、アイーナが時々頷いたり、頭を下げたりしている。

 今、アイーナはしっかりと目を見開き、人々と一人ひとり目を交わしている。




 このミッションに関わってくれたスタッフ皆さんにお礼を言います。

 本当に、ありがとう。


 グラン・パラディーゾや複雑なシステムを管理してくれている、今ここにいないスタッフにも、幹部の皆さん、よろしくお伝えください。

 アイーナが本当に喜んでいたと。

 そして、心から感謝していたと。

 

 本格起動のスイッチを押す時刻まで、残すこと十時間ばかり。

 明朝いよいよ、ミッションベータディーをスタートする予定になっています。


 しかし、その前に一言、申し上げておきたいことがあります。




 いよいよ発表の時が来た。

 誰もが、代役の言葉、アイーナの意志を聞きのがすまいと、静寂の中に姿勢を正した。


 もう、彼女の心に中止という選択はない。

 いつまで延期するか、しないのか、その一点だった。

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