143 アイーナを注視
会議は定刻に始まった。
総勢三百名ほどもいるだろうか。
宇宙船スミヨシにある最も大きな講堂。
古風なフリンジの付いた赤錆色のカーテンには、なんと漢字で「中央公会堂」と染め抜かれてあった。
キョー・マチボリーらしいと、イコマはひとりほくそ笑んだ。
ほとんどのスタッフが参集しているという。
イコマ達には、いわゆるS席中央付近の一列が用意されていて、厚遇されていることが伝わってくる。
アイーナは、ステージ中央の卓に、美貌のすらりとした姿ではなく巨大クッション姿で座っている。
口を開かず、難しい顔。
まずは状況の報告。
もっぱらユウの役である。
星との通信が途絶えていること、スミヨシのエネルギー残量、キョー・マチボリーの体調などが報告された。
蛇足であるが、と前置きした治安省長官のミタカライネンからは、捕えたステージ―フォーの構成員は小型の宇宙船を使って本星へ護送中であるという報告もあった。
ミッションスタッフからは、目標地点、つまりベータディメンジョンでの出現地点の環境について、モニタリングの結果、問題はないとの報告もなされた。
会議が始まってから、アイーナは一言も口を挟まない。
半ば目を閉じるようにして、それらの報告を聞いている。
次に、本来はミッション手順の確認だったが、その前にと、軍のトップ、トゥルワドゥルーから発言があった。
ミッションを予定通り実施に移すのか。
誰もがそこに関心があった。
警察省長官のイッジをはじめ、ミッションに関わった面々が、アイーナを注視する。
それでも、アイーナは目を閉じている。
沈黙が続けば続くほど、ミッションは延期、ないし中止、という結論が色濃くなっていく。
胸をなで下ろす者もいるだろうし、残念がる者もいるだろう。
強引にでも推し進めたい者もいるかもしれない。
議論がなされるのだろうか。あるいは、アイーナの一言で決まるのだろうか。
集まった人々の顔を眺めても、彼らの意志は判然としない。
アイーナを除く全員が、パリサイドの姿。
これがいわば、彼らの正装だからなのだろう。
ついに、アイーナが小さく手を挙げた。
司会役の係官が近寄り、床に膝をついて、彼女の口元に耳を近づけた。
市長の言葉を聞いている。
声にならないざわめきが、会議室に広がった。
「どうしたんだ。市長は」
ひとしきり、市長の言葉を聞いた係官が立ち上がった。
「皆さんにお断りしたいことがございます」
と、講堂の面々を見回した。
「市長は只今、喉の調子がお悪く、声を出すのがお辛いそうです。私が代わって、市長のお言葉をそのままお伝えいたします。私の一存は一切含まれませんので、その点、ご了承ください」
コホン、と咳払いして、係官が話し出した。




