142 未だかって、無かった事態
オーエンは、エーエージーエスの運用やアンドロが行き来する次元の扉を維持するために、それこそ地球内部のエネルギーを吸い上げ続けていた。
その結果、大型の太陽フレアの襲撃に、地球の磁場は持ちこたえることができなかった。
それほどのエネルギー量である。
「でもさ、グラン・パラディーゾを停止すれば、その保守や再起動時の点検に、それこそまた莫大な時間とエネルギーを費やすことになってしまうやんか。だから、一からやり直し」
「パリサイドの星に戻るとか?」
「になるかも」
「もうひとつ、これはミタカライネンから聞いた話やねんけど、どうもまだ不穏な動きもあるみたい。不穏というか、奇怪というか」
「ステージフォーの残党?」
「そう思ったんやけど、何とも言えないみたい」
「どんな動き?」
「市民だけやなく政府の人間の中にも、時々、不可解な行動をとる人がいるらしいねん」
「ん?」
「地球から来た人の中にも。特に、ミッションスタッフの中にもいるらしいから、それも不安の元」
「不可解って?」
「行く用がないはずのところに、行ってたり」
「個人の自由として見過ごせない?」
「まあ、微妙なところなんやないかな」
万一、ミッションを阻止しようとしているのなら、治安省としても警察としても警戒は怠れない。
ミタカライネンやイッジは神経を尖らせているという。
グラン・パラディーゾやステージフォーの残党らしき者のこともさることながら、イコマは星との全通信が遮断されていることが気になった。
ユウによれば、あり得ない事態だという。
「地球に行った時も、そんなことはなかった。未だかって、無かった事態」
「不都合が?」
「そりゃ、あるよ。と言っても、致命的なことは何もないねんけどね。社会のシステムという意味で、少々不便があるというくらい」
「キョー・マチボリーの体調の問題?」
通信システムが途絶したというのなら、船長の、つまりこの船そのもののシステムの不具合ではないか。
「ううん。違うみたい。ぴんぴんしてるわけじゃないけど、キャプテンはちゃんと活動してるし。彼によれば、船のシステムは正常に動いてるらしいねん。原因不明」
「やっかいやな」
「考えられる理由というか、関連してることと言えば、この船から例の白い霧が一掃されたこと、かな」
「ふうむ」
「あれからやねん」
身の回りには何ら変化はないが、異常な事態が起きている。
グラン・パラディーゾどころではないのかもしれない。
ユウが、八ッ、と短く大きく溜息をついた。
「ほんまに、腹たつわ」
「延期すると思う?」
「どうかな」
「そんじゃ、今日の会議は中止か」
「ううん、開かれる。その辺、アイーナ、律儀やから」




