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137 元々、カムフラージュ

 イコマは、ただ聞いているだけ、というのはまずいのでは、と思った。

 誰も相槌さえ打たないのであれば、レイチェルがなにか発言しようとするだろう。

 アイーナの、レイチェルに対する心象はどうなのだろう。改善したのだろうか。

 それに、ファイルに落とす目がおろそかになってはいけない。

 自分がこの難しい話に上手く反応できるとは思えなかったが。


「しかし先日、ほとんどの人は母星に帰還した……?」

「そうです。シップには乗りました。でも」

「でも?」

「星には帰っていません。この母船から少し離れた位置に停泊しています。グラン・パラディーゾを正しく起動させるために」

「正しく……、起動ですか……」



 次元の扉を正しい位置に開くために、この母船とは別に、その帰還船と地球人類が乗るはずだったオーシマンの船の四艘でフォーカスを取るはずだったのだという。



「このこともまた、皆さんにお詫びしなくてはいけません。元々、皆さんをあの星にお届けするか、あるいは私達と行動を共にするのか、皆さんと、皆さんの代表であるレイチェル長官とゆっくり話し合わなくてはいけなかったのです。ですが、そうする機会がなかなか持てませんでした」


 レイチェルが目を上げ、謝ろうとするのを制して、

「でも、結局は私の希望通りに事を進めさせていただきましたので、お気になさらないでください」

 と、こちらも頭を下げた。


「それに、深いお話をするには、不安な要素もありました。これもレイチェル長官には失礼なお話だったのですが」



 この母船の中で、あの霧から完全にプライバシーが守られた部屋は、アイーナの市長執務室と、キョー・マチボリーの司令室だけ。

 レイチェルは、きっと東部方面攻撃隊の主だったメンバーに相談するだろう。

 つまり、本当の意味で秘密が守られるのかどうか。


 まず、プリブさんという隊員が囚われました。

 そしてアヤさんがあのように。

 我々にとって、敵に人質を取られたようなものでした。


 そしてンドペキさんやスミソさんが汚染され、とうとうチョットマまで汚染されてしまっては、どこから情報が漏れるか、危惧せざるを得なかったのです。

 なにしろレイチェル長官は、それらの方々に全面的な信頼を置いておられますから。




「そういうことだったのですか……」

「本当にすみませんでした」


 イコマは、アイーナがレイチェルに辛く当たっていると考えていたが、それは少し違っていたのだ。

 アイーナは焦り、そして苛ついていたのだ。

 レイチェルに真実を話せないことを。



「グラン・パラディーゾの方はご心配なく。オーシマンはどこかに消えましたが、他の船長に命じて既に出港させていますから、支障はありません。乗船客のいない船です」

「客のいない船……」

「グラン・パラディーゾを正しく起動させるのに、乗船客が必要ではありません。本当に申しわけないのですが、市民の皆さんの乗船は元々、カムフラージュだったのです」

「……」

「すみません」

「いえ……。お気遣いなく……」




 アイーナがまた立ち上がった。

 あら、うっかり、と別室に消えた。


 多くの事柄が一度に流れ込んできて、アヤ回復のお祝いとお礼のムードは完全にどこかに行ってしまった。


 アイーナの話す言葉の表面のみを捉えれば、失礼な話、憤ってもいいような点も多かったが、噛みしめて考えれば、動きのとれなかった彼女の立場も見えてくる。


 そして、彼女は市長としてできる限りの決断を下し、精一杯の対処をしてきたのだとわかる。

 あの巨大クッションの体で、つまり防護服を常に身に纏い、チョットマに優しい声を掛けながら。

 そしてアヤを気遣いつつ、頭の中では様々な難題に取り組んでいたのだ。



 アイーナのその原動力が何か、まだピンときているわけではない。


 つまり、グラン・パラディーゾを起動させ、以前ベータディメンジョンと呼んでいたアンドロの次元、今はパキトポーク達、地球から避難した人々がいると思われる次元を調査し、移住計画を立てる。

 その本当の意味。


 それを理解できているとは言えない。

 アイーナは並々ならぬ決意を持って、これを実行しようとしているのだった。



 その張本人は、ケーキやクッキーやアイスクリームを盛り付けたトレーを持って戻ってきた。

 ブレイクタイムよ、と。

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