136 いずれ意のままに操られる命
秘書官が来客を告げた。
「レイチェル長官がお見えになりました」
「お通しして」
入ってきたレイチェルは、イコマ達が勢ぞろいなのを見て少し驚いたようだったが、アイーナに勧められたクッションに腰を落ち着けた。
「レイチェル長官。あなたに来ていただいたのは、二つ、お願いがあるから」
「ええ、何なりと」
「ありがとう。まずは、私の話を聞いておいて欲しいと思ったから。もう一つは、これ」
と、アイーナが一冊のファイルを取り出した。
「見覚えのある人はいないかな、と思って」
説明されなくともわかる。
捕らえたステージフォーの構成員の中に地球人類はいないかどうか、そしてプリブはいないかどうか、というわけだ。
彼らが洗脳されているなら、自ら名乗ることはない。
レイチェルがファイルを開くのを待って、アイーナが再び話し出した。
「繰り返しになる部分があるけど、我慢してね」
地球に帰りたい。
これは私達全員の思い。
アイーナはユウに目をやり、微笑んだ。
そうされてきた。
でも、実際は少し違うと思うの。
なんていうのかな……。
言葉を選んでいる。
少なくとも、この船に乗り込んだ人は強くそう願っていた。
でも中には、別の動機を持った人もいた。
神とやらに後ろから支配されている社会に我慢がならない、という人……。
アイーナは、自分もその一人、と言った。
強い言葉で。
「意識が乗っ取られ、いずれ意のままに操られる命なんて……。許せない」
キャンティは目を輝かせている。
チョットマは当惑した顔を見せていた。
イコマは、隣に座ったチョットマの手に自分の手を重ねた。
ンドペキもアヤの手を取った。
ユウは仄かに微笑んでいた。
「私は断言できます。あの白い霧、それがステージフォーが崇める神、あるいはその化身」
改まった口調で、
「レイチェル長官、チョットマ、キェンティ、イコマさん、JP01……」と、順に名を呼んでいく。
「この船は、今や、そいつから逃れるための船なのです」
このスミヨシの乗船資格が与えられたのは、地球に帰りたいという望郷の思いが特に強い人たち。
それが最大の基準。と、聞いていた。
「ご想像通り、その中にあれに汚染された人はいませんでした。イコマさんの愛するJP01も、JP01の部下達も。そして私も、警察省長官イッジも、治安省長官ミタカライネンも軍のトゥルワドゥルーも。もちろん、船長キョー・マチボリーも」
「なるほど……」
「逆に言うと、パリサイドの星には、もう汚染されていない人は残っていません。基準値以下だった人は全員が乗り込んでいます」




