135 基準値以下の人
昔、私達がこの星に流れ着いた時にはいなかった。
あれが街に出現したのは、まだ百年ほど前のこと。
私達の暮らしが食べていくだけで精一杯の数百年間を経て、爆発的に豊かになっていった時期。
それをウイルスと呼ぶ人もいるが、いたるところで見かけるほど蔓延するようになった今、眠り病や夢見る病をもたらすウイルスではない、という人もいる。
こんなに身近に大量にいるなら、もっと病気になる人が多くなってもいいはず。
だが、そうはなっていないのだから、というわけ。
でも、ある現象を突き止めたの。
それによって、白い霧に汚染された人と、そうでない人を見分ける方法も見つかった。
その事実はまだ秘密。
皆さんもまだ内緒にしておいてね。
しかし、確実に調査は行われたのよ。
残念ながら、リアルタイムというわけではないわ。
今、汚染されていなくても、次の瞬間には白い霧に入り込まれるかもしれないから。
「実は、パリサイドの全市民を調べたわ」
「えっ」
キャンティが驚いた声を出した。
「そうよ。十億人。そしたら、どうだったと思う」
「わかりません……」
「汚染されていない人は、百万人に一人以下」
「ええっ。そんな!」
「驚くでしょ。ほぼすべての人が汚染されていた。ある基準値を超えた人。あいつが一匹も体内にいない、という基準だと、全員ということになる。私たちも含めてね」
「そ、うなんですか……」
「基準値以下だと、あいつの活動は見られない。意識、思考、生命体というレベルには達しないのね。きっと」
胸の辺りの居心地が悪くなってきた。
ということは、自分に体内にもいるということではないか。
「汚染された人の中には、発症したことのない人も大勢いた。というより、発症した人の方がごく少数」
恐ろしい。
しかし、思い直そう。
人の体内には、もともと、それこそ膨大なウイルスや細菌が存在していると聞く。
「基準値以上の人でも発症者はごく少数。だから、基準値以下の人は、まず安全。ウイルスに思考が乗っ取られることはない、そう思っていいのよ」
アイーナが時計を見た。
「そろそろお茶の時間ね。でも、もう少し待って。あの人が来るから」




