132 オペラ座の貴賓室
「長い廊下があって、奥に行くにしたがって恐ろしげな者が部屋にいるのが見えてきます」
「うん。それで?」
「最後は突き当りになっていて、小さな窓があります」
と、すらすら応えていく。
「その窓から、きれいな貴婦人がいつも横顔を見せているんですけど、声を掛けると鼻から煙を出すドラゴンに変わって、襲ってくるんです」
「やっぱり、そうなのね」
「ええ。お客様は、ドランゴンが吐く炎に焼かれないように、慌てて帰っていくんです。どんな世界にも、裏の世界があるってことですよね」
え、そうなのか。
チョットマから聞いた話とは、ずいぶん違う展開だ。
見ればチョットマも、口をもぐもぐさせている。
案の定、アイーナが気づいてチョットマに話を振った。
「違うって言いたそうね」
「私の時は、違いました」
今度はキャンティが驚いた。
「えっ、違ってたんですか? そういう部分は、プログラムの根幹なので変わらないはずなんですけど」
アイーナの微笑みが大きくなる。
「どう違ってたの?」
「大きな茶色の蛙がいて、試練を与えようとするの」
と、チョットマは自分の二度にわたる体験談を語った。
「その話、私も耳にしたわ」と頷くアイーナ。
「以前は、キャンティが説明してくれた通りだったのにね」
「どういうことなんでしょう」
と、不安顔のキャンティ。
「どうも、地球の人達を乗せてからのようよ。プログラムに改変が加えられたのは」
普段、そのようなマイナーチェンジが行われることはないという。
安全性が少しでも損なわれるリスクのある仕様変更が、日常的に行われることはない。
何者かが何らかの意図をもって、しかも、相当の腕力をもってシステムにアクセスしたのであれば別だが。
「でも、現実に変わっていた。これは誰の仕業?」
キャンティには応えることができない。
質問した本人が答を用意していた。
「ステージフォー。彼らにできる?」
「できないと思います」
「そうよね。ということは、彼らが崇める神という存在なら?」
「わかりません……」
ステージフォーの神、ロームス。
神の国巡礼教団の生き残り、この星に漂着した人類に新たな肉体を与えたという者。
パリサイドの星を、人類が生息していける環境に整えたという者。
そのような存在であれば、オペラ座のシステムに潜入することは容易いかもしれない。
「シナリオは改変された。でも、その蛙は? システムが生み出した者?」
これにもアイーナ自身が解を用意していた。
「言葉を話す大蛙。でも、気になる事実があるの」
と、目を伏せた。
言うべきなのか、悩んでいるように見えたが、そう見せたかっただけかもしれない。
すぐにアイーナは言葉をぽんと吐き出した。




