131 キャンティの面接
「お邪魔します。キャンティです」
すらりとした脚を見せて、部屋に入ってきた。
「そちらへ」
アイーナの指示した椅子に座ろうとして、同室の面々がイコマ達だと知って、
「あ、いつぞやの」と、微笑んだ。
そう言われては、
「布のことでは、お世話になりました」と、頭を下げる他ない。
実際、聞き耳頭巾があってこそ、アヤは正気を取り戻したのだ。感謝しなくてはいけない。
キャンティはアイーナと向き直ったが、
「先に皆さんにきちんとご挨拶しなさい」という言葉に従って、
「娘さんにはお会いになれましたか?」と聞いてきた。
「おかげさまで。そこに」
目立たぬよう後ろに座っていたアヤが、立ち上がって頭を下げた。
「あ、気づきませんでした。」
「本当にありがとうございました」
アヤにも、キャンティが恩人だと話してある。
しかし、手放しで礼を言う気にはなれない。
よほど、お父さんは? と嫌味のひとつでも言ってやりたくなる。
他の面々も口々に礼を言うものの、表情が硬いのは致し方ない。
「さあ、キャンティ」
場のぎごちなさを拭うかのように、アイーナが甘い声を掛けた。
「はい」
「来てもらったのは、いくつか相談があるのよ」
少女は目を輝かせて頷いた。
「貴女は十五歳。知ってるわよね。優秀な人の知識と経験を、貴女の知識と経験に付け加える日が近いことを」
「ええ」
市長を前にしても、緊張のかけらもない。深く椅子に腰かけている。
「でも、予定していた人は亡くなってしまったわ。そこでね、あなたに聞きたいのよ」
「なんでしょう」
「お望みの人は?」
「え?」
「特別にね、希望を聞いてみようかと思って」
本来、受け取る方が指名できるという制度ではない。
そんなことをすれば、特定の誰かに集中し、支障が生じる。
「どう?」
「……特に思いつきません」
あっさりアイーナが話題を変えた。
「ところで、なぜ、この宇宙船に残ったのかしら」
イコマはぎくりとした。
父親が……、という返事を予想して。
治安当局や警察はサワンドーレをまだ捕まえていないのだろうか。
キャンティが居場所を知っていると考えているのだろうか。
しかし、娘の返事は全く違う方向だった。
「私は、治安省に勤めることになっています。ミタカライネン長官が船に残られると聞いて、私も残ることにしました」
「そうなの」
「どんなお仕事をさせていただけるのか、まだお聞きしていませんが、今の私でもお役に立てることがあれば、と思いまして」
「なるほどね。で、長官には会ったのかしら」
「はい! とても喜んでくださいました」
イコマはアイーナの顔を見つめていたが、彼女は微笑むばかりで、その奥に秘められたものはいささかも顔を覗かせない。
それどころか、その判断は正しいことだったわね、などと言う。
「せいぜいミタカライネンに可愛がってもらいなさい」
「はい。でも、まだ何もご用を言いつかっていません」
「それはそうよ。やるべきことは自分で見つけなきゃね」
「はい!」
「まだ、職員じゃないんだから」
また、アイーナが話題を変える。
まるで面接のように細切れの話が続いていく。
「キャンティ、オペラ座のマスカレード、知ってるわよね。仮面舞踏会」
「ええ、もちろん。最も人気のあるアトラクションのひとつです」
「そうね。貴女はあのテストもしたの?」
「はい」
驚いた。
この話題も、どこに繋がっていくのか。
単なる面接の一コマに過ぎないのだろうか。
それとも。
「あの宮殿の左側の三階に」
やはりそうだ。
ヴィーナス殺人事件。
イコマとチョットマが体験した夜、近くのブースで起きた事件。
あれが解決したとは聞いていない。
「貴賓室が並んでいるでしょ」
「はい」
「その一番奥がどうなっていたか、覚えてる?」
唐突な話題だが、キャンティは全く動じる様子もない。
「はい。よーく覚えています」
「どうなっていた?」




