129 すべての人の美の基準の最高位
翌日、家族全員でアイーナに礼を言いに行こうとなった。
イコマ、ンドペキ、スゥ、アヤ、チョットマの五人。ユウとは向こうで落ち合うことになった。
「すみません。お忙しいところ」
「いいえ。忙しくはありません。JP01がすべてやってくれていますから」
アイーナに勧められて、いたるところに置かれた猫脚のチェアや、花柄のファブリックソファに腰を落ち着けた。
アヤを救ってくれた一連の出来事に、イコマは喜びを溢れさせて何度も頭を下げた。
「そんなにお礼を言っていただくと、恥ずかしいわ。かわいこちゃんのお姉さんだというから、少し気にかけていただけ」
礼を言いながら、イコマの目はアイーナに釘付けになった。
再び、巨大クッションの体ではなくなっている。
ダイエットなどと言っていたが、これは次元が違う。
絶世の美女とは、こういう人を指して言うのだ。
美の基準は人によって違うが、アイーナはまさにすべての人が持つ美の基準の最高位にあると言えた。
ふくよかな頬に輝く瞳。
大人の女性にはなかなか見られない、きれいなピンク色をした形の良い唇。
その上にすっと盛り上がった真直ぐな鼻の線。
細面の端正な顔の輪郭を余すことなく見せながら、グラビアのように変えていく表情がどんな人をも惹きつける。
それに、艶のある緑色の長い髪。
深い森の中、神秘の湖を思わせるエメラルドグリーン。
アイーナが頭を動かすたびに、森の小さな妖精達が零れ落ちるように輝いた。
「あら、イコマさん。どこを見てらっしゃるの」
言葉遣いまでが、違う。
唯一、これがアイーナだという印は、聞き覚えのあるハスキーな声だけ。
「あ、いえ」
「この髪?」
「え、ま。見事な……」
まさか、見とれていましたとは言えない。
「チョットマと同じ、緑の」
「全然違うよ!」
チョットマが腕を引っ張った。
「市長の髪が断然きれい」
「ううん、チョットマ。貴女の髪も、とってもきれいよ」
アイーナに笑いかけられて、物怖じしないはずのチョットマも、さすがに顔を赤らめた。
「先日も、この髪だったんですけどね」
アイーナが髪を弄ると、まるでそこから本物の花の香りが目に見えるかのように匂い立つ。
グラン・パラディーゾの試験運転の日。
確かに、巨大クッションの体ではなかったが、髪は?
髪どころではない。顔も記憶に残っていなかった。
「あ、いえ、その、申し訳ありません」
「謝るようことじゃないですよ。きっと皆さん、アヤさんのことで頭が一杯で、周りを見る余裕なんてなかったのでしょうから」
「え、まあ……」
「ノブ。なんか、見てられないよねえ。なに、あがってるん?」
ユウがにやにやしている。
「なんというか、勝手が違うというか……」
「確かにね。市長がこんなにきれいな人だったとは、知らなかったわ」
「まあ、JP01に褒められるなんて、光栄ね」
「あの、市長」
チョットマが顔を火照らせたまま、アイーナに聞いた。
「どうして、あの、丸い身体をしてたんですか?」
「おいおい。それはいろいろ事情が」




