127 プラズマ生命体
マインドコントロールか……。
アヤの寝顔を見ていて、つい口から出た言葉。
喜びに満ちたその場にふさわしくなく、部屋の空気を一瞬にして、アヤの言う薄墨色の世界に変えてしまった。
「ごめん。嫌なことを口走ってしまった」
チョットマに謝ったが、彼女は気持ちを理解してくれていた。
「ううん、パパ。辛かったでしょう。自分の娘なのに、知らん顔されて」
不覚にも、また目が潤む。
「でも、いい話もひとつあったね」
「そうだな」
「プリブじゃなかった」
「ああ」
むろん、プリブの行方はまだ不明のまま。
もし、ステージフォーに囚われていたとしても、記憶を失くしたアヤはそれと気付かなかったはず。
しかし、もしプリブがあの破壊作戦に参加していたなら、アヤと同じように救われているのではないか。
その連絡を待ちさえすればいい。
ただ、問題もある。
アヤの場合は聞き耳頭巾によって自分を取り戻したが、他の教団員はどうなのだろう。
アイーナ側の施術によって、洗脳は解けるのだろうか。
「パパ、私ね、色々聞いたんだ」
「ん? 誰に?」
「たぶん、その神って奴に」
「えっ」
「だから、聞き耳頭巾で。きっとあいつが、ステージフォーの神なんじゃないかなって。さっき話を聞いてて思った」
「へえ! 聞かせて。待てよ。アイーナも聞きたいかも」
「うーん。でも、まずはパパに」
「そう。じゃ」
元は街の地面であった、もう誰も行かなくなった甲板でのこと。
自分は、宇宙最初の生命だって言ってた。
それで、永い永い時間をかけて進化して、あるとき、生命の素を宇宙の隅々にばら撒いたんだって。
数百万年前ごろ、だって。
その生命体のコロニーが豊潤になり、宇宙各地に様々な形の生物基盤となる物質を飛ばしたのだという。
人間を含めて地球の生命も、元はといえば自分が作ったんだって。
「だから、地球の生物である人間が不時着したとき、興味を持ったんだって」
自分が蒔いた種が、思いもよらない姿で生命体を形づくったことに、親近感を持つと同時に、命を繋ぎとめてみようという気になったのだという。
「でね、死にかけていた人間にあの体を与えたんだって。そう、パパのその身体」
「ということは、彼らもこの身体を持っているのか?」
「ううん。違うんだって。それは、人間の体を参考にして、宇宙空間でも生きていけるよう工夫を凝らして作ってみたんだって」
「へえ!」
「あいつらは何も食べなくても、宇宙で生きていける」
「ほう。どんな体、してるん?」
「さあ。微粒子がプラズマで、膨張したり収縮したりで、ひとりはみんなで、みんなはひとり。よく分からない」
「なるほど。プラズマ生物か。一人ひとりという概念はないんだな。巨大プラズマ生命体ってところかな」
「よく知らないけど」
アミノ酸?
生命を形作るものはそれに限らないんだって。
一種の金属粒子がプラズマ状態になって、一定の条件を満たせば、他者を取り込んで大きくなる?
って、パパなら意味、分かるよね。
「成長することが生命の本質なら、そういう種がいて、自分は生命体だと言っておかしくはないね」
「話ができるんだから、やっぱり生き物じゃないのかな。聞き耳頭巾を被っているときだけだけど」
「どんな奴にしろ、かなり高度な生物なんだな。チョットマはそんな奴と話して、怖くなかったのか?」
「怖くはなかったよ。言ってることの意味が理解できた時、嬉しいと思ったくらい。ん、でも、これでやっと頭痛が治るという意味でね」
「ふふ。それで、他にどんな話を?」
「それ、なのよね……、ん……、愛とか」
「愛?」
「何も知らないみたい」
人間の言葉を覚え、人が話すのを聞いて興味を持ったという。
「なるほど。巨大プラズマ生命体に、愛という概念はないわけだ」
「うん」
「本当は、言葉という手段もなくていいんだろ」
最低限必要なのは、成長、増殖を求める意志だけ。
「そう。個人というものがないから、話す相手もいないし、愛する相手も」
「ハハ。だね」




