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120/200

120 装甲を外せ

 声。

 ユウか、と思ったが、そうではない。

 暗闇の中、透かして見えた者は、ユウより小さい。


 駆けてくる。



「待って!」


 この声は!


「チョットマ!」


 長い緑色の髪をなびかせて走ってくる。


「チョットマ!」

「パパ!」



 胸に飛び込んできたチョットマの背中を撫でて、イコマは温かいものが込み上げてきた。


「どうしてここに」

「これ、必要かもと思って。アイーナに聞いたら、パパはここにいるって」


 ブラウスの胸の中から取り出したものは、アヤのショール。


「ありがとう!」

「アヤちゃんは?」

「それが、どこにいるのか」

「そうなの……。でも、これ、渡しておくね」


 チョットマが布を差し出した。



「あっ」


 折りたたまれていた布が、勝手にほぐれ、するりと手から滑り落ちた。


「わっ」


 甲板に落ちる直前、膝の辺りで静止したかと思うと、まるで魔法の絨毯のように広がった。

 慌てて拾い上げようとすると、布は蛇が鎌首をもたげるように一方の端を持ち上げると、動きだした。


「わわわっ!」

「チョットマ! 行こう! きっとアヤだ!」




 布は滑るように進んでいく。


「見失うなよ!」

「うん!」

「さすが、不思議の布。奈津婆さんの形見」

「なんのこと?」

「いや、何でもない」



 きっとうまくいく。

 アヤは生きている。

 聞き耳頭巾は、アヤの元へと向かっている。

 イコマはそう信じた。




 二キロほども駆けたろうか。

 そろそろ息が上がり、足も痛い。

 途中で倒れている者もあったが、布は素通りしていく。


 間違いない。

 アヤの元へ。




 ようやく止まったところに、兵士が倒れていた。

 布はその体にふわりと覆いかぶさると、力が抜けたように、しなりと元の布に戻っていった。




「アヤ!」

「アヤちゃん!」

 呼びかけても反応はない。


 抱き起そうにも、装甲は重く、しかも硬直しているのか、腕一本持ち上げることもできない。

 生きているのかどうか、外観では分からないが、聞き耳頭巾が飛んできたことを思えば、死んでしまったとは思えない。

 きっと。


「どう?」

 チョットマが装甲を外そうといじくっているが、勝手が違うようだ。

「外せない!」



 動かすことさえできれば。

 ユウのところにさえ運べば。


 そうだ!

 ユウは?

 無事なのか。

 どこかに倒れているのでは!



 ええい! 身はひとつ!

 どうにもならん!



「そうだ! チョットマ。攻撃隊は?」

「船室の隅に市民を集めて、守ってるよ」

「誰も、倒れてやしないか?」

「ううん。敵は攻めてきてないし」

「そうじゃなくて」

 イコマはこれまであったことを話した。



「つまり、装甲を身に付けている者は、戦闘地域であろうとなかろうと、みんなこんな風に倒れてしまったんだ」

「それって、いつ?」

「三十分ほど前か」

「それだと、分からない。私が船室を出たのは、もう少し前だから。私は病み上がりだからって、お役は無し」

「そうか。よかったな。でも、うむう。どうするか……」

「私、ユウママを探しに行ってくる」

「だめ。危険すぎる」

「どうして? もう兵士は動けないんでしょ」

「いつ何時、また動けるようになるか」




 暗闇の中、ようやく人の動く姿があった。

 軍の職員か市の職員か。兵士を救出に来たのだ。

 声が聞こえてくる。


 どうやって運ぶ。重いぞ。

 運搬車はまだか。

 味方優先だ。

 いや、敵を運んで捕えるのが先だ。

 まずは装甲を外せ。

 急かすなよ。外す道具が足りないんだよ。




「彼らを呼んできてくれないか」

 言い終わらないうちに、チョットマは駆けだしている。


 気持ちの余裕ができた。

 装甲の中の兵士は生きているようだ。

 ユウも倒れていたとしても、あのように対処されているはず。

 アイーナが放っておくはずがない。



 ふう。


 アヤ……。

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