119 アヤーッ!
「おお!」
二十桁ほどの英数字が並んでいる。
「最初がEのを探すんだよ。アースのイー!」
「なるほど!」
「出身国は!」
「ニッポン!」
「JPN、EJPN!。敵の構成員リスト。左側にも出てくるよ。味方のが!」
「よし!」
イコマは各モニターに表示されている右側のリストを目で追った。
アヤ!
いてほしくない。
見つかって欲しい、という気持ちがないまぜになって、心臓の鼓動が聞こえてきそうだった。
「あったぞ! あ、いや、複数個ある! デッキだ! 行ってくる!」
「早まるんじゃない! あんたが今行って、何になる! 」
飛び出していこうとするイコマの腕をアイーナの太い腕が掴んだ。
「離せ!」
「待つんだ!」
「何を!」
「死にたいのか!」
「危険な目にあってるんだ! 娘が! 親がのんびりモニターなんぞ見てられるか!」
アイーナの腕がますます強く締め付けてくる。
「イコマさん」
腕の強さとは裏腹に、アイーナは落ち着いた声を出した。
「ここは、不思議な星。こういうときには何かが起きる。いつも何らかの意志が働いている。悪意か善意か、それはわからないけど。そんな星。だから待つんだ」
「そんな曖昧な! 待ってられるか!」
「いいや、JP01を待つんだ。私は彼女に通信できる。すでに伝えてある。すぐにデッキに向かうと連絡があった」
「ぐ」
「きっと、数分内に行き着く。ンドペキという男と一緒に。あんたが向かうのは、それからでも遅くない」
イコマの肩の力が幾分抜けた。
それと同時に、アイーナの腕も少し緩む。
「あんたが死んで、誰か喜ぶのか」
「あっ!」
「どうした?」
「兵が!」
モニターが異様な光景を映し出していた。
先ほどまで激しく撃ち合っていた兵士が床に転がっている。
立っている者も、硬直したかのように、次々と倒れていき、あっという間に戦闘は終了した。
誰も、ピクリとも動かない。
すべての画面はしんと静まり返った。
「おい! お前たち!」
軍のトップ、トゥルワドゥルーの声が響いた。
「何が起きたんだ!」
「全兵士に告ぐ! 状況を報告しろ!」
「この身体になっててよかったよ」
アイーナが奇妙なことを言って、「行こう。軍の指揮官室」と、腕を引っ張る。
「何かが起きる。そんな気がしていた」
声に緊張感はありありとあるが、肚を決めた人間の強さがあった。
「いや、あんたは直接デッキに向かった方がいいかもしれない」
「どうした! なぜ、誰も連絡をしてこない!」
トゥルワドゥルーがヒステリックに叫んでいた。
ドアを開けると、驚く光景があった。
うっ……。
部屋の前には、警護していた兵が転がっていた。
「あんたたち……」
「死んでるのか」
「わからない」
分厚い装甲を身に着けている。
「外し方、分かるかい」
「いや」
「救護班! 応答せよ!」
トゥルワドゥルーの呼びかけはむなしく、兵という兵はすべて倒れてしまったのだった。
「誰でもいい! 応答しろ!」
「おい! ということは!」
イコマは鳥肌が立つ思いがした。
「ユウは!」
アイーナの顔が見る間に曇った。
「まさか!」
戦闘に参加していない兵も倒れているのだ。
ユウも軍に属している。
「くそ!」
「あんたはデッキへ! JP01へはこっちから人を出す! さあ、早く!」
生きていてくれ!
イコマは走った。
走りながらまた恐怖が襲ってきた。
まさか、チョットマも。
東部方面攻撃隊は……。
何度も曲がり角を間違え、呪いの言葉を吐き出しながら、イコマは転ぶように走った。
そしてようやく破壊された扉を潜り抜けた。
十キロに及ぶ広大な甲板。
グラン・パラディーゾが実体化するところ。
そこに、立っている者はいなかった。
暗く、視界はほとんど利かないが、ポツリポツリと倒れた者が見える。
空気は熱を帯びているが、動くものはない。
空の星々以外に、光るものもない。
「くそう!」
どこから探せばいい!
「アヤーッ!」
「ユウーッ!」
叫んでも、微かな木霊が返ってくるだけ。
「アヤーッ! どこにいる!」
ユウはどこにいる!
ンドペキは!
手近な兵士に駆け寄ったが、それが敵か味方かの見分けもつかない。
「ええい!」
装甲を力任せに外そうとしても、全くびくともしない。
「生きてるなら、何か反応しろ!」
装甲に守られ、素肌が露出している箇所はない。
呼吸しているのかどうかさえ、分からなかった。
「くそ! どうすりゃいい!」
微かな木霊に少し遅れて、遠くの方から声がしたように感じた。




