117 間もなく接敵! 戦闘許可を!
急襲だった。
ステージフォー構成員百名ほどが、四つの部隊に分かれて次元の扉のシステムを破壊しようとしている。
どこからともなく現れて、行き当たった人を誰かれなく倒して突き進んでいる。
試運転が終わって、わずかに生じた気の緩み。そこを突かれた。
軍はすぐさま体制を立て直したが、敵の動きに追随するにはいくばくかの間があった。
敵の目標。すなわち攻撃対象、破壊対象がどこにあるのか、把握できていなかったからだ。
どこに向かえばいいのか、分らない。
システムはこの宇宙船の航行システムと密接に関係している。
一体化しているとさえいえた。
しかも、相手の装備は想定を上回っていた。
軍や治安部隊の戦闘マシンとはかなり様相が異なり、スマートでいかにも機能的だ。
もともとパリサイドはその肉体が武器になりうる。
システムや機器を破壊すればよいというのであれば、誰かひとりがその場に到達しさえすれば、達成されかねない。
ただ、むやみに破壊すれば、宇宙船もろとも自身の命も危うくなる。
それに、エネルギー供給や情報システムは、幾通りもの迂回ルートが用意されている。
その点では、ミッションにたちまち重大な危機が生じるとは考えられていなかったが、かといって猶予はない。
軍、警察、治安の各部隊、及びスミヨシの乗組員はシステムの重要ポイントを守るとともに、敵を迎え撃つ態勢をとるべく機敏に動いた。
スジーウォンは部隊を引き連れ、後方支援にあたることになった。
パリサイドと本気で撃ち合うことになれば、勝機はない。
市民を集め、安全を確保。
アイーナの警護としてンドペキ、軍の連絡将校付きとして五名程の隊員も派遣している。
イコマはンドペキに同行していた。
もちろん、アヤと会うチャンスを求めて。
「指令室は確保! グラン・パラディーゾはどうだ!」
イコマは、次元の扉へ登る階段が実体を持った構築物でないことを、その時知った。
物質的な硬さを有した幻影。
デッキの床下部に張り巡らされた駆動部がそれを実現するという。
「展開完了! しかし!」
グラン・パラディーゾが実体化する甲板への出入り口。
もちろん閉鎖されているが、破壊されては侵入を許すことになる。
百ほどもあるという。
「人数が足りません! 奴らが来ないうちに、人員増強を!」
ステージーフォーの四つの部隊の現時点での位置は捕捉できている。
しかし、その向かう先の予測がつけ難かった。
「キョー・マチボリーめ! なにをしてやがるんだ!」
強固なはずの扉が次々と無効化されていく。
「くそ! なぜ、こんなことに!」
「エネルギー庫に向かっているぞ!」
固く守られているはずのエリアが、いとも簡単に突破されていく。
ンドペキとイコマは、軍の本部ルームにいた。
むっつりした顔でアイーナが中央に陣取っている。
いつの間にか、またあの巨大クッション姿に戻っていた。
「ユウ!」
「よかった! 会えて!」
「状況は!」
「よくない!」
ステージフォーの動きを含め、戦況報告が飛び交っている。
所在は分からないが、軍の指令室と通信が結ばれている。
同じ映像がモニターに映し出され、音声もクリアだ。
「間もなく接敵! 戦闘許可を!」
「許可する! システムを守ることを最優先せよ!」
戦闘員に取り付けられたカメラから、状況がリアルタイムに送られてくる。
巨大なモニターは、たちまちエネルギー弾が放つ光の渦で満ちた。




