116 ぞろぞろ出てきやがった!
「あんた、身体、大丈夫なのかい」
というわけだ。
キョー・マチボリーの体調が思わしくないらしく、それを案じていたのだった。
「大丈夫、と言いたいところだが」
キョー・マチボリーの声はかすれがち。
ともすれば、聞き取りにくいほど小さくなり、人の声というより貧弱な人工音声のように聞こえる。
「しかし、心配はいらん」
むりやり声を張り上げていることがわかる。
「あんたのミッションに支障をきたすことはしない。万全を尽くす。それどころか、素敵なプレゼントまで用意しているぞ」
「そりゃそうだろ。そうしてもらわなきゃ困る」
「俺の身より、ミッションの方が大事だって言い方だな」
「当たり前だろ」
「ふん、あんたらしいよ」
「ところでキャプテン。あんた最近、船の隅々まで意識が届いていないだろ」
「わかるか。そう。全体にエネルギーを回していられないからな」
「だろうね。聞くけど、どこまで届いているんだい」
「例えば、あんた、自分の背中の出来物が見えるかい? だいたい、気付きもしないんじゃないか?」
「ん?」
「胃にできた四つの小さな腫瘍も、検査しなくちゃ気付きもしないだろ」
「なんだよ。不安でもあるのかい」
「ない。しかし、まあ、俺の体調はそういうことだ」
アイーナがまた溜息をついた。
「あの作戦は失敗だったね」
「そんなことだろうと思ってたがな」
ステージフォーを炙り出すため、唐突に街を消し去ったのだという。
「どこにもいやしなかった。私たちの調査では、少なくとも百人近くはいるはずなんだけど。捕獲した奴以外に」
「ああ。それは前に聞いた」
「そいつら、どこかにいるはずなんだ。この宇宙船のどこかに。なんとしてでも捕まえないと。なんとかならないのか」
アイーナは、例のミッションを妨害されることを恐れている。
「なにしろあの団体、なにを考えているのか、知れたもんじゃない」
拘束した構成員から、なんらかの情報を得ているのか。
不測の事態が起きることを危惧している。
「次元の扉を開くまでに、何とかしなくては」
もうあまり時間の余裕はない。
「同感だ」と、キョー・マチボリーが力を込める。
「だから、あんた、奴らがどこに潜んでいるのか、早く掴んでおくれ」
イコマも強くそれを願った。
そこにアヤがいるはず。
そして、今度は強引にでも連れ戻そうと思う。
ユウに頼んで、自分と同期してでも、アヤの記憶を呼び戻したい。
「どうだい。掴めそうかい」
アイーナは急かすが、キョー・マチボリーはかすれた笑い声をたてた。
「乗組員は今、手がいっぱいだ。それでも各所に向かわせている」
「警察や軍も向かわせたいが、船内隅々に入るには、キャプテン、あんたの許可が必要だろ」
キョー・マチボリーが応えるまで、一瞬の間があった。
「その必要はないようだ」
「どういうことだい」
「向こうからおいでなすった」
「ん?」
「急げ! 連中、あんたの司令室にも向かっているぞ! ぞろぞろ出てきやがった!」




