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114 なぜ、今頃になって

 キョー・マチボリーの部屋へ向かう道すがら、アイーナから聞かされたことがある。

 アヤを襲った人物。


「発見したよ。街が消えた後で。もう死んでいたけどね」

「そうなんですか!」

「フイグナー。元名は、ミズカワヒロシ」

「ん?」


 数日前、イコマとンドペキがアヤの元へ向かう道中で、追いかけてきた男。

「犯行の後、どこかの部屋に潜んでたみたいだね……。いつ、なぜ死んだのか、分からないけど……」



 アイーナが説明してくれていたが、イコマは半分しか聞いていなかった。

 ミズカワヒロシという名を聞いたとたんに、様々な記憶が甦っていた。



 ニューキーツの政府建物の仮想の海で、ンドペキに声をかけてきたイルカの少年……。


 まさか……。

 まさか、あの男……。


 いや、間違いない。

 アヤの……。

 アヤの最初の結婚相手……。

 確か、考古生物学者だとかなんとか……。


 どんな風貌だったか、思い出せない。

 背丈は。声は。

 髪は、瞳は。

 何も思い出せない。


 ただ、一筆書きのようなおぼろな記憶の輪郭があるだけ。

 しかし、間違いない。

 あいつだ……。



 ンドペキがアヤの父親だと知っていたのか……。

 いや、知っていたはず!

 だからこそ、部屋に訪ねてきたのだ!

 そのときは、フイグナーと名乗ったが……。

 しかし、追いかけてきたときには、その名を名乗った……。


 ミズカワヒロシ……。



 イコマは唇を噛んだ。

 あのとき、その名に気付いておれば、アヤがみすみす襲われることはなかったかもしれない!

 きっと、後を付けられたのだ!

 ミズカワヒロシ!

 くそう!

 なぜ、今頃になって、アヤに危害を!




 イコマはさらに深く思い出そうとした。


 思い出したくはない出来事を。

 父親として、悩み抜いたあの頃を。

 アヤの苦悩に応えられなかった、ふがいなかったあの頃の己を。


 アヤの結婚生活が破綻した理由……。


 性格が合わない、としかアヤは表現しなかったが、アヤを苦しませたことには違いない。

 あの頃、己は、父親として失格だった……。

 娘の苦しみを救えないのだから……。



 ミズカワの方も、離婚によってダメージを受けてはいた。

 そうか!

 だからあいつはあんな偽物の海に、イルカの姿で引き籠っていたのだ。

 特殊なアギとなって。


 そうか……。

 そこで知ったのだ。

 アヤが間近にいることを。

 そして、ンドペキがその父親であることに。



 くそ!


 なぜ、よりによってそんな奴にパリサイドの身体を与えたのだ! ユウ!

 いや、ユウを責めてはいけない!

 ユウに責任はない!



 それにしても!

 なぜ、あいつ、今頃になって!

 復讐なのか!

 それとも……。



 奴は、アヤを愛していた。

 離婚してからも、ずっと……。


 それは知っている。

 何度も、よりを戻そうとアプローチしていた……。

 しかし、いつの間にか姿を見せなくなり……。



 イルカになっていたのか……。

 数百年の年月が過ぎ……。

 パリサイドの身体を得るチャンスが来て……。

 この船に乗り込み……。



 アヤを前にして、奴はなんと言ったのだろう。

 最初から襲うつもりだったのか。

 それとも……。


 そもそも、アヤはあいつを思い出したのか?

 僕らのことも思い出さないのに?


 なぜ、あいつはアヤの部屋に入ることができた……。

 アヤがドアを開けたのか……。




「ここよ」

 アイーナが足を止めた。

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