11 かけがえのない地球に関わることだから
「ノブは時間について、どう思う?」
「時間の流れが場所によって違うってこと? アンドロの次元みたいに」
「全然。焦点がずれてる」
「だろな」
「空間の概念と同じ。人間が感じられる時間の流れはひとつだけ。でも、実際は違う。時間と空間は切っても切れない関係にあるのよ」
「つまり、時間の流れも二十七あるってこと?」
「そのとおり」
これがパリサイドの一般的な理解だという。
目には見えないし、人には感じることもできないが、ユリウス宇宙を含むこの次元には、二十七の空間軸があり、時間軸があるという。
「この母船内にもね」
「なるほどねえ。といっても、実感ないな」
「今、私たち、どこを移動していると思う?」
「ん?」
「この船は今、特殊な航行モードに入ってる。さっき言ったアコーディオンの尾根の上を大股で渡り歩いているようなもの。次元の隙間じゃなくて、この次元内にある特異な境界線上、ということね」
「じゃ、あれはどうなる? アンドロの次元は」
「全くの別次元。太陽系や銀河系のあるこのJ次元じゃない」
「ふむ」
「別宇宙の数はある程度は想定されているけど、別次元の数は誰も知らない。そもそも、無数の宇宙は、それぞれが属する何らかの次元の海に浮かんでいる泡のようなもの」
「多元宇宙とはいうけど、それを内包する次元の数たるや、それこそ無限ということだな」
「それぞれの次元に、私たちが知っている宇宙というような空間があるかどうかは別だけど」
「はあ」
そろそろ本題に戻した方がいい。
これ以上、聞かされてももう頭に入らない。
イコマはフゥと溜息をついて、ユウの髪をいじった。
「それで、今回の任務。調査ってのは?」
そうねえ……、とユウは言葉を濁す。
「私達はこのユリウス宇宙の警察でもないし、領土だとも思ってない。それでも、どこでどんなことが起きているのか、把握しようとしてきた」
「ああ」
「安全に生きていくために」
「で、太陽の活動も見てたんだな」
「もちろん。かけがえのない地球に関わることだから」
ユウは、どう話そうかと思案しているのか、躊躇したのか、コーヒーを淹れに立った。
「夜中にコーヒー飲んだら、寝れなくなるぞ」
「そか。じゃ、ほっとミルクにしよう。そういや、ノブ、よく甘酒飲んでたよね。寝る前に」
「ああ。それで太った」
ユウはベッドに入ろうという気はない。
今夜もまた、もうすぐ出ていくのだろう。
それ以外にも、イコマには少々、不満もある。
いや、疑問か。
聞いておきたいという気になった。
「なあユウ、最近、というか、ここへ来てからかな、関西イントネーション、消えてるで。なんでなん?」
「えっ」
「いや、なにか理由があるんやろな。言わんでもええ」
ユウが、少し寂しい顔を見せた。
「ノブ、あーあ、って感じ」
「ん?」
「そんな疑問があるねやったら、なんでもっと早う言わへんかなあ」
「まあ……」
「大体、そんなどうでもええこと、私に言われへんって、どういうことなんやろ」
「えー」
「その方がいいん?」
「いや」
「六百年、使うてない。理由はそれだけ。それにノブもそうやん。大阪弁とちょっと違うやん」
意識して使うこともない、ということになった。
「すまん」
「なんで謝るかなあ」




