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108 フロッグ

 ばかげたこと。

 腹立たしいウイルス相手に話をするなど。

 それこそこいつの思う壺ではないか、とも思う。


 しかし、こいつが言ったいくつかの言葉がチョットマを引き付けていた。


ーーー私が生かしてやっている

ーーー身体を与えてやった


 明らかにパリサイドのことを言っている、と思ったのだ。




 チョットマは、何度目かの会話の時に聞いてみた。

「あんた、名前は?」


 名を聞くことは親しみの現れ、と聞いたことがある。

 ウイルスとどんな関係であれ、付き合いたくはないが、こいつの考えていることをもっと知っておいた方がいいと思った。

 被験者というほどの意識はないが、何かの役に立つかもしれないと。




「なんて名?」

ーーー……

「じゃ、私がつけてあげようか」

ーーー……

「フロッグってのは?」

ーーーなぜだ

「意味はないわ。気に入らない?」

ーーー……




 マスカレードの貴賓席の奥、階段の番をしていた羽付き帽を被った巨大カエルを思い出しただけである。

 そして、その階段を登り切ったところに何者かが巣食っているのなら、このウイルスの元締めでもいるのかもしれないな。

 そういや、あのカエル、階段の先には夢が叶う国がある、なんて言ってたっけ。



 自分に棲みついたウイルスに名前を付けた途端、チョットマはウイルスに対する感情に変化が起きたと知った。

 名というものは恐ろしい。

 でも、付けてしまったものは仕方がない。

 割り切って、せいぜい聞き出してやろうじゃないか。

 それが嘘であろうと、でまかせであろうと。




「いつからパリサイドに住んでるの?」

ーーーはるか昔

「どれくらい昔?」

ーーーこの宇宙が膨張を始めて、数万年後

「えええっ! そんなに昔! じゃ、人間はまだ生まれていなかった?」

ーーーアンドロメダはまだなかった

「すごい! じゃ、地球のことは知らないのね」

ーーー……



「ウイルスなのに、話ができるってすごいね」

ーーー言葉は持たない

「でも、話してるよ。だれに習ったの?」

ーーーおまえだ

「そう……」



「仲間は?」

ーーー数千兆の数千兆倍

「すごい数。パリサイドだけで?」

ーーー今はあの星の中にいる

「大きな社会ね。リーダーは?」

ーーー私はひとりだ

「ん? どういう意味?」

ーーー……



「大規模なウイルスのコロニーがあるけど、あんた、一人ぼっちってこと?」

ーーー私はひとりだ

「こうして話ができるのはひとりだけってことね。相談できる人がいなくて寂しくない?」

ーーー寂しい、とは?

「ふーん。他の人は? あんたたち同士はどんな言葉を使っているの?」

ーーー我々は私だ。私はひとりだ




 そんな調子だ。


「あんたの仲間が、いろんな人に取りついたりしてるんでしょ。目的はやっぱり、恋とか愛のこと?」

ーーーすべては我々であり、私だ

「全部、フロッグがやったこと?」

ーーー私はカエルではない

「それで、最終的に何がしたいの?」

ーーーおまえごときに、私の意思を伝える必要はない

「ふうん、偉そうなのね。私の体に巣食って、栄養を得ているのに」

ーーー言っておくが、私はお前が思っているような微細な存在ではない

「じゃ、なんなの? ウイルスじゃないって言いたいわけ?」

ーーーおまえを作ってやったのも私だ

「いいえ。私はパパの娘よ」

ーーーイコマはアギだ

「だから? なんなの? というか、アギって、知ってるんだ」




 噛み合わないことも多かったが、こいつはこいつの理屈で動いているのだろう。

 徐々にではあるが、語彙が増えてきている。

 確かに感情を持たない声だが、それがないというのもどこまでが本当で、どこからが嘘なのか分らない。

 ウイルスだから人類より古くから存在していると言われても納得がいくが、人類に匹敵するほどの知性を持っていることは驚きだ。

 もしかすると、このウイルス個体の特性なのかもしれないが。



「他の人と、どんな話しした?」

ーーー話はしない

「そう?」

ーーー祈られる

「へえ! 例えば?」

ーーー病気にしろ、死なせろ、失敗させろ

「フロッグって、そんなこと、できるの?」

ーーーできないことはない

「じゃ、するの?」

ーーー……

「じゃ、なぜ、そんなことを頼まれるの?」

ーーー彼らにとって、私は特別な存在だ

「へえ! で、彼らって、パリサイドのことよね?」

ーーー……

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