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106/200

106 来るぞ! やばくないか?

「あ、来たのかな」

 見ると群衆の先頭部に動きがある。


 レイチェルの姿がスクリーンに映し出された。

 ざわめきが広がっていった。


「皆さんに、お伝えすることがあります」


 レイチェルはもう名乗ろうとしない。

 誰もが、自分たちの代表として、彼女を知っている。

 映し出されたレイチェルの顔が紅潮していた。


「本日の搭乗は延期となりました」


 語りかけるレイチェルは、どことなく微笑んでいるようだ。

「次回の搭乗予定日時は、追って連絡します」

 ざわめきが大きくなり、所々で歓声が上がった。


「皆さんに申し上げておきたいことがあります。延期は機体のトラブルというような理由ではありませんし、着陸先の環境が芳しくないというような理由でもありません。ご心配には及びません。あくまで、事務的なミスということです。想定よりあまりにも早く到着したことによる、情報伝達の祖語ということです」


 不安な要素はなにもない、とレイチェルが強調した。



 やがて、群衆がどっと崩れた。

 一刻も早くこの場から離れたいかのように。

 その波をかき分けてレイチェルが駆け寄ってきた。


「落ち着いて話せるところへ。あ、そうか。どこでも一緒か」

 通りであろうが部屋の中であろうが、既に会話は当局に筒抜けである。

「じゃ、歩きながら」



「実は」


 オーシマンの失踪。

 それが、原因のすべてだった。


 船長である彼なくして、船は動かない。

 他の船を着陸船として準備するには時間がかかる。

 パリサイドが搭乗するシップは、予定通り飛ぶということだった。

 現に、既に行列は跡形もない。


「私個人としては、もう少しアヤを探せるってことね」

 と、微笑む。



「これからどうする?」

「そうねえ……。市民の名簿は完璧にできたし……。これと言って、仕事はないわね」

 レイチェルは、後ろを振り返った。

 広場では東部方面攻撃隊の隊員達が目立つだけで、もう人はほとんど残っていない。


「することないって、しかし……」

「ンドペキ、じゃ、どうしたらいいか、教えてよ」

 ふうっ、と二人同時に溜息をついた。




 着陸船が飛ばなくなった。

 足止めがいつまで続くのかもわからない。


「まあな、行きたい人はほとんどいなくて、どっちでもいい人、行きたくない人が半分くらい、って状況だからな。たいしてすることはないか」

「アイーナ市長に、行きたくないのです、なんて言いに行く?」

「市長はさっさと着陸船に乗ったんじゃないのか?」

「まさか。いよいよお気に入りのミッションがスタートするのに? それにステージフォーっていうのも気になるでしょ」




「おい! あれ見ろ!」


 遠くの街並みが、霞がかかったようにぼやけて見えた。


「宇宙船にも霧が出るのか」

「いや、違う! 消えていく!」


 街の北部から、街並みが薄れていく。


 空が大きい。

 パリサイド星がやけに巨大に見えた。


「わわわっ」


 すでに、街の中央に立つキョー・マチボリーの展望台から向こうは、白い甲板が広がるだけでもう何もない。

 建物の外壁も、道路も街灯も、何もかもが色彩を無くし、そして透明感が増したかと思うとふっつりと消えていく。

 その変化の波の先端部が、もう近くまで押し寄せて来ていた。



「来るぞ! やばくないか?」

「逃げるか」

「どこに!」




 目の前の建物が消えた時、薄れていく歩道に立ってイコマ達は身を固くしたが、景色を消し去る波は音もなく、そしてどんな衝撃も与えずに通り過ぎて行った。


 残されたものは、金属質の床だけ。

 見渡す限り、真平らな世界。


 波に取り残されて呆然と突っ立っている人々が、床から発せられる淡い光にシルエットとなって、浮かび上がっていた。



「あそこに!」

 見れば、ところどころに小さな小屋が残されている。

 出入り口だろうか。


「スゥ! 行こう!」

 ンドペキが走り出した。



 アヤを探しに!

 今なら、会えるかもしれない!

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