102 プライベートなことなんですけど……
真顔に戻ったアングレーヌ。
「プライベートなことなんですけど……」と、一同を見渡した。
「あ、でも、席を外して欲しいという意味ではありません」
私達の思考の成り立ちについて、ご存じないと思いますので、少しお話を。
秘密でも何でもありませんし、私達にとっては普通のことなのですが、地球から来られた方には違和感のあることなので。
「JP01の指示にはありませんでしたが、私の一存で、お話ししておいた方がいいと思います」
「私は、イコマさんを愛しています」
「えっ」
「なっ」
「おお?」
「あらら」
そんな反応に、アングレーヌは困ったように手を額に当て、
「すみません。私の一部は、と言い直します」と、ますます分からなくなるようなことを言った。
「……?」
「驚かれたでしょう。しかし、もう少し話を聞いていただければ、意味をご理解いただけると思います」
そう言って、微笑んだ。
「私は、実際にこの目で地球を見たことがありませんでした」
アングレーヌは百四十歳だという。
パリサイドの年齢は見かけでは全く判断ができない。
マトやメルキトも、アギもそうだ。驚きはない。
しかし、百四十歳と聞いて、チョットマは動揺を抑えることができない。
「ええっ! 私よりちょっと上くらいかと思ってた」
「ええ。私もここでは若年層ですよ」と微笑む。
「私の思考の一部はJP01です」
なるほど……。
「ふん。そこが分からないね」
そう言ったライラだが、実際は気付いただろう。
つまり、イコマとンドペキの関係、ユウとスゥの関係と同じようなことだろう。
しかし、予断せずにアングレーヌの話を聞こう。
パリサイドは地球のことを忘れないため、様々な手を尽くしてきました。
いつかは地球に帰ろうと。
しかし、百年単位の年月が過ぎ去り、新しく生まれてくる命が増えるにしたがって、望郷の念を持つ人々に危惧が生じたのです。
地球に帰るという希望は、叶えられないのではないか。
「そこで、地球を知らない人々に、地球で育った人の記憶を植え込むことにしたのです」
望郷の念を失わないように。
帰還の夢を持ち続けるように。
「私に植え込まれた記憶は、JP01のものでした。なので、私はアングレーヌですが、心の中にユウの意識も同じようにあるのです」
大阪弁も、それなりにうまく喋れたでしょ。
「私にとって、JP01は他人だけど、他人じゃないような感覚なのです。だから、一度、ノブって呼んでみたかったのです」
「それって、イコマを取り合うことになるわけ?」
スゥの質問に、
「いいえ」と、きっぱり答えたアングレーヌの笑みは幾分紅潮していた。




