1 あいつら、何も言わないのよ!
「パパ! 大変!」
こんな風にチョットマが駆け込んでくるのは、これで三度目。
最初はサリがいなくなったといって。
二度目はセオジュンの姿が見えないと。
「そんなに慌てて」
「プリブが!」
と勢い込む横から、スミソが顔をのぞかせた。
チョットマはパリサイドの世界でよく見かける簡素な服装だが、スミソは武器を携帯している。
ここはパリサイド宇宙船団の母船。
狭い船室。イコマの部屋である。
パリサイドの身体を得て、下着の一枚さえ持たないイコマにとって、ベッドとテーブルと数脚のチェアさえあれば、事足りる。
顔を紅潮させたチョットマ。
「さあてと」
わざと悠長な声を出して、イコマは自分用の椅子に座った。
スミソは常に変わらぬ冷静沈着さで、いつものようにチョットマに付き従うように立っている。
「とんでもないのよ!」
「なにが?」
「逮捕されたのよ!」
「えっ」
「ひどすぎる!」
先刻、二人のパリサイドが現れ、プリブを連行していったという。
「ありえないでしょ!」
「理由は?」
「あいつら、何も言わないのよ!」
「うーむ」
前編「ニューキーツ」「サントノーレ」をお読みでない方のための簡単用語解説
六百年後の地球、二十一世紀の末に絶望的な人口減少をみた人類。生殖による人口増を諦め、いくつかの人造人間によって社会は構成されていた。
巨大太陽フレアによって壊滅的打撃を受けた地球をあきらめて、パイサイド星域に旅立った人類。
人類の構成は、次のとおり。
●ホメム
=通常の生殖によって生まれた人間。この物語に登場するホメムは、ニューキーツ長官レイチェルのみ。
●マト
=再生され続ける肉体を持つが、記憶は失われていく。再生時のミスで、異形となった者もいる。スジーウォンやコリネルス、アヤなどがマト。
●メルキト
=マトとマトの子供、あるいはマトとメルキトの子供など。普通の人間だったことがない。男女が恋をすることがなくなって久しく、メルキトの数はそれほど多くない。
●アギ
=六百年前、肉体を得るより記憶が失われないことを優先した人。電脳の中で生きる存在であり、思念の人と呼ばれている。この編では、パイサイドによって、彼らの肉体を与えられている。主人公イコマはアギ。スミソは特殊な例で、死亡時にパリサイドによってその肉体を与えられている。
●アンドロ
=使役するために生み出されたアンドロイド。真面目で勤勉。人類に奉仕することを当然と考えている。元は、彼らの次元とこの人類次元を行き来していた。肉体、思考共に生身の人間と遜色はないが、友情や愛情など、感情面は単調。ごくわずかな人数が生き残っている。レイチェルのSPであるマリーリ、バーのマスターでありレイチェルのSPであるイエロータドはアンドロ。
●クローン
=製造が禁止されているが、ごく少数いる。チョットマとサリは、レイチェルのクローン。ンドペキとスゥは特殊な例で、それぞれイコマとユウのクローンだが、マトとして生を繋いできた。
●パリサイド
=数百年前、宇宙に旅立った「神の国巡礼教団」の生き残り。地球に帰還してきたが、宇宙空間で生きていくためのすさまじい力を有している。イコマの恋人ユウはパリサイドとなって地球に帰ってきた。地球人類を、巨大太陽フレアから救出し、パリサイド星域に連れて行く。パリサイド社会については、まだ、秘密が多い。




