世界を挟んだ同族嫌悪
「夜分ですが、いいですかな?」
そう言いながらルデラは俺の部屋の中に入ってきた。聞く意味無いじゃねえか。
「はあ……、ではここにお座り下さい」
そう言って俺は渋々部屋にあった椅子を移動させる。
「いや、すみませんね」
ルデラは椅子にどかっと座った。椅子が甲高い音を立てて軋む。
「何か、用事でもあったのですか?」
俺はルデラにできるだけ早く帰って欲しかったので、用を自分から聞き出した。するとルデラは息を飲むような仕草をして、話を切り出した。
「松本、裕司様でしたな。貴方に折り入って話があるのです」
先程とはまるでルデラの様子が違った。傍若無人な態度だったが、今は不安のような感情を顔に滲み出している。
「先程、玉座で私は貴方達を召喚したと言いましたな、その方法をまだお話していなかった筈です」
俺達が召喚された場所は玉座だったらしい。それらしき物が一つも無かったので分からなかった。
「何故、俺にそんな重要な事を?」
「貴方は私に似ていると思ったのですよ」
そう答えになっていない答えをルデラに返されて俺はムッとしたが、思い返すと確かに俺とルデラは似ている所が多い。傍若無人な態度以外は。
他人を心の中で嘲っている点や、敵意を始めに持って相手に接している点も同じだ。俺が抱いていたルデラへの嫌悪感は同族嫌悪だったのかもしれない。
「貴方達の召喚に、膨大な量の魔力を使うのはご存知ですね?」
ルデラの問いかけに俺は相づちを打つ。
「その大量の魔力は、私の養子から供給されたものなのです」
「養子、とは誰のことですか?」
「玉座にいた、金髪の少女のことです」
成る程、あの少女は魔力を魔法陣に金髪し過ぎたために倒れた訳か。となると……
「私は、貴方を召喚するためにあの少女、リラを養子にした訳です。いえ、利用したと言ってもいいでしょう」
「リラ、さんを利用したとはどういう事ですか」
ルデラは俯きがちに答えた。
「あの子には並外れた魔術の才能がありました。それもこの国、いや世界的に見ても珍しい程のです。そこに目を付けた私は彼女のその才能が、膨大な魔力が禁術である勇者の召喚に利用できると判断したのです」
つまりリラという少女は俺達を召喚するためだけに養子にされたということだ。本人にとっては親から急に離されたようなものだろう。
「いくら私でも罪の意識は感じます。その時はいつ攻められるかの不安で目が眩んでおりました」
「俺の部屋に懺悔をしに来たと言う訳ですか?」
「ええ、召喚された貴方達の誰かにこの話をしなくてはならないと思いまして」
全く利己的な奴だなと思った。しかし、国の事も考えているのならそれほど愚王、といったものでは無いのかもしれない。
今話すべきだと思ったので、俺は明日、この城から発とうとしている事をルデラに打ち明けた。
「この私に嫌気が差しましたかな?」
「いえ、私の特殊魔法はこの国の利益にもならないし、世界を見て回りたいなと思ったので」
確かに嫌気は差していたが、建前と本音が入り混じった理由を説明しておいた。
「私が勝手に召喚しておいてとやかく言う筋合いは無いでしょう。この世界に誘拐した様なものですしね。魔王殺害の件も無理強いはしません。」
そう言ってルデラは俺が旅に出る事を承諾してくれた。
ルデラが俺の部屋から出て行った後、俺は泥沼に沈むように眠りにつくのであった。