この夜空に翼を広げ飛んで行きたいよ
俺達はその後、自室を与えられ、騎士に案内されている。
ルデラとの対等ではない取引が終わった後の、彼からのこの世界についての説明を俺は思い出していた。
まず、この世界にはルデラが時折口にした様に、魔法が存在する。まるでファンタジー小説だ。
通常、魔法は属性というものを持ちそれぞれ火、水、地、風という属性があるらしい。だいたいの人間は一属性しか使えないが、ルデラを護衛していた騎士は全員が二属性以上使えるらしい。所謂エリート集団だ。
しかし、俺達が行使できる魔法は普通の魔法とは一線を引く存在らしく、特殊魔法と呼ばれる。その性質は完全に人それぞれ違うらしく、この世に一つしか存在しない特別な魔法らしい。生物が稀に獲得したり、後に述べるこの世界でいう異世界人が確実に会得しているとルデラは言っていた。
異世界人がこの世界に来るには二通りのパターンがあるらしい。
一つは俺達のように召喚魔術を使ってこの世界に召喚する場合。しかしこの方法を使うには尋常で無い魔力(生物が魔法を使う際に消費される物らしい)を消費するらしく、ある方法を使ってそれを可能にしたと言う。
そしてもう一つは、自然現象で異世界に転移する場合だ。俺達の世界で言う『神隠し』がこれに当たるだろう。この場合は大抵野垂れ死にか、誰かに保護されて平和に過ごすかの場合があるらしい。この世界には確認されているだけで千人もの異世界人がいるという。そこまで多いとは思わなかった。
最後にルデラが語ったのはこの世界についてのことだ。この世界は四つの大陸があり、このガンデラ国があるのはデクリーズ大陸という名前らしい。この場所が王城ということも話してくれた。
またこの世界には幾らかの種族があるらしい。主な種族は人間族、魔族、そして獣族の三つだ。このそれぞれの種族は正に争いの歴史であり、獣族が人間族を奴隷としたこともあれば、その逆もあったらしい。唯一独立を保っているのは魔族の最大都市、エルーシャ国だけである。
また生活の様子などは中世ヨーロッパにとても似ているということが分かった。まあそれも地域によって違うのだろうが。
こう考えている間に、俺は自室に着いた。案内をしてくれた騎士にお辞儀をして感謝を示しておく。あんな愚王を護衛しなくてはならないなんで面倒なことだろう。それを口にしたら不敬罪だの言われて牢獄入りするのだろう。
自室で俺は如月から魔法で劣化コピーした『翼を生やす』魔法を使ってみることにした。
背中あたりに集中し、念じると白い翼がもくもく煙のようにと生えてきた。なんだか奇妙な感覚だ。翼は思い通り動く様で、上下に軽く動かすことが出来た。また、消えるように念じると一瞬で翼は消滅した。今度空を飛べるか挑戦してみたいものだ。
こっちの世界ではもう俺達が召喚された頃には夜だったのだろう。大きな満月が空に浮かんでいた。こういう元の世界との共通点を見つけると安心するのだ。
ベッドに背から倒れ込んで、今日一日あったことを整理してみる。未だ現実味は湧かないが、ここが異世界だという事。ルデラとの取引の事、まあこれは素直に叶えてやるつもりはさらさら無いが。そして、特殊魔法の事だ。
自分の特殊魔法は如月や宗谷と比べると使い勝手はいいが、弱いのだ。コピーした魔法は劣化版であり、宗谷のように影を操り攻撃することもできない。恐らく如月もあの光り輝く翼で何らかの攻撃を行えるのだろう。そう考えると、自分には二人への対抗手段が無いのだ。
明日、自分からこの城を出て行こうかなと俺は思った。このままこの城でのんびりと過ごすのもルデラの思う壺のようで癪だし、城を追い出されるであろう宗谷はともかく如月と一緒に過ごすのは面倒臭いし、俺の特殊魔法を勘付かれるのも嫌だからだ。
そして、自分自身が元の世界に帰る方法を探すということも含めて、この世界を見て回りたいという願望があった。
これ以上この城にいるメリットもあまり無いので明日王城を出て行こうと決意した。
突然、俺の部屋のドアをノックされる音がした。返事をしてからドアを開けると、ルデラがそこには立っていた。