ビザール
「では、みなさん。取扱いには充分注意して、発表の続きをしましょう。次、原田君」
返事をせず、原田とやらが不安な表情で現れた。注射を受けるような、小太りの彼。
「えっと、この間の運動会の様子をデジタルカメラに収めましたが、えっと、偶然映っていました。俺の妹なんですけど、なんか実現していました。今から用意します」
と、原田は専ら教育番組専用であるところの教材用テレビに三色コードを接続し、デジタルカメラにも結んだ。
いやはや寂しくなった児童らは平然と見始めていたので、僕は安心した。安心ついでに、とある女子が戸口に立っている所を見つけてしまった。彼女は糸車と行き違いで、僕が放った机の残骸を成す術もなく拾ってきただけだった。視線が合うと女子はうつむいた様子で、もはや椅子のみとなった自らの席へと落ち着くのであった。
僕は女子の髪型であるところの切り揃えられたボブヘアーを撫でつけ、撫でつけつつ、別の髪型に変じさせていくのであった。
原田の説明は続いていた。テレビ画面を指さし、
「えっと、妹は見ての通り、ボールを三つ抱えてゴールまで運ぶという競技に参加して、それから一つ落としました。なんか、手が滑ったみたいです。それを拾おうとして、別の一つを落としてしまい、またそれを拾おうとして、別の一つをまた落としてしまいました、以上です」
画面には赤白帽子をチョコナンと載せた女の子が、青色のボールに解説通り手を焼いていた。
落とし、掴み、落とし、掴み。
延々と続くのだった。
掴み、落とし……。
他の者が別の競技に移行しても、その妹は繰り返すのだった。背後では学年別の出し物らしい旨の放送が流れ、大勢の児童らが円陣を組み、何やら踊りだしていた。
が、しかし、妹はボールを追い、逃がしてしまう。
落とし、落とし、掴み、掴み……。
小一時間経過しても延々と進展はなく、妹は拾い続けているわけなのだが、次第にその面差しが変容してきたのだった。目の縁に筋のような盛り上がりが窺え、顔色が黒ずみはじめた。
そうして徐々に彼女の所作が早まっていく。とある女子の頭髪をいじりながら、やがて三倍速になったかしらんなどと注視していると不気味なことが生じた。というのも、妹の面魂が鬼女に変じた式のメントモリとなると、彼女は不意に弾けた。ボールを拾っては落としを繰り返し、繰り返し……ついにはあまりにも繰り返してしまったために、その胸許から新しい宇宙が生じてしまった。漆黒な空洞はブラックホールのように妹を飲み込みんだ。
そして、ああ、そしてそしてのそして式に、全くもって瞬時であったが、はっきりと白光に包まれ昇天してゆく未完の胎児ども式の人々が見て取れたのだ。諸行無常の風に晒された天命訪れぬ死線人生の一切合切が、発狂の光を放出する仏の御使いに喰われ淘汰されていくヴィジョン。自然淘汰、人為淘汰の中間に挟まり、息を潜めているその者の名は、名は、それの名は……。
僕はわざと忘れたフリをして、気づかないフリもした。
恐いから――間抜けな侏儒に徹しよう。
続きます。