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佯狂学校  作者: 佐暮
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気がつくと

 僕はふと気がつくと、とある一室の隅っこで待ちぼうけをくらっているのだった。

 というのも、僕には判然とした時間の法則というやつが当てはまらないのだ。まるで瞬きをした直後のように、僕は色々な所で立ち尽くすのだ。高所低所、無人有人かかわらず、自身ですら突発的な状況を把握できていない。

 僕自身の「時間法則」とやらが成立しない、まるで幽霊のようにポッと現れる、このおそらくは現象と呼べるものは、あくまでも「突発」の語彙に掠めるものと説明した方が良いか。

 この現象に陥った理由に心当たりがないでもない。いわゆる「生前」、僕はちょっとした好奇心で薄汚れたラジオから流出する「電波」に掴まって、飛行しただけなんだ。遥か上空を空気が黒ずんでくるほどまで上昇し、気づいた時にはもう僕は「夢の生活」を手に入れていたのだから、まあ多少未練はあったものの、今の隠遁生活には満足している。

 余計な回顧はともかくとして、僕の眼前では学校らしい授業風景が展開されていた。

 「というわけですから、みなさん、注意事項をよく読んで見知らぬ人には絶対についていかないようにしましょう。それに夏場は水の事故がとても多発しますから、家族と海に出かける時は、云々」

 三十代といった男性が緑色の冊子をいちいち指差しながら、落ち着かなげな児童らの前で何やら説明していた。その光景はやはり学校の授業風景であるらしい。

 児童らの机にはひまわりの鉢やら、青色赤色の道具入れやらが思い思い乗せられていて、そのまま持ち主の気持ちを代弁するように賑やかであった。整然と配置する子、そっちのけで後ろの友人とおしゃべりする子、見かけは違えど、教室はそわそわして慌ただしい何やら楽しそうな雰囲気に包まれていた。

 僕はヒョッと児童の一人を覗き込むと、男性が読み上げた冊子を誰もが配布されていることに気がつく。

 『夏休み便り。夏休みを楽しく過ごすためには』

 と、冊子に題され、それ以下には先ほど教諭であるらしい男が読んだ事柄が箇条書きされていた。もとは手書きであった物をコピーしたようで、目の粗いわら半紙に色をつけ綴じてある。児童は来たるべく夏休みに興奮気味のようで、指が緑色にそまっていた。汗で脱色したのだろう。

 「では、みなさんに通知表をお返しします、阿子さん」

 教諭は出席番号順に読んだものらしく、すみの方から順々に取りに来させた。彼は髪を短く、染めることもなく切り揃えた頭はスポーツマンのような印象を受ける。シャツの半袖、スーツのズボン、おそらく暑い中をキッチリとネクタイを締めて、笑顔で通知表を手渡していく彼は健全な子供好きの教員というべきか。快活とする声は歯切れ良い充実とした感を覚えさせる。夏休みに入れば暇ということもないだろうが、節目として子供を家庭に返す安堵感が滲んでいるようだ。

 「では、みなさん。ちょっと静かにして下さい。まだ宿題が配り終えていませんよ」

 通知表に一喜一憂する児童らの心が急に萎んだのか、ところどころで不満の声が上がった。

 教諭はさも面白そうに、ニッカリと笑みを浮かべて、

 「夏休み中遊んでばかりでは、みなさん退屈でしょうから」

 と、再度「エー」という不満が一層大きくなった。

 教諭はみなを制してから、

 「ですが、課題は先生が出すもので、これはとても興味深いことでもあります。それほど難しいものではないです。今から課題を出しますので、みなさんはその範囲内で、自分の思う通りに作って下さい。その題とは」

 教諭はいったん言葉を切ると、黒板に大きく書き始めた。視力に乏しい僕は目を細めて睨みつけてみた。すると、

 永遠の「永」 永久の「久」

 機関の「機」 機関の「関」

 と、書き上げ改めて、

 「永久機関」

 と、清書した。

 「ええ、みなさん、これはエイキュウキカンと読みますよ。一体何なのかと申しますと、夢のエネルギーです。みなさんはテレビゲームをする時や夜電気を点けてマンガを読む時、たくさんのエネルギーを使っています。それは発電所と呼ばれる電気エネルギーを作る場所から送られ、みなさんに配られていますね。でも、これらは場所の問題や事故を起こした時の不安から、云々」

 「でも、この永久機関とは全く落ち度のない、すごく便利な機械です。環境破壊も起こりません。でも、まだ発明されていないのです。そこでみなさんに各自ひらめいた考えを元に、簡単なもので構いませんから、是非ともこの装置について、たくさん考えてきて下さい」

 「お友達と相談しても結構です。ですから、みなさんの工夫で完成させてみて下さい。これから、その参考となるプリントを配りますね」

 教諭はすみの方から白地の紙を配りはじめた。最前席の子が一枚とって、残りを後ろへ回し、ほどなく配布終えるだろう。

 が、それを見届ける間もなく、僕は再び時空へと流されていくのだった。

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