先輩の悪いとこ
文武両道と才色兼備、それは彼女の為にあるような言葉だと思った。更に明るく誠実な性格で性別問わず人望が厚い。そして走るのが好きだと言っていた癖に、何故か陸上部に入らずサッカー部のマネージャーをやっている。私が最も尊敬している先輩の特徴はまだまだあるがこれくらいにしておこう。因みに名前は吉岡恵美、赤みがかった髪と自信に満ち溢れた目がチャームポイントだと考えている。
私は中一の頃から先輩を追い続けている、先輩も私を待っていてくれてる。この関係を壊すつもりは無い、もしそんな事があったら死んでも構わないとすら思ってしまう。それ程私は好きなんだ、優しくて強くて頼れる世界一素敵な先輩の事が。
しかし、そんな先輩は人を殺した事があるらしい。やたらつっかかってくる先輩の友達が私にそれを教えた。勿論最初は信じていなかったがあまりにもしつこく言ってくるので一時期は事実なんじゃないかと相当悩んだ。
「先輩は人を殺した事があるって、本当ですか」
二人きりの帰り道で、馬鹿みたいに単刀直入に聞いたことがある。もっと別の言い方は無かったんだろうか。返事は言うまでもない。
安心した。やっぱりあの人は嘘を吐いているんだ、私と先輩を引き離そうとしているんだ。あの人も先輩が好きで私に嫉妬しているんだろう。先輩はあんな不良からも好かれるのか、流石だな。
「そうですよね、先輩はそんな事しませんよね」
先輩を疑った事の方が馬鹿みたいだ、そんな人じゃないって分かっていたのに。でもあの時ちゃんと笑えてるかちょっとだけ不安だった。
「寺坂おはよう」
「、おはようございます」
例の先輩の友達、有岡さんがいつもの嫌らしい笑みを浮かべながら私に向かって手を振った。
有岡さんは捻じ曲がった性格の割に友達が多い。でもその友達より私を優先しているらしい、私を見つけると友達との話を雑に切り上げてすっ飛んでくる。それ程好かれてると思うと悪い気はしないが、毎回くだらない話をするのは勘弁して欲しい。
「そう言えば恵美の事なんだけどさあ、聞きたい?」
「殺人はもう聞き飽きまし「そうじゃなくて、家族の話」…何ですか」
先輩とはそれなりに長い付き合いだと思っているが、家庭事情などを聞いた事があまり無かった。可愛い妹がいて犬を飼ってる、それくらいしか知らない。
有岡さんは先輩と幼馴染みで子供の頃から一緒だったと先輩も言っていた。悔しいが私が知らない事を有岡さんは知ってるのが当たり前かの様に軽く言う、そういうところも含めて私は有岡さんが苦手だ。
「恵美の妹ね、明日香って言うの」
「それは知ってます」
「あっそ。で、その明日香がさあ、餓鬼の癖に何でも出来たんだよね」
「先輩に似たんですね」
「違う違う、その先輩が明日香の真似をしたの」
「は、それって「妹と比べられたくないから寝る間も惜しんで頑張ったのにねえ、それでも親は明日香を贔屓したからむかついてやっちゃったって訳」…どうせ、いつもの嘘ですよね…」
嗚呼、この人の話は妙にリアルだから嫌なんだ。と言うか結局殺人の話じゃないか。
前半では寺坂は有岡の事がとにかく嫌いだったけど後半ではまあまあ喋る仲になったっていうとんでもない後付け設定。もう訳が分かりません。