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その九

「リコ、リコ、朝だぞ」

「ん……ん?」


 私は誰かに肩を揺すられ目を覚ましました。男の声です。ああ、眩しい。朝なんだ。草木や土の匂いがします。山にでもいるのかな?

 私は眠たい目を擦りながらあくびをし、光を眩しく思いながらあたりを見回しました。匂いで思った通り、木がたくさん目に入ります。山にいるようです。あ、森かな? 高校に入る前はよくおばあちゃんたちと登っていた山を思い出しました。懐かしいな……また登りたいけど、そうだった、私はもう死んでいたんだった。もう二度とおばあちゃんの顔、それどころかお母さんの顔もお父さんの顔も友達の顔も顔も見ることができないのです。今はグロリスの身体に入ってしまっていますが、グロリスがこの身体に帰って来られるようになったら私は天界というところへ行ってきちんと死ななければならないのです。……ああ、朝から憂鬱だ。これを現実として受け止められている私って、なかなか肝が据わったすごい奴じゃないですか?


「いつまでぼーっとしているつもりだ?」

「え? あ、ああ、ごめんなさい」


 男の声が呆れたように私に言います。そういえばそうだった。たしかエル……エル……エルなんとかに行くって話でしたね。もう着いたんでしょうか。

 私は少し辺りを見回してから声の主を見つけました。私のすぐ右前に、ゲームとかでよく見る冒険者のような出で立ちの男が立っていました。おお、なかなかカッコいい人じゃないですか。イケメンですよイケメン。焦げ茶の短髪で良い感じに小麦色の肌をした、20代中盤あたりの男の人です。

 えーと……誰? シグくんのお知り合い? あれ、でもこの不思議な瞳の色には見覚えが……


「……? あの、すいません、どちらさまですか……?」


 うへえ、知らない男の人だぁ。イケメンでもだめだよ、シグくんじゃないんだものショタじゃないんだもの。

 そんな私の心中を知ってか知らずか、男の人はニヤリと笑うと腰に腕を当てて言い放ちました。


「俺はシグだ! どうだ、驚いたか?」

「…………はい?」

「俺はシグ。古龍で昨夜おまえを乗せて飛んだシグだ」

「いや、でも、シグくんは私のショタ……」

「全く……。何度言えばわかる。我は古龍、お前たちの何倍も長い年月を生きている。そのショタとやらはおそらく子供を指す言葉なのであろう? 私は魔法を使って自由に姿を変えることができる。度々感じるその視線が気に入らないから、こうして別の形を取ってやったのだ」


 そんな采配いらない!!!


「い、今までずっと子供の姿だったじゃないですかぁ……!!」

「その必要があったからだ。子供の姿をとっていたほうだあの時は最善策だったのだ。しかし今は違う。今のおまえは弱い。戦えない男と子供の二人組など、いいカモにも程がある。それにおまえはココのことをほとんど何も知らないだろう。案内や説明を一つ一つしてやらねばならん。小さな子供よりも大人の方が、いろいろと適役だろう」

「私は別に子供に手取り足取り教えてもらってもなんの恥も感じません!! むしろ大歓迎です!!」

「………………」


 な、なんですかその残念なものを見るような目は!!!


「……フンッ。ますます子供の姿になるのが嫌になった」

「ええええええええっ!!? なんでですか!! 私から癒しを奪うんですか!! この薄情者おおおおおお!!!」

「薄情者で結構。ほら」


 薄情者のドラゴンは私に茶色いマントを投げてよこしました。フードがついています。よくテレビとかで見るやつですね! ホントに見るのは初めてだ……。


「今から街に入るが、おまえの顔は知れている。一応顔を隠せ。……それと、口調」

「口調?」

「おまえは男だ。なぜか俺が大人になってから敬語だが、あまり女がするような発言は控えてくれ」

「あ、そうでしたね」


 そういえば、私今男なんでした。異世界に来てまだ五日目ですが(五日? もっと長い気がする)、コレが男の身体だということは重々承知しています。お風呂に入れてもらった時のあの衝撃……忘れたい。というか、コレから排泄とかどうしよう? 私どうすればいいかなんてまったくわからないよ!!


「それに……」

「……?」

「グロリスの顔で、声で、いろいろとなよなよしてるの、なんか嫌だ」

「…………」


 そうでした。私は、私じゃなかったんだった。グロリスという人だったんだった。さり気なく顔をそむけてるシグ……シグさんは、隠してはいるんでしょうが悲しそうな顔をしています。そりゃそうだ。これまで慕ってきた“グロリス”の身体にこんな残念女が入り込んでいるんですから。

 …………。


「グロリスって、どんな人でしたか?」

「……どんな人だったか、か。グロリスはまだ死んでないのだろう?」

「え、あ、はい」

「死んでいないのなら過去形を使うな」

「うあ、ごめんなさい」


 あはは、私としたことが。


「グロリスは、英雄という存在の典型のような男だ。しかし、多少強引で人間らしい弱さも持ち合わせている。……まあ、だいたいこれで想像できるんじゃないか?」

「へえー……。わかりました。努力します」

「努力?」

「はい。そういう人のイメージを壊さない程度にこの身体にはいってますね。でも、グロリスみたいにはなれませんよ?」

「あたりまえだ」


 シグさんは呆れ気味ですが、私、がんばります! ショタコンは……ショタコンは封い……ふう、ふういん……。

 …………。


「シグ、さん?」

「なんだ?」

「私、頑張るので……がんばるから“シグくん”に戻ってもらえませんか!?」

「却下だ」

「酷いっ」


 即答でした!! シグさんは私から萌えを奪った!! 救いを奪った!! ショタコンの封印はしないことにしてやる!!

 覚えてろおおおおおお!!!


「いい子にしてたら考えてやらんこともないから、とりあえず街へ入るぞ」

「はーい」

「……なんだその反抗的な目は」


 だってシグさんがショタじゃないんだもん。考えてやらんこともないって、絶対そんなことしないでしょ?


「とにかく、街に入ったらとりあえず俺の隣で黙って見てろ。いろいろと勉強すべきものがあるだろうからな」

「はいはい。わかりましたよ」


 もうどうにでもなれ。

 私は渡されたマントをしフードを目深にかぶると、シグさんの隣に並びました。

 いいもん。別にシグさんがショタでなくとも、妄想パワーでなんとかするんだもんね!


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