その六
主人公がショタへの愛を少しだけ叫ぶところがあります。
苦手な方はご注意下さい。
は~い、回想は終了ですよ~。
私は魔王討伐の祝賀パーティーでどこそこ連れまわされ、ようやく今部屋のベッドに沈んだところでした。
はあー、つかれたああああ。なんなんだよもおー。なんで私がこんな目に会わなきゃいけないのお? もうやだ帰りたいぃ。マントやらブーツやらを脱ぎ捨てて、完全に脱力状態に陥っている私マジ乙。ったくグロリスマジどこ行ったし。ちょ、おま、場所かわれや。ポジション交代しろや。俺に主人公なんざ似合わねーんだよ。ヒロインも似合わないけど。ウサギになってラメントたんになでなでされたい。いやむしろウサギなラメントたんをなでなでしたい。グロリスめ、呪ってやるううう。
そんなこんなで悶々としていると、コンコンとドアをノックする音が控えめに響きました。
「勇者様、アマリリスです」
うわっ、めんどうなのが来た。彼女、なんか妄想癖があるみたいなんですよ。めんどくさいなあ……でも私は今グロリスです。きっと、たぶん、一国の王女の訪問を拒否するようなことはしない……んじゃないかな。
慌ててブーツを履き見苦しくない程度に乱れた髪を手ぐしでさっと直しながら扉へ向かいます。グロリスはかなり整った顔をしているので、多少の乱れくらい顔でカバーできるでしょう。
「はい。……王女様、こんな時間にお供も付けず、何の御用でしょうか」
疲れであまり当てにならないけど、眠気的にはけっこう遅い時間です。こんな時間にひとりで男(一応ね)の部屋に来るだなんて、普通に考えたら頂けないでしょう! というかさっさ帰れや!
「まあ、勇者様ったら。私たちの仲ではありませんか。ご容赦くださいまし」
「…………」
私たちの仲って何ぞ? 仲が良かった感じはないんですけど。どうなのさ、今ここにいないグロリスさんよ。あんたはこの人と仲が良かったのかい?
「出発前夜のあの日、この部屋で契りを交わした私たちは、再開した時に続きをしようと約束したではありませんか」
「ち……契り?」
え、それって何。婚約? 彼氏できる間もなく結婚? 一国の王女と? 同性と? というか、続きって?
「さあ、勇者様……」
そう言うと、王女は私を上目遣いで見ながら近付いてきました。私の……グロリスの胸に寄りかかり、私を見上げました。そういえば、王女の服、なんか薄くない? ネグリジェってやつじゃない? というか、エロくない?
「ん……」
「へ……?」
あっれれ~? なんか顔をこっちに向けたまま目を閉じちゃったぞ~?
私、残念ながら純粋ちゃんとかそういう可愛らしい子ではないので心当たりがあっちゃいますよ。コレはアレか? アレなのか? キスを求めてるのか? 女の私に? いや、身体はイケメソ勇者のグロリスなんですけど。
い、一応、確認、とってみる、か……。
「あの、王女様? い、一体どういうおつもりでしょうか……」
「もちろん……」
王女はちらりと天蓋付きのベッドを見てポッと頬を染めました。そこらへんの男なら一撃であろう破壊力……だがしかああし!! ありえん!! ありえんありえん無理無理無理無理!!! だって……ねえ!? 普通に考えて無理でしょ!?
「王女、申し訳ありませんが……お断りさせていただきます」
「勇者、さま……?」
「もう遅いので、早くお部屋にお戻りになった方がいいかと思われます……」
王女は信じられないという顔で私を凝視してきます。やめてやめてこっち見ないで。ホントに無理なんですって。やり方とかしらないし、まず私女ですし。はしたないどころじゃないですって!!
「……よ……」
「え?」
「……そよ。嘘よ。嘘よ嘘よ嘘よ……! あなた、偽者なのね!?」
「っ!?」
王女様あああああ!? ばれた!? 今までのは全部演技で、私が本物のグロリスであることを確認するための茶番だったっていうの!? 嘘だろおお!? レベル高すぎだよ!! わかんなかったよ!!
でもやばい。ばれた? ホントにばれちゃったの? やばいんでしょ、それは。……もう少しだけ白を切らせてもらおう。それで無理なら逃亡だ。私はそう決意すると、メラメラと狂気じみた炎を瞳に宿した王女に向き直りました。
「な、何を言っているのですか。私は本物のグロリスです」
「違うわ!! 違う!! 違うに決まってる!! だって私の勇者様なら、私を優しく抱いてくださるはずなんだもの!!」
「そ、そんな……っ」
「優しく口づけをして、抱き上げてそっとベッドに横たえ、服を脱がして……!! そう! あの時のように!!」
グロリスウウウウウウウウ!! てんめえ一国の王女様に手ぇ出しやがったのかクソがああああ!! おかげで面倒なことになってんだろうがよおおおおおおおぅ!! というか、グロリスあんた童貞じゃなかったのおっ!!? なんかそれショックなんですけど!! 女として、今貴様の身体に入っている身として、なんか……なんか……なんだか穢れた気がしてしまって……!
「王女、どうか落ち着いて下さい!! 私にはできません!!」
口から出てきたのは若干裏返り悲鳴じみた男の声。ああ、私にどうしろと言うんだ!! ヘルプ!! 誰かマジでヘルプ!!!!
「兄ちゃーん?」
「シグ!!」
救世主キタアアアアアアアア!! シグたんマジ天使マジ救世主ありがとうありがとう来てくれてありがとうそしてありがとうシグたん可愛いよ愛しいよシグたんぺろぺろハァハァげふんげふん。
「…………」
って、あれ、シグくん? なんか顔無表情になってますよ? 一歩さがっちゃったよ? はっ! もしや、私のよく友人たちにアブナイと言われるショタコン魂を垣間見てしまったのか? 心の中読めちゃったのか? ごめんよシグくん怖がらせちゃって。けして悪気があった訳ではないんだよ、うん。だからそんなゴミを見るような目で私を見るのやめよう?
「あら、シグではありませんか。どうかしたの? 申し訳ないけれど、今夜はここに入っちゃいけませんことよ。私たちはこれからお楽し……」
「シグ! どうしたんだ? 何、みんなが呼んでる? それは仕方ないな! すぐに行くよ! 申し訳ありませんが王女、今夜は失礼させていただきます! また明日! 良い夢を!」
「ゆ、勇者さまあっ!?」
私は誰にも言葉を挟ませる間もなく喋り、自分にあてがわれた部屋をシグをつれて飛び出しました。追ってくる王女をまいて、ようやく一息付けました。
「ありがとうシグくん。シグくんが来てくれなかったらどうなっていたことか……」
「別に。ただ嫌な予感がして行ってみたらああなってただけだし」
まだ少し瞳に冷たさが残ってます。うひょーこえー。
「リコ」
「ん?」
「何か勘違いしているかもしれないので一つ言っておく」
あ、声色と口調変わった。これはきっと古龍モード……
「我は、お主より大分長く生きておるぞ」
「…………」
「この姿とて、人の目を欺きやすいという理由で使っている。本来の姿は龍だ。忘れるな」
「…………」
……………………。…………ぶわっ。
「!?」
そうでした、そうでした。シグたんは……シグは、おじいちゃん……おじいちゃん………………ショック!!
「ごめんなさい、そうでした。とてもとても失礼な事を考えていましたごめんなさい」
「……い、いや、別に怒っていた訳ではない。だから許すから泣くな。な?」
「うん……」
マジ泣きしてた訳じゃないからすぐに泣きやめるよ! ただね、ただね、なんかコッチ来てから純粋なショタっ子にはまだ全っ然出会えてないということに気付いてちょっと寂しくなっただけなんだよ! 私、ショタ運ないのかな……。
「ところでリコ。カーティルたちはおまえがグロリスではないと気付いたぞ」
「……へっ!?」
あ、やっぱり? という気持ちが強かったのですが、やっぱり少し驚いてしまいました。
「カーティルが見抜いた。ついでに言うと、我の正体も龍だと感づいておる。全く恐ろしい女だ」
シグは少し笑ってから腕を組むと言葉を続けます。うん、様になってるな~。中身がおじいちゃんでもやっぱり可愛い。可愛いは正義、これ絶対。
「そこで、お主の前には道が二つある。開き直って協力を求め仲間と共に魔王探しをするか、ここから逃げ出して単独で魔王探しをするかだ。単独行動を取るなら、我も同行してやろう」
「えっ!?」
えっと……。落ち着いて考えよう。って、いやいや、考える必要なくね? この状況なら選択肢一個しかなくね? シグくんどうして選択制にしたし。
私は迷わず道を選びました。
「荷物、纏めて来る」