その四
明日からの旅程をザッと確認して皆が部屋から出て行った後、私は背伸びをしているところでした。
「……なるほど。たしかに異色だな」
「!?」
いきなりのことでびっくりして、ベッドにひっくり返ってしまいましたよ。ベッドにひっくり返って逆さまになった顔には見覚えがありません。男の子です。男の子が宙に浮いてます。男の子です(大事なことなので二回ry)。でもなんでしょう。とても禍々しい物を感じました。10歳くらいの男の子なのに。
私の後ろに立っていたのは、浅黒い灰色の肌に漆黒の伸び気味な髪をした、黄金色の瞳の男の子でした。端正な顔立ちは冷たい無表情で固められ、私を見下ろす凍えるような寒さを纏った瞳はとんでもない威圧感があります……が、ショタでした。か、……かわいいっ!! かわかっこいい!! 禍々しいのに、かわかっこいい!! 何このギャップ感!?
……さて。どうしようか。この子は誰だ? どうやらグロリスを知っているようですが……。
「忌々しい」
そう吐き捨てるように言うと、男の子はゆっくりと近づいてきました。
『リコ!!』
「ふぇっ!?」
不意に響いた声に変な声がでました。グロリスが目覚めたのです。男の子も動きを止めました。
『どうしてアイツが!? 封印は成功したはずだ!!』
「へ……?」
え? ど、どういうこと?
「クソ勇者め。やはり生きていたのか。ゴキブリ並だな」
『それを言うのはこっちの台詞だ! ……と言ってくれ。俺風にだぞ』
「あー、……そ、それを言うのはこっちのセルフだ!」
口すら動かせないんですね。ちゃんと言ってやりましたよ。ちょっと棒読み気味になったけど。
にしてもどうしよう、さっきの思考、勇者に見られてたかな……? やばい、恥ずかしいかも。
……いいや!! 恥ずかしくない!! 私はショタコン!! 男の子は正義!! それを恥じる理由なんて無い!! グロリスからのドン引きなあわれみを混じらせた視線なんか感じない!!
と、妙な悟りを開いたのは置いといて、ひょっとして、この男の子、魔王さん……?
『そうだ、魔王だ。全てを封印できはしなかったが、力の大部分は封じることができているようだ。……なんかかわい……小さくなってるけど。俺も驚いてる』
なるほど。私はグロリスを同志だと悟りました。同志よ……隠す必要はないのですよ。
『うるさい!』
まったく。
で、どうやら魔王くんはこの封印を解くために勇者を追いかけてきたそうです。また魂を使うんですかね。勇者のだけで足りるんですかね? ひょっとしてまた私のも使っちゃうんですか? ……それは嫌だなあ。あの時の恐怖が蘇りました。
「(どうすればいいの?)」
『……クッ……ダメだ。異空間に部屋を移動させられている』
「(えええっ!?)」
魔王くんすごいじゃん!! 十分力持ってんじゃん!!
「なんだ、またおまえは女をひっつけているのか」
「!?」
「隠そうとしても無駄だぞ。封じられているとはいえ、力はある程度あるんだからな」
「っ……!? な、何を……!?」
魔王くんは男の子な声で言いながら手を私にかざしました。するとどうでしょう。私の魂がグロリスの身体から浮き上がったのです。幽体離脱!?
「くっ……ああっ」
そんなこと言ってられる状況じゃないですよハイ。魔王くんの手は何かをつかむような形になっています。そのつかんでいるものは、私という魂の首。苦しいです。生命の危機を感じました。
『やめろ!! この子は関係ないんだ!!』
グロリスの悲痛な声が聞こえます。なんとかしてくれているようで、首の締め付けがゆるくなったり苦しくなったりしていました。
「…………」
魔王くんはしばらくそうしていると、無言のまま引き剥がそうとしてやめ、グロリスの身体に戻しました。かわりにグロリスの魂を持ち上げると、空中から黒いウサギを取り出します。ウサギとグロリスは魔王くんの手から逃れようと必死でもがいていました。
「おい、クソ勇者。俺はこの女が気に入った」
『……は?』
「うん、は?」
突然魔王くんはうっすらと笑いながら奇々怪々なことを言い出しました。あ、でも男の子に言われるのはちょっと嬉しかったりする。
「女」
「は、はい?」
「ゲームをしよう」
「え?」
『!?』
「っ!?」
魔王くんはグロリスを引き抜くと黒ウサギの中に入れてしまいました。何この御伽噺的な展開。嫌な予感しかしませんでした。
「コイツを追って俺のところまで来い。そしたら、俺が生き返らせてやる」
「えっ?」
『駄目だ!! コイツの言うことに耳を貸すな!! 俺のことは構わずに、予定どおりっ』
「ビービーよく鳴くウサギだな」
ウサギって、ビーって鳴くんですね。初めて知りました。ウサギのビーッという鳴き声に被さるようにしてグロリスの声が聞こえてきます。なんだか不思議な感じです。魔王くんはウサギ……というよりグロリスに何かしたようで、急にウサギはおとなしくなりました。
魔王くんは私に言いました。
「三ヶ月やろう。三ヶ月以内に俺とコイツを探し出してみろ。そしたら、おまえを生き返らせてやる。見つけ出せなかったら、コイツを……勇者グロリスを殺す」
「そ、そんな! でも……!」
「反論や拒否は認めない」
あんまりだ!! あんまりすぎるだろ!! 普通こういうのって逆でしょ!? 勇者と姫とかのシチュエーションでしょ!? 私は姫でもなんでもないけど!! 私が攫われて、グロリスがそれを助け出すって話じゃないの!?
「女、名前は」
「ふぇ、え、えっと、藤村莉子です……」
「フジムラリコ? 異世界の者か。リコでいいな。俺の名はラメント。……楽しみに待っているぞ」
魔王くん……ラメントはそういって微笑みました。この微笑がとてつもない破壊力を持っていたんですよ!! なんなんですかこの子は!! 破壊兵器ですねわかります!! 微笑むとこう、それまでの禍々しさや冷たさがフッって消えて、ちょっと哀愁漂ってる感じの優しい笑顔っていうか!! ああもうかわいい!! 愛でたい!! 愛でたい愛でたい愛でたい愛でたいいいいいい!! コレあれでしょ!? 絶対あの子、なんかくら~い過去を背負って魔王になっちゃったんですよ的なオチなんでしょ!? あんなちっちゃい子がそんなっ……!! あああああ!! ぷまいぷまいぷまいいいいいいいいいいい!!!!
そんな感じで内心興奮している間に、ラメントたんはどこかに消えてなくなっていました。グロリスの魂が閉じ込められた黒ウサギと共に。ん? 待てよ? ちょっと待てよ? 少し落ち着いてみると、たくさんの気付きたくないものに気付いてしまいました。ラメントくんは……グロリスの話のとおりならもっと大人な男性なんじゃ……!? ショック……! ショックすぎる!! それだけじゃありません。グロリスがこの身体の中にいなくなった以上、これからここでの生活を自力でやっていかなければならないのです。それまでグロリスがこの身体とともに気付きあげてきた人間関係の中で。そんな……そんなの無理だ!! 他にも問題は大有りです。ラメントに出された期間は三ヶ月。その間に、私は二人を探し出さなければなりません。手がかりは……無いわけではありません。なんとなく、グロリスのいる方向はなんとなーくうっすら~とわかります。方向だけは。近づいたらわかるかもしれませんけど。探し出せるでしょうか……グロリスを死なせるのは嫌ですよ。ショタコン仲間だしね。あ、そう考えたら、なんかグロリスに腹がたってきた。あいつ、見た目年齢10歳児のラメントくんとずっといっしょなんだよね。ウサギになってやがんだよね。撫でられたりしてんのかな。……なんかムカつく。グロリスそこ代われ。
「兄ちゃん!!」
「グロリス様!!」
ベッドの上で悶々としていたら、仲間の皆が部屋に乗り込んできました。遅いよ。仕方ないけど。
「兄ちゃん、大丈夫……?」
「邪悪な気を感じる。……もしや、魔王は封じきれていなかったのではないか?」
「…………」
私はどう答えていいかわからずにシグに助けを求める視線を向けました。するとシグは全てを悟ったように唇を噛むと、そっと近寄ってきながらもう一度「兄ちゃん?」といいました。これは……演技を続けろということですね?
「封じきれていなかった……。いままで、そこにいたんだよ」
放心状態を装います。
「俺は……。俺は、また行かなくちゃならない。こんどは、ひとりで……」
誰も、何も言えないようでした。それだけのオーラを装えていたんでしょうかね。よかった。
私たちは次の日の早朝、王都へ向けて旅立ちました。さっさと貰うものをもらって、できるだけ早く抜け出してエルフェウムの図書館へ寄る予定でした。
そんなこんなで、重要なエピソードは終わりました。なんなんでしょうね、ほんと。御伽噺になぞらえるなら勇者であるべきのグロリスが姫ポジでしょ? 勇者がヒロイン? うわー。
私たちは三日三晩馬車を走らせて……ではなく、カーティルの転移魔法で王都へ帰りました。そこで私は冒頭の“グロリス=リコ=エンベルハイム”という名前を貰うのでした。