その三
ええ、回想は続きますとも。
四度目に目が覚めたのは、見知らぬ部屋でした。質素な木の部屋で、ベッドに寝かされています。左側にあのそばかすの男の子、シグが眠っていました。
目は覚めましたが、まだ身体がだるいです。動きたくないし、かわいいかわいい私好みな男の子シグ君の寝顔を見ていたいのでぼーっとしときます。シグ君かわいい超かわいい。ショタコンにはたまらんなあ。
おっと、こんな邪まなことを思ってはいけませんね。シグ君はグロリスの癒しでもあるんですから。女子たちの執拗な猛アタックから助けてくれる唯一の存在ですからね。もう一人の剣士のお兄さんの方、フロストは、ポーカーフェイスのふりして物凄く悪ノリしちゃうしドSですからあてになりません。グロリスとの仲はいいらしいんですけどね。
あの後……グロリスが私に協力を頼んだその後、彼は私がすべきことを教えてくれました。
まず、グロリスが禁忌を犯して魂をこんな状態にしたことをまわりに悟らせないこと。禁忌を犯すことは、世界のためとはいえ喜ばれることではありません。そして、この身体に入っている魂がグロリスでない以上、今までのチートな戦闘能力が使えなくなっている可能性があります。グロリスはこれまでの旅の過程で命を狙われるようなことを多々したそうですし、魔族の残党が襲ってくる可能性もあるとか。……いっそ正直に話して守ってもらったほうがいい気がするんだけどね。絶対そっちのがいいと思うんですけどね。
次に、魔法国家エルフェウムというところの図書館へ行くこと。そこには秘密の扉があって、その扉の先に問題を解決してくれそうな人の心当たりがあるそうです。でもこの禁忌の魔法とやらを解いても、私死ぬだけなんですよね。成仏するだけなんですよね。複雑です。
そんなグロリスは今眠っています。大丈夫だと言っていましたが、魔王との戦いの疲労がたたっているのは間違いないでしょう。そして、おそらく、彼の魂と私の魂がまだ馴染んでいないからということも原因のひとつでしょう。なぜかそういうことがわかるんですよ。私たちは今、記憶を、感覚を、感情を、いろいろなことを共有できるようです。まあ、ある程度は隠せるみたいですけど。
……あ、これなら、もし命を狙われてもグロリスの記憶やら感覚やらを使えば回避したり撃退したりできるんじゃないですかね? 、と思ったのですが、時と場合によると無理なようです。なぜなら、彼が眠るとグロリスには全く干渉できないのです。今、気づきました。彼は今どこか奥深いところで眠っています。呼びかけてみたのですが反応がないし何もわからないのです。
「……んん。にい、ちゃ……?」
「あ……起きたか?」
「兄ちゃん!!」
「うおっ!?」
シグが目を覚ましてしまいました。パアッと顔を輝かせて飛びついてきました。かわいいけど、信じられないくらい苦しいです。
「く、くるしいっ」
「あっ、ごめん! つい嬉し………」
「……?」
突然シグは力を抜きました。無言で私の……グロリスの顔を覗き込みます。銀色の瞳がジッと私、じゃない、グロリスの瞳を捕らえます。シグの目は、とても不思議な色でした。一見銀に見えたその色は、透明にも、青にも、緑にも、赤や黄色にも見える気がするのです。それらの色が混ざり合い、銀に見えているような、とても、不思議な色……。
「貴様、誰だ」
「……へっ?」
シグは急に低い声で言い出しました。ええ、ええ、驚きましたとも。かわいいかわいいシグ君が、まるで人の子に見えなかったんですもの。まあ、実際違ったのだけれど。
「グロリスではないな」
「……な、何を言ってるんだよ。俺はグロリスだろ?」
「違うな。あやつに酷似してはいるが、全くの別物だ。……やはりグロリスの奴、禁忌に手をだしたな」
え、えええええええ………。シグ君が、私の、理想のショタっ子が……。
夢がズタズタになりました。
「案ずるな。貴様からはまったく邪気を感じない。……巻き込まれて、おまえも災難だったな」
「う、ううう」
この時のシグ君は綺麗に微笑んでいて、子供なのにとてつもないほどの慈愛に満ちていました。だからでしょうか、それまで張り詰めすぎていて実感がなくて逆に何でも受け入れられていたのに、急に自分が死んでしまったことや知らない世界に放り込まれたという事実が胸を突き上げて涙を溢れさせてしまいました。今その部屋にあるのは、子供に縋り付いて声を殺して泣きじゃくる美形男子の図です。男の中に入っているのは、甘っちょろくて何もできない女子高生。子供の中に入っている……というか子供に化けているのは、グロリスたちが成り行きで偶然に助けていた“救済”を司る古龍だとか。ちなみにグロリスたちはシグの正体を知らずに、すでに滅びたとされる龍人族の生き残りとして認識していたようです。
それにしても、ここまで早く正体がばれるとは思っていませんでした。
「名前は?」
「私は、藤村莉子です……」
「……っぷ」
「え?」
「ぷっ、くくっ……ごめん。兄ちゃんの顔と声でそんななよなよして言われると……っははは!」
「も、もおっ! 笑わないでよ!!」
「あはははは!! だめっ!! それやめろっ!! きもちわるい!! あははははは!」
この笑い声でグロリスの仲間たちが集まってきて、また私は女性陣の篤い抱擁に苦しめられるのでした。
ここでパーティの紹介でもしておきましょうか。
「ああ! グロリス様っ! アミアは死ぬほど心配していましたわああああ!!」
「ふぐうっ!?」
まず、ゴスロリ巨乳ちゃん。名はアミアリス=ベル=ロスティンマイム。彼女はクランベリウム王国の貴族の娘で、かなりの美人です。ドリルな黒髪、大きな黒目、黒いゴスロリ、黒い口紅……見た目的に黒魔術のようなものでも使いそうですが、彼女は自分の身の丈ほどもある黒い魔剣を振り回す恐ろしい娘なのです。ロスティンマイム家は代々魔剣を受け継ぐ家で、魔王討伐をするために各地を奮走していたグロリスに一目惚れして魔剣を略奪してついてきたそうな。グロリスとは相思相愛の仲だとかなんとかよく叫んでグロリスと周りを困らせる人です。
「アミアさんっ、グロリスさんが苦しんでいますよっ!!」
「ふんぬっ!?」
「ああっ!? あなたこそグロリス様を苦しめているではありませんか!!」
「グロリスさんをあなたから守るためです!!」
眼鏡っ子の僧侶ちゃんは、アミアより巨乳さんです。名はミレイア=アリア。“神力”というものを行使して回復やらをします。あと、頭も超いいです。真っ青な髪とエメラルド色の瞳は、クランベリウムの隣国シュアフメーヌ公国の人の特徴だそうです。シュアフメーヌのとある寺院をグロリスが助けることになった時、ご恩を返したいという名目のもとついてきたみたいです。彼女は神に身を捧げた修道女なので色事は禁止なのですが、グロリスに好意を寄せているのは明白も明白。それなのに彼女は周りには悟られてはいないと思っているのですよ。
「こら。おまえたちも大概にせんか」
「ぐぬうっ……」
「カーティル姉様!? わたくしにグロリス様を返してくださいまし!!」
「そうですよっ!! これ以上は窒息死してしまいます!!」
「そうかえ? やってることはお主らとかわらぬぞ」
薄く笑いながら二人から私を取りあげ空中に浮かんだのは、赤髪赤目で露出度の高い赤いエナメル質の服を着た髪の長い妖艶な美女。この人もやはり巨乳です。なんなんでしょうねこの巨乳ちゃん揃い、気持ち悪い。私は貧乳派ですからね。貧乳最高。別に私は貧乳じゃないけどね、ほんとだからね、信じろよ、マジだって。彼女の名はカーティル。彼女は魔族と人間のハーフで、長寿の持ち主です。魔族にも人間にも疎まれ迫害され、やさぐれて暴れまわっていたそうですが、グロリスに倒されて仲間になったそうです。厳しい環境で生きてきたにも関わらず、面倒見がよく姉御体質。ただ、アプローチがエロい人です。グロリスに恋愛感情を抱いているかといえば、よくわかりません。私はあると思うけどね。彼女は主に強力な黒魔術を使います。この人の力は強大です。この人に勝っちゃったグロリスは本当にすごいんです。
「……ん? なんじゃ、ネリア。おまえもこいつを抱きたいのか」
「……! ……!」
ネリアと呼ばれたのは、銀髪おかっぱの青い瞳をした貧乳ちゃんです。先ほどからおろおろと手を伸ばしては引き伸ばしては引きを繰り返しています。口をぱくぱくとさせていますが、声は出ません。口がきけないのです。この子は戦闘奴隷という物だったらしく、成り行きで壊滅させた地底王国の上層部でボスに従っていたのをグロリスが説得と暴力で救い出してあげたんだそうです。グロリスという男はつくづく罪な奴ですね。まあ、魔王討伐をしてやろうって人なんかこんなもんでしょう。ラノベとかこういうの多いじゃん。
「こらあああ!! 兄ちゃんが死んじゃうだろ!?」
「おっと」
シグがカーティルに枕を投げたりして私を助けてくれました。もう一人、剣士のフロストはもちろん、ドアのあたりで薄笑いを浮かべて微笑ましい争いを傍観しています。この人は魔族に家族と恋人を殺されたそうで、その恨みを晴らしたいとのことで付いてきていました。灰色の長髪と水色の切れ長の目のイケメンさんです。
「兄ちゃん、大丈夫?」
「……つかれた」
パーティ紹介に。
「……! ……!」
「うむ、そうだな。やはりまだ休ませてやるべきだろう。しかし、明日は出発するぞ。王城から連絡が来た。勇者認定をして褒め称えたいのだそうだ」
「へ?」
貴族であるアミアが定期的にお国と連絡を取っていたそうです。家宝を盗んだのにすごいですね。それで、お国が表彰したいと言ってきたわけです。まあ、魔王を倒したんですからそれくらいしてくれませんとね。私じゃなくてグロリスがやったんですけど。
こうして、私たちは王都に向かうのですが、……その前にあともうひとつ、大きなイベントがあったのです……。