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理由

 アルストカリア家の馬車の中、長く重いため息をつくシオン。今までの疲労もあるだろうが、一番重くのしかかったのは、先ほどの謁見だ。

 レイヴィーンの正体に始まり、無神経な言葉、醜い争い。短時間で感情が揺さぶられ、元より緊張する謁見で、さらに体力を削られた。


「少し休んでいろ。そのくらいの不作法は許してやる」


 その様子に、相変わらず突き放したような言い方だが、気づかいを見せるサイファ。


「……こんな鎧を着たまま寝るなんて器用な真似、出来ませんよ」


 正直ありがたかったが、コルセットの存在が忌々しくて、ぞんざいな言葉で返す。それをサイファが許したからだ。

 言葉のままに実行するシオンに、サイファは不快だと思っていないようだった。


「それにしても、バカっぽい謁見ですね。私が妹になる必要を全く感じなかったのですが?」

「係わりたくないなら、アレを捨てていればよかっただろう。貴様たちには関係のないことだろうに」

「あの時はそんなこと考えられませんでした。ただ、アリシアさんの願いと、二人が亡くなったことを知らせようと思いまして。あとは、報復とカインを引き上げるために」


 昨日渡した蜂蜜色と赤色の遺髪は、丁重にアルストカリア家の者として扱ってくれた。正式に名前が残りはしないが、シオンは何も言わなかった。

 悲しくないわけではないが、もういない人間より、カインのことを優先したからだ。どこまでも冷たくなれる自分に、シオンはサイファから見えないように嘲笑を浮かべた。


「そのわりには、邸に来た時はずいぶんと用意周到だったようだが?」

「勲章とブローチを調べるうちに、いやでも大事だと気付いたんです。一度は捨てようと思いましたが、ブローチを手に入れるまで相手はあきらめないだろうし、差し出してもどうなるか分からない。二つの紋章を持って逃げた時から、いろんなものに捕まってしまったんだって、覚悟したんです」

「それで、少しでも望みのあるほうへ交渉を持ちかけたと」

「アリシアさんの言葉もあったし、逃亡生活なんて、カインには絶対にさせられないですから」

「そのためには、何も捨てても抱え込んでも構わない、か。貴様を妹と偽ったのは、捜索隊に参加させるためだ。何の係わりもない平民を組み込むことはできないからな」


 シオンが本当に聞きたかった質問に、ようやく答えが返ってくる。


「捜索途中で出し抜かれないため、か。他に適任者は……いなかったからあたしを選んだんですよねぇ」

「当主が参加することはできない。父上に仕えていた者はことごとく消された。弟は魔術学校に在籍中。妹は貴族然たる女だ。二人とも今回のようなことには向かない。貴様がいなければジェダイトでも無理にねじ込もうかと思ったほどだ」


 サイファでも冗談をいうのかとシオンは驚いたが、どうやら半ば本気だったらしい。眉間にしわが寄っている。それも無理はないのかもしれない。そのくらい、今のサイファは手ごまがいないのだろう。

 そんなときに、聖王家直属の第一軍隊の奇襲から生還する力を持ち、アルストカリア家と交渉しようとする無謀な者が現れたのだ。しかも、利用してくれといわんばかりに、自分以外に弱みを持っている。

 サイファがシオンを妹と偽った真意が、ようやく理解が出来た。

 カインの無事さえ保障してくれれば、シオンはどこまでも忠実に仕えるつもりだった。


「それにしても、そこまでするような秘宝の鍵を、いくら愛してたからって平民に渡しますか? というか、その秘宝ってどんな物なんです?」

「秘宝の存在自体、父上が最近見つけたのだ。あのブローチが道標だと知らずに贈ったのだろう。幸福を呼ぶ護符だと伝えられていただけだからな。今回の秘宝は、敵兵一万をも一撃にて薙ぎ払う力、だそうだ」

「おとぎ話か妄想の世界……と言いたいところですね。けど今回はってことは、秘宝は一つじゃなくて、大それた言葉を裏付けるだけのものがすでに発見されているってことですか?」

「失われし手足をも蘇生し癒す力。貴様も目にしている。カインに渡した宝珠だ。模造品だが、十分役立っていただろう」

「……治癒術をかけたにしても、治りが異様に早いと思ったら」


 模造品とはいえ、家宝どころか国宝にでもなりそうなものを使用してくれていたのだと知り、シオンは驚きと同時に感謝の気持ちがわき上がった。


「一般的な治癒術とは違い、大気中の魔力を変換して細胞を活性・蘇生させる代物だそうだ。本物は瀕死状態でも回復させられる」

「現在の魔術力じゃそこまでのものは製造不可能なはずですけど、なんでアルストカリア家の秘宝になってるんでしょう?」

「それは我々も調査中だ。秘宝はもう一つあるが、それも記述と違わぬ性能だった」

「うわぁ、躍起になるのも頷けますね。王族貴族で取り合うくらいならまだいいですけど、今回のは他国に渡ったら一大事ですもんねぇ。あたしの責任て、かなり重大ですか?」


 つとめて軽い口調で問うが、答えてくれなくてもシオンは分かっている。サイファは上品だが何かを含んだ笑みを返すだけ。


「弟への説明はすべて貴様に任せる。しかし、言うまでもないだろうが、余計なことを伝えるな。カインのためにもならないだろう」

「分かってます。捜索はいつ開始になりますか?」

「編成が整い次第。三家の調整が必要だろうから、五日後くらいだ。その間に体調を万全にしておけ」

「それこそ言われるまでもなく、ですね。死ぬ気はないんです」


 青くなっているだろうシオンの顔色を見てサイファは呆れているようだったが、結局何も言わなかった。


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