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ALIVE  作者: 瀬底そら
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砂の章2 神の名を持つ者

砂の章2 神の名を持つ者


 ラピスがキュアベースに転任してきてから、二週間が経った。

 キュアベースは水のオメガと地のオメガの同時襲来により、全体を覆う壁が破壊され、一部シェルター自体にダメージを受けていた。その復旧を指揮するのもFASTAの仕事だった。

 実際に復興作業をしているのはFASTAのメンバーよりも若い少年や少女たち、もしくは防衛部隊を定年退任した者たちだ。防衛部隊は定年制度を持ち、その定年である30歳に近い年齢の者は27歳を超えた辺りから引継ぎも兼ねて直接的な戦闘部署を退くようだ。現在の27歳を過ぎているFASTAのメンバーがそれを退いていないのは、実力からか、はたまた戦闘が好きなのかはわからないが。

 ラピスは不思議だった。なぜここまでFASTAが支持されるのかがわからなかった。少なくとも少年少女たちが皆、いつかはFASTAに入隊したいと考えていることは明らかだった。

 ラピスと治療中だというエンジニアの女を除いたFASTAのメンバーは時折、横から口出しをする上層部に噛みついた。それは滑稽なほど、憎しみを抱くものだった。

 ラピスは復興には興味がなかった。それはキュアベースが自分の存在場所だという意識がなかった上に、そもそもそういう作業をするためにここに来たわけではないからだ。


 (オメガはまた来るのか?)

 ようやく少しずつ話すようになってきたシンの話では、ここ数年キュアベースに対するオメガの来襲率が上がっているらしい。確かにラピスがカルアベースにいた頃はオメガからの攻撃を受けることはたまにあった。その目的は防衛部隊だったようで、キュアベースのようにベース自体にまで破壊行動に出てこられたのはあの5年前くらいだ。キュアベースは度々の破壊行動を受けていた。

「そろそろオメガの前襲来から一ヶ月かぁ、嫌な予感がするぜ。」

シンは黙々とトレーニングをしていたラピスに話し掛けた。その手には片手で扱える小型の銃がくるくると回っている。

「どーも最近、奴らの来るペースが早すぎんだよな。しかも前と違って、2体同時に来たりしやがるしよ。どうしたもんだか。」

シンがぴたりと銃の回転を止めると、ロビーの壁にかけてあった的を打ち抜いた。銃口から火薬くさい煙が立ち上がる。

「……こんなところで撃っていいのか?」

頭上を弾丸が走ったことが原因でラピスはシンに聞いた。シンは不敵な笑みを浮かべる。

「リキのこの銃が的を外すわけがねぇだろ?お前の頭にはあたんねぇよ。」


 シンが持っているその銃は、リキ族伝説の4の武器の1つなのだろう。しかし、ラピスはあえてそのことは聞かなかった。

(この男は、ユーナのことは知っているのか?俺の剣を見たら、こいつはどう思うのだろう?)


 ラピスは自室においてあるキャリバーンを思い浮かべた。伝説で受け継がれていくその剣は刃こぼれ1つなく、またその白銀の輝きは見事なものだ。横目で見たシンの短銃も、その外側は同じような白銀をあしらっているようだった。

「……オメガはどんなのが来たんだ?」

ラピスはトレーニングでかいた汗をふき取りながら、椅子に座って暇そうにしているシンに話し掛けた。シンは少し笑った。

「お前、それ以外興味ねぇのかよ?」

その口調はやや皮肉が入っている。確かにラピスとシンが出会って、これまで交わした会話のほとんどが何かしら戦闘に関するものばかりだったのだ。それは、砂漠においての戦闘だとか、任務についてだとか、細かいことまで様々だった。

「まぁな。」

ラピスは無表情に答えた。

「そりゃ、つまんねぇな。まぁいい、俺がオメガの怖さをお前に教えておいてやろう。」

シンはまるで訓練生にレクチャーをする防衛部隊を引退した人々のように話し始めた。

「前回、ここを襲ったのは水のオメガ−−通称ウィンデーネと地のオメガ−−通称ノームだ。まずウィンデーネは、けっこうかわいい若い女の姿で、水で攻撃……ってもわかんねぇよな。あいつの指先からまるで弾丸みたいな水を発射してくんだよ。おかげで壁もボロボロだぜ。それに水浸しになるからな。それからノーム、あれはガタイのいい親父風でな。奴の攻撃はすげぇ。力もあるし、手を地につけてみろよ、地滑りか、地震状態だ。」

そしてシンはグラグラと身体を揺らしてみせた。おそらく彼はノームの攻撃を受けたのだろう。

「あん時、どーも俺の武器と奴らとの相性が悪かったみてぇでな。特にノームは硬すぎて銃弾も跳ね返されてよ。聖が気術でノームを押さえたのはいいが、ウィンデーネは正直、ユキが戻らなかったら危なかったかもなぁ。」

その時のことを思い出してかどうか、シンは息をついた。


 (ちょっと待て。ノームだの、ウィンデーネだの、それは神の名前だ。)

ラピスは表情を曇らせた。この世界には自然界に存在すると言われている神が8神いる。

それは人々の信仰の対象でもあったし、一般居住区の神殿で祭られている。その神の名前を、いくら想像上の能力が同じだとはいえ、敵につけるのは信じられなかった。

「それは、8神の名じゃないのか?」

ラピスは思わずシンに聞いた。ラピスはそれほど、信仰の強い者ではない。ただ、自分も幼い頃には神としてその存在を信じていたし、それが人々の拠り所であるのを知っていたからだ。

「あ?そりゃ、確かにそうだぜ。」

シンはそっけなく答えた。

「でもよ、こんな世の中、しかも敵のオメガが神みたいな力を持って、俺らを滅ぼしに来るんだぜ?オメガをいちいち区別するのに、神の名がついてもおかしくねぇ。」

「一般人が聞いたらどうするんだ?」

一般居住者は、FASTAがまさか、神の名をオメガにつけているとは思ってもいないだろう。

それ以前に、オメガがどのような能力をもっているのかも知らないはずだ。ただ、恐ろしい存在として知られている。カルアベースにいた、しかもその中でもずば抜けた能力を持っていると言われていたラピスもその事実を知らなかった。

「一般人はおろか、防衛部隊の下の方の奴も知らねぇさ。これも一種の機密だからな。ただ、オメガはとんでもねぇ奴らだとされてるはずだ。……そもそも。」

シンは一息おいて、さらに話を続ける。

「そもそもだな、敵が『オメガ』と名づけられた理由をお前は知ってるか?」

ラピスは驚きを隠せないまま、首を横に振った。

「『オメガ』って言葉は、大昔の聖典に載ってた言葉らしい。その意味は『終わりで始まりの者』だ。」

「『終わりで始まりの者』?」

「俺はよく知らねぇが、初めてオメガが人間を襲った時、奴らは自分たちのことをそう言ったらしい。なーんとなく、わかるだろ?聖典の言葉に、8神の名。とにかく、奴らは恐ろしいってことだ。」

シンはさりげなく、その博識ぶりを見せつけた。ラピスは自分が無知だったことを知った。ここまでの機密、知識を与えられているのはおそらくFASTAだけだろう。

(なぜ?)

それは大きな疑問だった。なぜ、FASTAだけにこのような知識が与えられるのか。

(オメガの来襲率が明らかに他所より高い、キュアベース、)

(ここに、何かあるのか?)

考えても理解できない謎がここにはある。ラピスは眉をしかめた。


 「ラピス、ちょっと来てや。」

シンが任務で去った後、ぼんやりと考え事をしていたラピスに聖が声をかけた。

「もう一人のFASTAに挨拶や。前言ってたやろ?治療中の女の子。」

ああ、とラピスは立ち上がる。あの赤毛の少年が言っていたのを思い出す。


 医療棟、と呼ばれるいわば医療部隊のいる場所はFASTAのロビーのある2階よりも1つ下の1階だった。ここには一般居住区の者も立ち入れるようで、無防備な人々がうろついている。その先の防衛部隊用のフロアの消毒液の匂いがする一室に彼女はいた。

「マリフ、入るでー。」

軽くノックをし、まだ彼女が返事をしていないのにも関わらず、聖はドアをあけた。

「あ、聖さん。」

まるで華のような笑顔を向けて、彼女はベッドに横たわっていた。白く長い腕には点滴がつながれており、足は包帯で巻かれている。

「マリフ、FASTA新入りや。前言ってたやろ?」

心なしか、聖がいつもよりも優しく、そして嬉しそうだ。

「あ、マリフ=スパロウです。よろしくお願いします。」

マリフはベッドに座り直すと微笑んだ。ラピスは無言で軽く礼をする。

「こいつは、ラピス=ジュリスト。あんまし喋らんけど、そのうちまた色々あると思うしな。よろしく頼むわ。」

マリフは再び、微笑んだ。肩甲骨辺りまで伸ばした美しい髪が揺れた。


 マリフの部屋を出てから、ラピスは柱の陰に身を隠した。そこには、あの苦手なイーシスの姿があったからだ。それは、イーシスが医療部隊に入隊したのだから当然といえば当然である。その様子を聖は全く意に介さない。

「ラピス、何してんのや?」

その名を聞いて、イーシスはやはりやって来た。

「きゃっ、ジュリスト先輩!」

甘い、作った声にラピスはうんざりした。

「こんなところで、何してるんですかぁ?あっ、今日の夜、お暇ですぅ?よかったら、一緒に一般居住区に行ってみませんかぁ?」

聖は面白そうにその様子を見ていたが、ラピスは完全に黙ったまま、その場を振り切った。後ろでまだイーシスが何か言っているのが聞こえたが、それは雑音でしかなかった。


 「あんた、あれはちょっとひどいんちゃうか?」

聖は足早に歩くラピスに言う。

「……関係ないだろ。」

冷たくラピスは言い放つ。心の底から、イーシスが苦手だった。

「あの子、絶対、あんたのこと、好きやで?」

(そんなこと、誰でもわかるだろ?)

イーシスのあからさまな態度は誰が見てもわかる。そのために今まで根拠のない噂を立てられたことさえあった。それは、ラピスにとってありえないことであったし、ユーナのことを考えると申し訳のないことでもあった。

「まぁええけど……あんまし、女の子泣かしたらあかんで?」

聖は悪気はないのだろう。ただ、それはラピスの心に突き刺さる。

(俺は、ユーナを助けてやれなかったんだ。)

(泣くどころではなくて、守ってやれなかった――)

心を、闇が支配する。それは、自分への責め。悔恨の気持ち。

ラピスは、聖からは見えないように、唇を噛んだ。


 

 砂漠の夜は想像以上に寒い。

 ラピスは一人、非常口から出て砂漠に立っていた。雲ひとつない夜空には煌々と上弦の月が輝いている。カルアベースでも気に入って着ていた黒のトレンチコートと、グレーの厚手のパンツを身につけているものの、風が非常に強く、思わず顔をしかめた。腰にはキャリバーンが当たり前のように納まっている。

 彼は慣れない砂漠での訓練のために外に出たのであった。FASTAには夜の警備任務がない。緊急時に備えて、眠るように指示されている。警備はランク下の部隊がやる。万が一、夜にオメガが来襲した場合にはFASTAは飛び起きて戦闘に出る。ランク下の部隊は、逃げ遅れのないように避難活動をする。実質、オメガと対峙するのはFASTAが中心だ。ランク下の部隊が援護以外で戦うということは、FASTAだけでは危機が迫っているということ以外にはないらしい。


 キャリバーンを抜くとその刃はきらりと光った。それをゆっくり持ち上げると一気に振り下ろす。

 それはまた、いつか闇のオメガと対峙した時に、確実に奴を殺すため。砂の足元は脆く、つまずきそうになる。しかしどんな条件もありだ。砂漠の大地は雪の大地よりも足の取り方が難しいことにラピスは気づいた。


 「あなた、そこで何をしているの?」

 必死で剣の感触に浸っていたラピスに背後から声がかかった。振り向くと、そこには目立たないようにか、黒で塗られた輸送車と、防衛部隊よりもはるかに年上だと思われる武装集団、そして見覚えのある顔があった。

(副総監?)

瞬間的にまずい、と感じた。淡いブロンド髪を後ろで1つに束ねた、長身の女が武装集団に守られるかのように立っている。

「……あら、あなた、ラピス=ジュリストね?」

何となく、気に障る声だった。

「砂漠に出るのは、基本的に禁止なのよ?ご存知じゃないのかしら?」

(なら、あんたはここで何をしてるんだ?)

言い返したい心をぐっと押さえて、冷静に答える。

「知りませんでした。申し訳ありません。」

「まぁ、知らないなんて……新しく入ったばかりだし仕方ないわね。」

もともと細めの目がすっ、とさらに細まる。妖艶な笑みをこぼして、彼女は首でラピスにベース内に帰るように指示する。有無を言わさぬその権限にラピスは従うしかなかった。


 砂漠の朝はまるで世界が黄金に変わったかのような光景で、どうも深く眠るのことができない。遮光カーテンを引いて寝ても、目の裏が金色に変わると気になって起きてしまう。そもそも、もう起きなければならない時間だったが。

 ラピスはシャワーを浴びると、備え付けの衣類処理機から服を取り出し着替えてから部屋を出た。キュアベースにおけるFASTAの待遇は本当に贅沢だ。ぐしゃぐしゃの服でも、衣類処理機に放り込めば一般居住区のそれを職業にしている者が処理をして送り返してくれる。


 「よお。」

 個室からロビーにつながる通路を渡り終えたところで、シンが反対側から声をかけてくる。灰皿にはすでに3本の吸殻が残っている。ロビーには、微かに煙草の残り香がした。

「お前、昨日、外に出ただろ?」

唐突に自分の行動を尋ねられ、ラピスは驚いた。

「まぁ、俺は文句はいわねぇが。上層部にばれるとしつけぇから、気をつけろよ?」

シンはにやにや笑いながら、煙草に手を伸ばした。

「見てたのか?」

「まぁな。どーも、FASTAには抜け出し癖のある奴が多いみてぇだ。……結構他の奴も勝手に外に出てるぜ。ばれりゃまずいけどな。」

気をつけろよ、と仕草で表現するとシンは再び火をつけた。


 「ああ、早くマリフさんが復帰してくれれば、助かるんですけどね。」

 赤毛の少年は、ひっきりなしの通信業務に溜息をついて、それから大きく伸びをした。FASTA所属のエンジニアであるアレックスは、ランク下のエンジニアのリーダーであるマリフの補佐だったのだが、そのマリフが怪我をして以来、仮リーダーとして業務に追われていた。

「アレックスさん、そんなことを言わずに、これのチェックもお願いします。」

FASTAより1ランク下のSEMI-Fと呼ばれるメンバーの男がアレックスに書類を手渡す。SEMI-Fといえども、たった所属6人のFASTAに比べ、その人数は100人近くいる。頭のよいアレックスでさえ、そのうちのエンジニア20人程度の顔をなんとか覚え切っている程度だった。

「はいはい。」

トレードマークでもある眼鏡を一度拭いてから、彼は書類に目を通す。それは内陸部から時折吹き付ける強烈な風についてのレポートだった。

「なんです、これは?」

こんなレポートを見せられたのは初めてだった。アレックスはこれまでは主に上層部との連絡役を任されており、こういった気象や外海の情報はすべてマリフの担当だった。よって、これまでまったくアレックスにこのような情報が来たことがなかったのだ。

「内陸北東部から吹く風が異様に強いんです。これは1年前の今頃のデータですが、」

少年は書類内のグラフを指差した。そこには20WLから40WLといった風の強さのレベルが示されている。

「これに対して、現在、65WLを記録しています。このままいくと、砂嵐が起こるかもしれません。」

「砂嵐?」

アレックスは思わず聞き返した。砂漠にあるベースには、度々砂嵐がやってくるが、ほとんど支障がない。反対に砂漠の乾燥した環境で、砂嵐が起こらないほうがおかしい。

「砂嵐なんて、しょっちゅう起こってますよ?大丈夫です。それよりも、他ベースとの物資輸送車がもしかすると難航しているかもしれないですね。」

大丈夫、の言葉に一瞬顔を緩ませた男だったが、アレックスの輸送車を心配する言葉に顔をしかめた。

 他ベースとは、そこでしか作ることのできない食物やその他必要物資を輸送車で供給しあっている。その輸送において、もっとも難関なのが雪のカルアベースと砂漠のキュアベースだ。砂嵐がおこれば、輸送車の到着が難航するのは目に見えていた。

「……輸送車と連絡を取ってみます。念のためですけど。」

アレックスは、急に不安を覚えたのか、無線機の準備を始めた。


 数時間後。

「シンが輸送車の援護に出た?聞いてないよ。」

FASTAのロビーにユキの声が響いた。防衛部隊の頂点であるFASTAの彼女は、ランク下の部隊の訓練に参加してきたのだろう。外での訓練だったのか、服が砂まみれだ。

「まぁ、シンやったら、地理にも詳しいし、機械にも強いからな。人数も揃ってるし、大丈夫やろ。なんか大型のホバークラフトで出発したらしいで。」

聖の言葉に、ユキもうなずくが、どうも納得いかない顔つきだ。それは、嫌な予感でもするからだろうか。外は黄色い砂が嵐のように舞っている。

「せやけど、なんかひどい天気やな。」

聖は窓の外を見る。砂嵐もひどいが、砂漠に雨が降りそうなくらいに空が暗い。

「雨でも降るんかな。」

どんよりした空は夕暮れの太陽をかき消すように重くぶらさがっていた。


 ――目を開けると、もう死んだはずの少女がこっちに手を振っていた。

「ユーナ?」

思わず、名前を呼んでしまう。翠の瞳をきらきらさせて、ユーナは駆け寄ってきた。

「ラピス、遅いよ。もう始まっちゃうよ。」

  

 −−ああ、今日は、一緒に一般居住区の祭りに行くんだったな−−

 急に心が温かくなる。俺が手を伸ばすと、ユーナはしっかりと俺の手に自分の手をつないできた。

任務以外の時でも、彼女はあの伝説の剣を携えていた。

「重くないか?持ってやるよ。」

「ダメダメ。この剣は、リキの一族の大事な剣だから。ラピス、ごめんね。」

にっこりと笑いながら申し出を断るユーナを見て、俺は笑った。


−−そうだよな、これはユーナの宝だから−−

  

 ジリリリリ、と遠くから、あの絶望の緊急ランプの音が聞こえる。

あの日、ユーナを失った時に鳴り響いていたあの音だ。

「ユーナ?」

気がつくと、俺はたった独りで暗闇の中に立っていた。

足元が固まったかのように、動かない。動けない―――


 「・・・夢じゃないのか?」

 ジリリリリと鳴り響く音は、自分の部屋で木霊していた。緊急事態を示すランプがクルクルと回っている。ラピスは、自分の手を凝視した。ユーナの手の温もりはもうない。

「ラピス、起きろ!」

外からドアをどんどん叩く音がする。さらに聖の声だ。

(何か、あったな。)

ラピスはくしゃくしゃの髪を少しだけ手ぐしで整え、上着を羽織る。そしてベッドの横にあるキャリバーンを手に取ると、ドアに向かった。




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