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ALIVE  作者: 瀬底そら
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ALIVE prologue

2008/03/31:全編再編集作業しております。(加除訂正)

      

ALIVE prologue



 表向きの平和を保つために戦うしかない。

人間が支配者として生きる世界は、もうとうの昔に終わっている。

雪深い万年雪の大地から、黄金に輝く砂漠の海、人間が生きていくには過酷な地が増えすぎた。そして「終わりで始まりの者」オメガの存在によって。


 人々が暮らす巨大な居住区を守るために防衛部隊が編成されたのは、その存在を脅かすオメガの存在以外にありえない。


 オメガと呼ばれる人間の姿をした8の生命体は、人間を滅ぼすことだけに執着している。その攻勢はここ10年ほどで以前にもまして激しくなり、ある居住区はそれが原因で陥落することになった。


 戦いには、始まりがあり、終わりがある。

人間の運命を背負って戦う者たちの物語。



10年前、彼にとって悲劇の日が訪れた。



 ゆるいウェーブを描く黒髪の少女は、刺激臭のする煙がたちこめる通路を駆け抜けていく。荒い息を吐きながら、重い足を必死に動かし、警戒を解かずに。

 カルアベースと呼ばれる、世界に5つしかない巨大居住区の1つに闇のオメガなる少年が現れたのは突然のことであった。そもそも、このカルアベースは万年雪に覆われた北の最果てにある居住区であり、普段は人間でさえも訪れることがほとんどない。その閉ざされた平和の中に、人間を滅ぼす最後の敵「オメガ」の少年が突如現れたのだ。カルアベースの防衛部隊は命をかけて、闇のオメガに対抗した。

 少女は褐色の肌と深い翠の瞳を持つ、カルアベースの防衛部隊の剣士だった。カルアベース防衛部隊の多くは両親を失った少年少女で形成されていたが、彼女は違った。彼女の父親はカルアベース防衛部隊の総監だった。そして彼女は尊敬する父のもと、防衛部隊に志願したのだ。


 人間の敵「オメガ」は、姿形こそ人間そのものだ。しかし、彼らは人間に持ち得ない特殊能力を持っている。

 それは人間が昔から崇めてきた火・水・風・土・月・木・光・闇の8神の持つ能力そのものだ。その力は強大であった。彼らは奇妙な術を使って人間を霍乱し、滅ぼそうとしている。理由はわからない。彼らがかつて人間だったのか、それとも全く別の次元から生まれでた者なのか、それすらも不明だった。


 少女は闇のオメガに追われていた。

防衛部隊でもなんでもない戦う術も持たない子供たちを守るのが現在の彼女の使命だった。子供たちは将来の防衛部隊となり、いつかは血を流すこともあるだろうが、今はその時ではなかった。

 闇のオメガは分身術に長けていた。子供たちをシェルターに避難させ、しっかりその扉を閉じきったのを彼は見ていた。


 「逃げても、無駄だ。」

突然前から声がし、少女は立ち止まった。前後から、分身した少年が歩いてくる。彼は整った青白い顔で笑っていた。作り笑いではなかった。

「もう、逃げ場はないよ。」

 少女は目を凝らした。どちらかは分身であり、ただの影だ。どちらかに突っ込めば、突破できる。しかし、本体に突っ込めば生命はないだろう。判断できないもどかしさでぎりぎりと、唇を噛む。

「君は、美しい。」

正面から、前に立ちふさがる闇のオメガを見据えた時、彼は気がついたように言った。

「殺すには、惜しい。」

確かに少女は美しかった。15歳とは思えない大人びた雰囲気がただよっている。くっきりとした二重の瞳は誰が見ても吸い込まれそうな魅力をたたえていた。

 少女は、白銀に輝く剣を構えた。その剣は両手で持たなければ振れないほどの大剣である。しかし、少女は一族に伝わるその剣を愛用していた。彼女はその運命にふさわしい資格を持った者だった。

「僕のものになるなら、死なずにすむよ?」

闇のオメガは右手を振ると、空間から黒い剣を持ち出した。それは少女の大剣にも劣らない巨大な暗黒の剣。

「嫌です。」

少女は即答した。彼女の脳裏に、恋人の少年の顔がよぎる。闇のオメガはつまらなそうに、顔を歪めた。

「じゃあ、死ぬしかないね。」

少女は、覚悟を決めていた。死ぬとわかっていても手に汗がにじんで、肩が震えた。


 彼女が柔らかいシーツに横たえられたのは、それから1時間もたっていない。しかし、彼女が2度と目を覚ますこともない、ということは彼女の衣服を染めた鮮やかな鮮血からしてわかっていた。


 闇のオメガを退却させたのは、彼女の恋人の少年だった。戦いの最中、闇のオメガの剣が少女の胸を貫いた瞬間を彼は見た。美しい少女の返り血を浴びて笑みを浮かべるオメガに、彼は少女の白銀の剣で渾身の力を込めて切りかかった。不意をつかれたオメガは、肩をやられた。黒い剣は瞬時に姿を消し、オメガの本体も姿を消した。涙があふれそうになりながら、少年は少女を揺り動かし、それでも目覚めない彼女を抱きしめた。

黒い剣から溢れた憎悪の感情が、少女を死の淵へと追いやっていく。


 あれから、もう10年になるのに、彼はまだあの日の夢を見る。いつまでも終わらない悪夢と、憎悪だけが増長していく。


 いつからか、彼は笑えなくなった。

かつてお調子者で明るく、人当たりのよかった少年は、笑みを閉ざしたまま大人になった。この過去を知らない後輩たちは、彼をクールで強い男だと憧れを抱いた。

 27歳になったラピス=ジュリストは、万年雪の故郷から灼熱の砂漠に移っていた。あの日、カルアベースが甚大な被害を負ったのと同じように、今度は砂漠のキュアベースが水のオメガと、地のオメガに襲われたのだった。キュアベースは他のベースに比べるとオメガの来襲率が高かった。そのたびに防衛に成功してきた実績を持つ防衛部隊も、今回は防ぎきれなかったようだ。

 ラピスは、カルアベースでは1,2を争う剣士に成長していた。なぜ、その剣士を転任させたのかは不可解だ。考えられるとしたら、かつての恋人の父親がいつまでも娘を想う、姿だけは大人になった少年を解き放とうとしたのかもしれない。


 そして、ラピスはキュアベースで最高の部隊であり、ファンタジスタ(通称FASTA)という噂では世界最強の部隊に入ることを告げられていた。客室の窓の向こうには、輸送車が遠く故郷へ帰っていく光を放っているのが見える。

ラピスは、故郷の雪の世界に別れを告げた。




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