表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄されたので普通の生活を目指します。なお私は剣聖らしいのですが自覚はありません  作者: 翡翠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/56

第11話 次女が帰ってくるだけなのに、なぜか真相解明編が始まりそうです

 エリシア・アルヴェインが帰還を決めてから、三日。


 王都の街道を、一台の馬車が走っていた。


 速度は速い。

 だが無理はしていない。


 最短距離、最適な休憩、最小限の護衛。


 そのすべてが“効率よく帰る”ために組まれている。


 そして、その中で。


「……やっぱりおかしい」


 エリシアは三度目の同じ言葉を呟いていた。


 手元には、王都から届いた報告書がある。


 内容は変わらない。


 だが、読み返すたびに違和感が増していく。


「市場に影響」

「騎士団が警戒」

「ギルドが動いた」


 単体なら分かる。


 だが同時に起きているのが理解できない。


 なぜなら――


「お姉様が原因って、どういうこと……?」


 そこだけが、どうしても繋がらない。


 目を閉じる。


 記憶を辿る。


 優しくて。

 穏やかで。

 少し抜けていて。


 誰かが困っていたら、迷わず手を差し伸べる。


 そんな人だ。


「……いや」


 そこで思考を止める。


 それは“自分から見た姉”だ。


 では、他人から見たら?


「……そこがズレてる?」


 ぽつりと呟く。


 仮説を立てる。


 姉は変わっていない。

 変わったのは周囲の認識。


 ならば。


「姉が何かした、じゃなくて……」


 そこまで考えたところで、馬車が揺れた。


「お嬢様、まもなく王都に到着いたします」


 御者の声。


「分かった」


 エリシアは目を開けた。


 結論はまだ出ていない。


 だが確信だけはある。


「直接見るしかない」


 ――同時刻。


 アルヴェイン公爵邸。


「本日の報告を」


 レオニードの声は、相変わらず無機質だった。


「花屋訪問後、特に異常なし」

「接触者は老婦人一名のみ」

「市場への直接的影響は観測されず」


 側近が淡々と読み上げる。


「間接的影響は」


「周辺商人の動きに微細な変化あり」

「価格維持傾向が強まっています」


「……」


 レオニードは沈黙した。


 直接的な操作はない。

 だが結果は出ている。


 これが一番厄介だ。


「継続観測」


「は」


 指示は簡潔。


 だが内心では、結論は変わらない。


「制御不能」


 それが現時点の評価だった。


 その時。


「旦那様」


 家令が静かに入室する。


「何だ」


「次女様が王都に到着されました」


 レオニードの動きが止まった。


「……早いな」


「本日中に屋敷へお戻りになる見込みです」


「分かった」


 短く答える。


 だが、その思考は既に次へ移っていた。


 エリシアが来る。


 つまり――


「感情側の介入」


 ぼそりと呟く。


 彼女は自分とは違う。


 論理ではなく、感覚で人を見る。


 そして。


「……あいつの方が、適合する可能性があるな」


 それは、妹に対して。


 初めての評価だった。


 一方その頃。


 リリアーナは、いつも通り庭にいた。


「今日は少し暖かいわね」


 白い花が風に揺れる。


 ミアは、その横で微妙な表情をしていた。


「お嬢様」


「なあに?」


「本日、次女様がお戻りになります」


「エリシアが?」


 リリアーナの顔がぱっと明るくなる。


「本当?」


「はい」


「よかった」


 素直な笑顔だった。


「久しぶりに会えるのね」


 その反応に、ミアは少しだけ安心した。


 この方にとっては、それが全てだ。


 政治も、噂も、均衡も関係ない。


 “妹に会える”ことが嬉しい。


 ただそれだけ。


 ――数時間後。


 馬車が屋敷の前で止まる。


 扉が開く。


 エリシアが降り立つ。


 深く息を吸う。


「……帰ってきた」


 その一言には、どこか覚悟が混じっていた。


 案内に従い、屋敷へ入る。


 廊下を進む。


 懐かしい空気。


 変わらない風景。


 だが。


「……少し違う」


 気づく。


 人の動きが違う。


 無駄がない。

 整っている。


 これは――


「お兄様だ」


 すぐに分かった。


 そして同時に、もう一つ。


「……空気が張ってる」


 理由は分からない。


 だが感じる。


 何かが起きている。


 そして。


「エリシア!」


 その声で、思考が止まった。


 振り返る。


 そこにいたのは――


「お姉様」


 リリアーナだった。


 変わらない。


 本当に、何も変わっていない。


 柔らかい笑顔。

 穏やかな目。


 エリシアは一瞬だけ言葉を失った。


 噂と現実が、あまりにも一致しない。


「久しぶりね」


「え、ええ……」


 近づく。


 距離が縮まる。


 観察する。


 違和感を探す。


 ――ない。


「元気だった?」


「うん……」


 短く答える。


 まだ整理できない。


「お姉様は?」


「私は変わらないわ」


 その言葉が、一番引っかかった。


 変わらない。


 本当に?


「……ねえ」


 エリシアは静かに言った。


「王都で、何してたの?」


 直球だった。


 リリアーナは少し考えた。


「お茶を飲んでいたわ」


 沈黙。


 デジャヴだった。


 エリシアは目を細める。


「それだけ?」


「ええ」


「市場に影響出てるって聞いたけど」


「どうして?」


「騎士団が警戒してるって」


「どうして?」


「ギルドが動いたって」


「どうして?」


 同じ返答。


 同じ疑問。


 だが。


「……」


 エリシアは気づいた。


 これは“知らないふり”ではない。


 本当に分かっていない。


 そして、その瞬間。


「ああ」


 小さく声が漏れた。


「そういうことか」


 繋がった。


 全部ではない。

 だが、構造は見えた。


「お姉様」


「なあに?」


「ちょっと聞いてもいい?」


「ええ」


 エリシアは一歩踏み込む。


「困ってる人を見ると、どうする?」


「助けるわ」


 即答。


「どうやって?」


「その時一番いいと思う方法で」


「考える?」


「考えるけど……」


 少し首を傾げる。


「考える前に分かることが多いわ」


 その一言で、確定した。


「……なるほど」


 エリシアは笑った。


 初めて。


 楽しそうに。


「お姉様」


「なに?」


「それね」


 一歩下がる。


 距離を取る。


 そして、はっきりと言った。


「普通じゃない」


 リリアーナはきょとんとした。


「え?」


「いや、いい意味で」


「いい意味なの?」


「多分」


 エリシアは肩をすくめる。


「でもね」


 続ける。


「それ、多分“全部の原因”だよ」


「原因?」


「うん」


 周囲を見回す。


 屋敷の空気。

 人の動き。

 張り詰めた感じ。


「皆、お姉様を“普通の人”として見てない」


 リリアーナは黙った。


「だから」


 エリシアは結論を出す。


「お姉様が普通にしたことが、普通じゃなくなる」


 静かな断言だった。


 それは、この物語の構造そのもの。


 リリアーナは少し考えた。


 そして。


「……変なの」


 同じ結論に至った。


 エリシアは笑った。


「うん、変だよ」


 そして付け加える。


「でも面白い」


「面白い?」


「うん」


 くすりと笑う。


「ちょっと全部、見せて」


 その言葉には、明確な意志があった。


 観察。

 理解。

 検証。


 長男とは違うアプローチ。


 感情と直感で、構造に迫る。


「いいわよ」


 リリアーナはあっさり頷いた。


 そして。


「一緒にお茶飲む?」


「……うん、飲む」


 エリシアは笑った。


 こうして。


 王都に。


 “理解しようとする者”が、もう一人加わった。


 そしてその裏で。


 レオニードは静かに呟いた。


「……面倒が増えたな」


 だが同時に。


「だが、精度は上がる」


 そう判断していた。


 理性と感情。


 二つの視点が揃う。


 あとは――


 “それでも理解できない存在”が、どこまで逸脱しているか。


 それを測るだけだ。


 一方、当の本人は。


「二人で飲むと、なんだか嬉しいわね」


 ただ、そう言って笑っていた。


 何も変わらずに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ