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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

星の音ー聞こえない私が聞こえるようになった話

作者: とこ
掲載日:2026/02/21

よろしくお願いします。

 薄暗い倉庫の中で小さな命が尽きようとしていた。


 リリアは地方を転々とする商人の子として生まれた。

 1歳の頃、少し山奥に行商に行かねばならないと叔父夫婦にリリアを預け両親は出掛けて行った。しかし山崩れにあい両親は事故で死んでしまった。リリアはそのまま子どもが居なかった叔父夫婦に引き取られた。

 だがすぐに叔父夫婦のもとに待望の子どもが出来たことが分かった。

 叔母はつわりが酷く、やっと出来た子どもであったために神経質になりリリアと関わる事を嫌がった。

 リリアは父の商売を引き継いだ叔父に雇われている従業員が仕事の合間に世話をするような状況になった。 だが明らかに叔父夫婦にぞんざいに扱われるリリアを積極的に構おうとする従業員はおらず、厄介者扱いされ辺境の孤児院に送られた。リリアが5歳の時であった。


 孤児院の院長は厳しく子ども達を管理していた。

 職員も年長の子ども達も鬱憤が溜まっているのだろう。

 新しく来た子どもは必ずといっていい程虐められる。

 リリアも同様であった。仕事を押しつけられるが5歳の子どもだ。出来ない事の方が多い。

 しかし出来なければ罰を受ける。罰として食べ物を減らされる。

 自分が標的になりたくないから誰も助けてくれない。

 リリアはただ黙っていた。

 リリアは生まれつき耳が聞こえなかったのだ。

 聞こえないから話す事も出来ない。誰も気付かない、言葉を教えてくれる人はいなかったのだ。

 だからリリアは何故ここに居るのか、何故周りにこのような扱いをされているのか分かっていなかった。


 周りはそんなリリアの反応に苛つき更に虐めは苛烈になっていった。

 そしてついに雨の降る寒い日、孤児院の裏手にある倉庫に年長の子ども達によって閉じ込められた。

 子ども達にとってはかくれんぼの時など入ることもある倉庫で、簡単に扉が開く。

 だが最近ろくに食べ物も貰えていなかった痩せこけた小さな体では扉は開けられなかったのだ。

 リリアは誰にも気づかれることなく息を引き取った。


 ー*ー

『さぁ、おいで。本当はすぐに次の命に生まれ変わる事はないんだ。』

 『普通は辛い事でも魂の記憶はある程度埋まるはずなんだけど君の魂はあまりに空っぽだからね。』

 『浄化の必要がない。』

 『幸せになれるかどうかは君次第だけど次の命では魂が満たされるように生きてくるといいよ。』

 初めて聞いた音はとても優しく、温かなぬくもりに包まれたリリアの魂は淡い光を纏うと新しい世界に落ちていった。

 ー*ー


 カーテンのわずかな隙間から差し込んだ朝日は、毛布の中に潜るように寝ている少女には届かない。

 そっと部屋に入ってきて、まだスヤスヤ眠っている少女の顔を覗きこむと優しく肩を叩き声をかける。

「リリア、朝よ、さぁ起きましょう。」

 起こしにきたのはリリアの母、エリーだ。

 リリアは目を擦りながら起き上がる。

 エリーはカーテンと窓を開けて朝の新鮮な空気を取り込む。

 リリアの側にいき顔を見せるとゆっくり口を大きく動かしながら「おはよう。」と伝える。

「おーあよう。」

 たどたどしい口調だがリリアは返事を返す。

 エリーはあいさつを返せたリリアを褒めるように抱きしめると顔を洗うジェスチャーを見せる。

 2人はニコニコしながら身支度を整えると父の待つダイニングに向かった。


 ダイニングではリリアの父、ジークがゆったりとコーヒーを飲んで居た。

 リリアを見ると目を合わせ「おはよう。」と口を大きく動かし声をかける。

 リリアはやっぱりたどたどしい口調であいさつを返す。

「おはようは覚えたかな。少しずつ話す練習しような。」

 ジークは大きな手でリリアの髪をかき混ぜるように撫でると食事を指さし、食べるジェスチャーをした。

 こうして3人は今日も穏やかな朝を迎える。


 リリアは生まれつき耳が聞こえなかった。

 はじめはジークもエリーも気がつかなかったがあまりに音に反応しない状況におかしいと思い魔術医に見せ聞こえないと診断を受けた。

 生まれついた障害は魔術でも治せない。

 もちろんポーションなども効かない。

 2人は悲しみ、落ち込んだ。だが目の前では可愛い我が子が手足をバタつかせて笑ってるのだ。

 そんなリリアの様子を見て2人は、聞こえない事を受け入れよう、リリアを幸せにしようと強く決意し涙を拭った。


 ジークとエリーは元々冒険者でギルドで何度か同じ依頼を受け知り合った。

 剣士のジークと回復や防御の魔法が使えるエリーは次第に親しくなってパーティを組むようになり、やがて夫婦になった。

 子どもが出来一次的に冒険者業を休むつもりだったが、リリアの事もあり冒険者は引退する事にした。

 ジークは指導員として、エリーは回復治癒師としてギルドで働き始めた。

 はじめは聞こえない赤ん坊へに接し方が分からず手探りで世話をしていった。

 慣れないギルドの仕事と赤ん坊の世話で困り果てた時、昔なじみの冒険者やギルド長が相談に乗ってくれたり世話を手伝ってくれた。

 今ではみんながリリアに言葉を教えようとするので、大きな口を開けてゆっくり話している光景をよく見かける。

 小さな頃からギルドに出入りしていたリリアはすっかり人気者で、強面の冒険者もリリア相手にはニコニコしながら近づいて来て構ってから依頼に出て行く。

 他所の冒険者ギルドは殺伐とした雰囲気が多いがこの街は平和な雰囲気のギルドだ。

 一見緊張感が無くて実績が低そうだが、みんなが怪我などしてリリアを心配させまいと気合十分で依頼に臨むので依頼達成率は全ギルド内でも上位に入る。

 あちこち転々とする冒険者も多い中、この街を拠点とする冒険者も増えていった。



「いっえらっちゃい。」

 冒険者ギルドは今日も賑やかだった。

 リリアは5歳になり、周囲の協力もあって簡単な言葉なら口の動きを見て理解出来るようになった。

 もちろん通常よりゆっくり口を動かしてもらう必要はあるが、頑張っている姿をみんなが微笑ましい表情で見て協力していた。

 聞こえないリリアが動き回ると大きな冒険者につぶされかねない為、ギルドの受付の一角にスペースをもらい冒険者の送り出しやお迎えをするリリアの専門の仕事として置いてもらっている。

「リリア、行ってくるからな。」

 若い冒険者が出掛けるのか声をかける。

 すると仲間に羽交い締めにされ、

「行ってきますって言えって!リリアにちゃんとしたあいさつ教えないとジークさんに怒られるぞ。」

 リリアに見えないように口元を隠して話す。

「あっと、そうだった。聞かれてないよな。」

 言われた冒険者は顔を青くして慌てて言い直す。

「行ってきます。」

「いっえらっちゃい。」

 リリアはニコニコ手を振って見送った。

 リリアのおかげでこの街に来る冒険者は、《ちゃんとあいさつが出来るようになる》と評判が良くなっているらしいのだ。

 冒険者業の中には護衛依頼もある為、礼儀正しく振る舞う事も必要である。

 リリアとの接触は、荒くれ者が多い冒険者にとってはいい練習になった。


 その光景を依頼掲示板の陰から女が見ていた。

 隣の街で冒険者になったイライザ。女性冒険者は数も少なく、若く見た目も良かった為チヤホヤされた。

 そこで最近冒険者が増えているこの街に来れば、男性冒険者達と組んで楽に仕事が出来ると考えたのだ。

 はじめはパーティを組んでくれた。しかしこの街の冒険者達はきちんと仕事の出来を見てパーティを継続して組むかどうかを決めていた。

 徐々にイライザが他のメンバーに寄生して依頼をこなしていると噂が広まり、誰も組んでくれなかった。

「おもしろくないわね。」ボソッと呟く。

 つまらなそうに依頼掲示板を見ると何か思いついたのかニヤリと笑って依頼書を剥がすと、ギルドから出ていった。


 お昼の時間になるとリリアはギルドの裏手にある訓練場にいるジークを迎えに行くのが日課だ。

 熱が入り時間を忘れてしまうジークに、若手冒険者が指導され過ぎないようにする為だった。


 訓練場では午前中最後の指導を依頼した冒険者達がへとへとになりながらジークの木剣を受け止めていた。

「ジークさん、もう勘弁してくれ〜。昼過ぎてるって。」

「ん?指導がキツイからって嘘つくなよ。リリアが来ないんだ、まだ昼じゃないだろ。」

「いやぁ~とっくに昼過ぎてますよ。」

 そう言われて時計を見ると昼休憩の時間が終わりそうな時間だった。

「リリア来てないのか?まだ誰かと話す練習中か?たまには俺が迎えに行くか!」

 ジークは自分が迎えに来てリリアが喜ぶか、驚いた顔を見せるかと考えながらリリアの指定席に向かった。

 しかしそこにはリリアの姿はなかった。

「おい、リリアは?」

「時間通りにジークさんところ行きましたよ?」

 近くにいた職員に尋ねるとそう言われお互いに顔を見合わせると、何かあったのだと思った。

「エリーのところかもしれない。見に行って、居なかったら⋯状況を説明してやってくれ。俺は裏手の方探してくるから。」

 ギルド職員に頼むとジークは来た道を戻りながらリリアを探し始めた。しかしリリアは居ない。

「ギルドの敷地内だから安全だと思ってた。クソっ!」

 ジークは探し続けた。

 ジークは西の森の小屋を目指して走った。

 もうすぐ日没だ。

 ただでさえウルフの出る場所なのに、日没になれば更に奴らに有利な状況になってしまう。

 聞こえないリリアでは、ウルフが近づいても気がつけないかもしれない。

 いや、すでに⋯嫌な想像を振り切り走り続けた。


 昼にイライザに捕まったリリアは、西の森の小屋まで運ばれ小さい箱の中に閉じ込められた。

 そのまま誰かが見つけてくれるまで小屋の中に居るはずだった。

 しかしギルドに依頼が出ていたようにこの小屋にはウルフが出没していたのだ。

 ウルフは群れなのか一際大きく毛並みが黒いリーダー格を筆頭に5匹もいた。

 嗅覚の鋭いウルフ達は、箱の中の獲物リリアにすぐに気がついてしまった。

 しかし容易に箱は開かず、はじめは鼻で押したり前脚でカリカリしたりしていた。

 開かない、でも幼児の美味そうな匂いを感じ取ったウルフは、箱に体当たりをし始めたのだ。

 徐々に箱が動き、小屋の裏木戸を突き破り外の堀に転がり落ちた。

 そしてついに蓋が開いてリリアは外に投げ出された。

 周りをウルフに囲まれたその時、突然光に包まれて目の前に真っ白なウサギのような生き物が現れた。

 垂れた長い耳と真っ赤な眼、額にルビーのような宝石をつけ背中には小さな羽根も生えている。

 その生き物はウルフ達の方に眼を向けると数秒視線を交わしたかと思うと、ウルフ達は立ち去っていった。


 ー*ー

『ごめんね。あの時君の魂は空っぽだったからいいと思ったんだ。』

『そのせいで聴覚障害が残って。魂にあったキズが元で、こんな目に遭っちゃったんだ。』

『君は幸せになれるように頑張ってたのにね。』

『お詫びにこの子を送るね。この子が君を助けてくれるからね。頼んだよ。』

 ウサギのような生き物は小さく頷くような仕草をするとリリアの側で丸くなった。


 ー*ー

 ジークが小屋に辿り着くと入り口のドアには無数の鋭い爪痕がついて壊れていた。

「リリア!!」

 ジークは剣を構えながら小屋の中、周囲を探す。

 裏の堀にようやく体を丸めて倒れているリリアを見つけた。

 手足を縛られ全身に擦り傷はあったが、気を失っているだけのようだった。

「良かった。リリア、頑張ったな。」

 長いと息を吐きながら、周囲の確認をする。

 かたわらにはリリアを温めるかのようなふわふわの白の毛玉があった。

 ジークがそっとリリアを抱きしめると、毛玉がリリアの膝の上に乗ってきた。


「カーバンクル!?」

 カーバンクルは幻獣と呼ばれる生き物で、滅多に人前に現れない。

 見た目はウサギのように可愛いが、賢く魔法が使える為恐れられていた。

『リリア、守る、ずっと一緒』

 頭の中で小さな子どものような声が聞こえる。

 どうやらカーバンクルはリリアを守護してくれるらしい。

「リリアをお守りくださり、ありがとうございました。ですが一緒というのは人里にお出でになるということでしょうか?」

 ジークは怒らせないように慎重に尋ねた。

 噂ではかつてカーバンクルを捕獲しようとしたら、放たれた魔法によって森が黒焦げになったと聞いたことがあったからだ。

『リリア、一緒、離れない、リリア、あったかい大好き』

「ですが、そのお姿を見てかつてのように捕獲しようと企む者が現れないとも限りません。そうすれば、共に居るリリアが危険に晒されます。」

 ジークは冷や汗をかきながら勇気を振り絞ってカーバンクルに進言する。

『見た目、ただのウサギなる、問題ない』

「他の者には額の宝石や羽根は見えないのですね。お声も念話ですし、それならバレないでしょう。」

「わかりました。リリアをお願いします。ぁ⋯魔法は極力使わないでくださいね。バレますので。」

『リリア、守るため使う、他しない』


 ジークは再び長く息を吐き出すと、リリアを抱き上げて歩き出した。

 あの後リリアはギルドの治療室で目覚めた。

 体の擦り傷は、エリーが泣きながら治療した。

 数日身体を休め再びギルドで過ごすようになった。

 リリア自身が事件の事をあまり理解出来ていなかった為、事件の事を話すものはいなかった。

 しばらくみんなには優しく頭を撫でられたりほほ笑まれて過ごした。


『リリア、守る、一緒いる』

 カーバンクルはずっと側に寄り添っていた。目が覚めたリリアに念話で話かけた。

 突然頭の中で声がしたリリアは驚いたが、もふもふの毛玉に気づくと

「だれ?おあなし(お話)した?」

『ぼくリリア守る、お話出来るよ』

「おともらち(お友達)?」

『そう!ともだちだよ、一緒いい?』

 リリアはニコニコしながら頷いた。

『リリア、お名前つけて』

 リリアは、腕を組んで考えた。全く腕組み出来ていないが⋯。


 今日もギルドは大賑わいである。

 復帰してリリアの側に真っ白なウサギが居て、可愛さが2倍⋯いや何倍にも膨れあがった。

 カーバンクルはスピカという名前を貰った。

 毎日リリアと一緒に居て念話で話す練習相手になり、耳の代わりになって周りの話を教えてくれた。

 スピカの声はみんなには聞こえない。

 カーバンクルである事は両親とギルド長だけが知っている。

『リリア大好き』

「スピカだいしゅき」


連載で書いてみたけど、思ったより短くなったので短編にしました。やっぱり難しいですね。

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