表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

第六話

ある朝、佐久間が言った。

「ここから1時間ほど離れたところに、ショッピングモールの物流倉庫がある。食料が残っているかもしれん。今日は坊主も来い。実践だ」

悠真の心臓が跳ねた。

訓練を始めてから、初の実戦だ。


怖い・・・でも――やるしかない。

「…はい」

小さく返事をすると、佐久間は軽く頷いた。


「佐久間さん、もっと早く言ってくれたら心の準備が出来たのに・・・」

不服そうな悠真の言葉に、佐久間は笑って答えた。

「何言ってんだ。もっと早く言ってたら、色んな想像ばかりして、余計に怖いだろう」

確かにそうかもしれないと感じた悠真は、それ以上何か言うのは止めにした。


二人は最低限の荷物と非常食を持って、慎重に街を進んだ。


佐久間の対ゾンビの方針は、基本的に“戦わずに逃げる”ことだ。

派手な動きや音を立てれば、余計なゾンビを呼び寄せてしまうからである。

ゾンビを見つけるたびに、二人は物陰に身を潜め、息を殺した。

どうしても避けられない時だけ、佐久間が素早くゾンビを仕留める。


そのどんな場面も、悠真にとっては恐怖でしかなかった。

張りつめた緊張が続き、時間の感覚さえおかしくなりそうだった。


それでも悠真は訓練通りに呼吸を整え、足音を消した。

(怖くない、怖くない……動け)



2時間ほどかけて、ようやく物流倉庫にたどり着いた。

高い壁にぐるりと囲まれ、正面の大きな門は固く閉ざされている。


どうやって入るか考えていた時、ふと横の警備員室が目に入った。

ドアが半開きになっている。

「佐久間さん、ここ……開いてます」

「よし、入るぞ」


警備員室を抜けて敷地内へ入ると、あちこちに“蠢く塊”が転がっていた。

近づくにつれ、それが何なのか理解してしまい、悠真は思わず口を押さえた。


――ネットに絡まり、もがいているゾンビだった。


一塊で十数体はいる。

網から逃れようと暴れるたび、みちみちと肉のこすれるような嫌な音がした。


「悠真、見るな。行くぞ」

佐久間の声に、悠真は震えながらも前を向いた。


倉庫の扉は幸運にも施錠されておらず、静かに押し開けることができた。

中は広く、背の高い棚が果てしなく並んでいる。

そこには、お菓子、缶詰、水、非常食、衣類――さまざまな物資が大量に残されていた。

「わぁ……」

思わず声が漏れた。


佐久間と相談しながら、持ち出す物を選んでいく。

その途中、佐久間が迷彩柄のリュックやパーカー、さらに靴まで差し出してきた。

どうやら倉庫を探索しながら見つけておいてくれたらしい。

「これから本格的な冬になる。悠真、これくらいは必要だ」

「ありがとう…ございます」

悠真はリュックに服と食料を詰め込んだ。

渡された靴はミドルカットの登山靴で、スニーカーから履き替えてみる。

ぎゅっと踏みしめると、足元がしっかりと安定し、ほっと安心した。


そろそろ出ようと佐久間が手で合図を送ってきた、その瞬間――

倉庫の入口で、低い唸り声が響いた。

数体のゾンビが入り込んできたのだ。

しまった。長居しすぎた――!

「悠真、逃げ道を探せ!」

佐久間の声に、悠真は必死で周囲を見渡した。



その時、頭上から声がした。

「そこの少年! こっちへ登ってこい!」

見上げると、奥に並ぶ背の高い棚の最上段に、数名の人影が見えた。

生きた人間だった。

悠真は思わず涙がにじんだ。

(よかった……まだ、生きている人がいる……!)


佐久間の頷きを確認し、悠真は棚をよじ登った。

佐久間も周囲を警戒しながら後に続く。

棚の上で待っていたのは、この倉庫で働いていた人々だった。

彼らは天井近くの棚を渡り歩きながら、なんとか生き延びてきたらしい。

「外にいた奴らはネットで動けなくできたと思ったんだけどな……倉庫の中にも紛れ込んでてさ……」

彼らの視線の先では、さきほど入ってきたと思っていたゾンビが、こちらをじっと見上げている。

どうやら元々この倉庫の中に入り込んでおり、そのせいで彼らは棚から降りられなかったのだ。

「もうずっとこんな体勢でよ。そろそろ限界で……」

そう言って一人が苦笑した。


佐久間は状況をひと目見るなり、即座に動いた。

「食料をもらっていく礼だ。俺がなんとかしよう。最後は手伝ってくれよ」

そう言うと、棚から軽やかに飛び降り、棚に掛けられたネットをナイフで器用に切り裂いていく。

悠真はその無駄のない動きを見逃すまいと、凝視した。


裂いたネットを棚と棚の間に張り巡らせていくと、いくつかの通路が封鎖された。

続けて佐久間は大声を出して走り回り、ゾンビをその一角へ誘導する。

ここまでくると、佐久間が何をしようとしているのか、皆わかり始めた。


ヴオォォ……と唸り声を上げながらゾンビたちが集まってくる。

そして、一箇所に固まった瞬間――

皆で一斉に上から大きなネットを落とし、一網打尽にした。


棚の上にいた人々が急いで降りてきて、ネットにつけられた長い紐でゾンビを網ごとぐるぐる巻きにする。

そのまま全員で外へと引きずり出した。

「やったぞ!」

歓声が弾けた。

ゾンビがいなくなった倉庫で、彼らはようやく床に降り立つことができた。



彼らは外の状況を知りたがった。

佐久間が説明すると、絶望したような表情を浮かべる者もいる。


その空気を感じ取り、悠真は思わず大きな声を張り上げた。

「僕、両親を探してます。きっと……きっと生きてると思う。皆さんみたいに、生きてると信じてます。だから、皆さんの大事な人も、きっと生きてます!」

すると、「そうだな」「希望はまだある」と、次々に声が返ってきた。


佐久間は彼らを誘ったが、倉庫で働いていた仲間同士、物資のあるここで救助を待つという。


別れを告げ、悠真と佐久間は慎重に工場まで戻った。

工場に到着してすぐ、佐久間がにやりと笑った。

「悠真、よくやった。冷静に動けてたじゃないか」

悠真は緊張で荒くなった呼吸を整えながら、胸の奥に小さな誇りが灯るのを感じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ