第三話
小学校に隠れてから四日目の朝、悠真は家に帰る決心をした。
(両親が、自分を置いていくはずがない。きっと家で待ってる。)
スケッチブックにマジックで《ぼくは外に行きます。両親を探します。 桐谷悠真》と書き、破り取ると廊下の窓にテープで貼り付けた。
そのまま、一階の一年生の教室の窓から外に出た。
この数日間、窓から街を眺めていたが、なぜかゾンビは校内に一体も入ってこなかった。
高いフェンスと閉ざされた門のせいか、それとも単なる偶然か。
生きている人もほとんど入ってこなかった。
入ってきた人は体育館へ向かうだけで、校舎には目もくれなかった。
悠真は、体育館の窓から中を覗いた。
思ったより多くの人がいた。
30人くらいだろうか。
体育館が避難所みたいになっているようだ。
「そろそろ食料が…」
「この子熱がある…」
断片的な会話が聞こえる。
しかし両親の姿はない。
悠真はそっとその場を離れた。
校門をよじ登り、慎重に街を歩き始める。
ゾンビの気配がすると、すぐに物陰に隠れた。
心臓は早鐘のように鳴るが、悠真は止まらない。
途中、コンビニの中で必死に食料を漁る中学生くらいの姉弟を見かけた。
声をかけたかったが、勇気が出ず、遠くから見守るだけにした。
もうすぐ家に着く。
走り出したい気持ちを抑えて、慎重に家に近づいた。
しかし、家の前にはゾンビがうろついていた。
悠真は、家の手前にあるマンションの陰に隠れた。
それから数時間、マンションの陰に隠れていたが、ゾンビはいなくなってくれなかった。
「帰りたい……」自然と涙があふれた。
すると、一体のゾンビが悠真に気づいたように、ゆっくり近づいてきた。
慌てて家とは反対方向に走り、街の奥へ逃げ込んだ。
逃げ込んだ先に、しっかりした小さな廃屋を見つけた。
中に入って、扉を閉め、一番手前の部屋の隅に座り込んだ。
体は疲れ切っていたが、心はまだ折れていなかった。
「絶対に生き延びてやる。絶対にお父さんとお母さんに会うんだ」
暗くなる夕闇の中、悠真は目を閉じた。
目を覚ますと、窓の外でかすかに音がする。
ゾンビの唸り声ではなく、人の声だ。
「……こっちに誰かいる?」
「廃屋だよ、いないって…」
恐る恐る窓から覗くと、懐中電灯を持った二人組が立っていた。
昨日コンビニで見かけた中学生くらいの姉弟だ。
迷ったが、悠真は小さな声で窓から呼びかけた。
「僕、ここにいる!」
二人はびくりと体を震わせ、慌てたように振り返った。
姉の美咲は「ずっと一人でいたの?怖かったね」と優しく言い、弟の翔太は「すげーな、小学生なのに生き残ってるじゃん」と感心したように言った。
久しぶりに人と話せた安心感で、悠真は胸が熱くなる。涙が出そうだった。
三人はこれまで見てきた情報を交換し、最も重要な問題に気づいた。
食料が圧倒的に足りない。
昨日のコンビニはほとんど食料が残っていなかったらしい。
三人は協力して食料を確保することに決めた。
二人は悠真にいろんなことを教えてくれた。
翔太は「あいつらは音に敏感。静かに動け」と助言し、美咲は「逃げるなら広い道を選べ。狭い路地は危険。捕まったら終わり」と警告する。
悠真は必死に覚え、昨日までの「走って逃げるだけ」から一歩進んだ「生き延びるための行動」を理解していった。
翌昼、三人は廃屋の屋上から街を見渡した。
煙が立ち上り、ゾンビが数体ずつ群れを作って徘徊している。
美咲が「昨日のコンビニで避難所があるって張り紙を見たけど…本当かな」と呟き、翔太は「そこまでが危険だろ」と返していた。
悠真は黙って二人の会話を聞いていた。
心の中では「両親を探したい」という思いが強いが、今は一緒にいる二人を優先することにした。
小学生の悠真は、少しずつだが、確実に成長していた。




