転校生
「ふぅ、間に合ったー。」
「ギリギリだぞーどしたんだよ。」
「いやー川の前のベンチで寝ちゃってさ。」
「ははっ!お前はいつでも寝てんな。本当に。」
「いつも同じ夢見てて飽きない?」
「まぁね。」
「はーいこんにちはー」
「大事な連絡するから聞いてくださーい。」
教室のざわめきの中で担任が口を開いた。
「今日は転校生を紹介します」
空気が一瞬で華やぐ。
皆が前を向き、期待の視線を黒板へ集める。
だが僕だけは違った。
教室に入ってきたその少女を見た瞬間、心臓が大きく跳ねた。
夢で見た少女。
街の交差点で人ごみに紛れても目を引いた少女。
――そして今、目の前にいる転校生。
髪型は普通だ。
けれど、その独特の髪色を見間違えるはずがない。
教室の空気がざわつく。
彼女は静かに自己紹介を口にした。
言葉の一つひとつは耳に届いているはずなのに、頭の中に入ってこない。
僕はただ動揺を隠すように、下を向いていた。
「じゃあ席は――りょう(主人公)の隣で」
担任の言葉に、教室が再びざわついた。
(おいおい嘘だろ。)
彼女と目が合った。
笑顔を浮かべながら、すっと隣に腰を下ろす。
「ねぇ、りょう!さっきも言ったけど、私――夢!泡沫夢!よろしくね」
「あ、あぁ……うん」
「ちょっとまって、何で名前知ってるの?」
「あぁ、えーと…………先生が言ってたじゃん!」
「あぁたしかに。」
夢の残像と、今ここにいる彼女とが重なって、頭が混乱して、変なことを聞いてしまった。
彼女はそれ以上何も言わず、ただ小さく微笑んだ。
その笑顔が、なぜか心の奥を締めつけた。