二話「亡霊」
一話から継続して見て下さっている方が居ましたら、あらすじを変更しましたので確認して頂けると幸いです。
一時間程彷徨った。
今日は「亡霊」が全く居ない。
いつもなら男の一人二人は既に送っているのだ。
「おかしい」
亡霊が居ない、それは喜ばしい事である。
亡霊は埋葬されなかった遺体から生まれる。
つまりは風に晒されている遺体が無いという事、そして救いを求め彷徨う魂が居ないという事。
誰がどう考えても喜ぶべき状況であろう。
しかし、過度な平穏程不気味に感じる物は無い。
…いつの間にか止まっていた足を再度進める。
「あのぉ」
…
…
「食べ物を分けてくれませんかぁ?」
近くから声が聞こえる。
気づけば、周りには麦畑が広がっていた。
局所的に生じた異界に、一つの人影を見つける。
…筋肉質な青年、しかし生気があるのは見た目だけ。
声は掠れた老人のもの、彼は十中八九亡霊だ。
亡霊は生前一番満たされていた時期の姿を模して現れる。
そして同時に満たされたかった物を象徴したナニか、それを全力で表現してくる。
「少しでも良いんです…この通り…」
バラガシャは腰の刀を握る。
「ハァッ!」
弧状に振られた刀は青年の首筋を捉えた。
「…可哀想に」
倒れた青年の体が炎に包まれ、火球がどこかへ飛び去っていった。
引火して燃える麦畑の中を、バラガシャは神妙な面持ちで駆けていく。
…
5分程追いかけた所で途端に冷えた夜の風を感じ始めた。
「…あそこか、彼の遺体があるのは」
現世の開けた草原、そこにぽつんと在る岩場へ火球は向かっていった。
居た。
やはり本当の彼は老人。
周りの草が千切られているのを見るに、衰弱していく過程を想像するのは容易であった。
火球はゆらゆらと遺体の上で燃えている。
「フッ」
息を吹き掛けると火球は消えた。
バラガシャの役目は魂を成仏させる事、
静かに目を閉じ手を合わせる。
しかし、不穏な気配が消えることは無かった。




