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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

リホ

作者: くよくよ
掲載日:2025/05/29

みなさんは忘れられない女の子っていますか?

この世の中でいちばんの女の子の名前は絶対に「リホちゃん」だ。彼女は私の憧れだった。彼女とはしわくちゃでみんな同じ顔に見えた0歳の頃から一緒だった。そう、はじめは同じで一緒だったのだ。彼女はまるで合わせ鏡のような存在で、長い間もう一人の私として私の心の中で特別な場所にいた。そんな彼女とのつながりが消えて、今私はどうしようもない喪失感と悲しみ、変化への恐れを感じて涙を流している。何が変わってしまったのか分からない不安もそうだが、いちばんは彼女に見限られたのではないかという不安。それが私を支配してとてつもなく胸が苦しい。彼女との決別を受け入れるために私はカメラロール、アルバム、メッセージを見て過去を思い出している。




 彼女は私と同じ団地に住んでいた。同じと言っても大人になって知ったことなのだが所得が比較的高い棟に住んでいたらしい。思い返せば彼女は小学校に上がる前に団地を出ていき、家族4人で一軒家へと引っ越していた。こんな些細な所でさえ、同じようでいて彼女の方が「上」なのだと感じてしまう私は彼女をだいぶ美化していて、彼女に無意識に劣等感を抱いていたのだと気づく。彼女はいつでも私の「上」にいた。彼女は器用な人で親指よりも小さな折り紙で鶴を折ったり、たくさんの習いごとをしたりしていた。文字が書けるようになったのも、自転車に乗れるようになるのも、スケート教室でスケートが滑れるようになるのも、流行りに乗って二人同時に始めたローラーシューズが滑れるようになったのも、ぜんぶ彼女が先だった。劣等感を感じなかったわけではなかったが、優しい彼女の笑顔が柔らかくて大好きでそんなことはどうでもよかった。幼い頃は毎週末になると彼女の家に電話をかけて遊びに誘ったものだ。平日も保育園で二人きりで遊んでいるのに。そういえば、はじめからおわりまで誘うのはいつも私ばかりで彼女から誘われたことはなかった。彼女は引っ込み思案というわけでもなくお遊戯会では主役を買って出るほど活発な女の子だった。相手が私でなければ、きっと自分から遊びに誘うこともあっただろう。いつも私から。一方的に。それでも、私は彼女と特別なつながりを感じていた。なぜなら、彼女も私に特別な言葉をかけてくれたからだ。




 中学生の頃、クラスメイトにいちばんの友達は誰かと聞かれたことがある。それに私は漢発入れず「りほちゃん」と答えた。当時彼女よりも話す相手、遊ぶ相手はいたしよく一緒にいるわけでもなかった。けれど、私にとって本当に友達だと感じられたのは彼女だけだったのだ。私の答えを聞いてそのクラスメイトは少し驚いた顔をしたのを覚えている。彼女にも同じ質問をしたみたいだった。彼女は誰の名前を言ったのだろうと気になり答えを聞く。「××ちゃんだって。」と私の名前が出た。その時はとてもとても嬉しかった。好きな人と両想いであることが分かった、そんな高揚感があった。その日は家に帰って母に「私たちは離れていても同じ気持ちなんだ。」「大切なのは距離でも時間でもないんだ。」と自慢げに話した。彼女と想いが通じ合っていると確信できてからは、俄然やる気が湧いてきた。心強かった。彼女の心に私の居場所を感じて安心できた。ここまで振り返ってふと考える。なぜ彼女は私から離れたのだろう。私のことが嫌になったのだろうか。彼女が私を嫌うはずない。その思いと同時に「いやあり得るかもしれない」という思いが湧いてくる。この疑いや不安はなぜ私の中に湧いてくるのだろう。もしかしたら小学校のときの記憶が引っ掛かっているかもしれない。




 小学校での彼女との記憶はほとんどが楽しく充実していたものだったが一つだけ気になることがあった。それは彼女のクラスの担任とのことだ。何でもない普通の一日。そんな日に前触れもなく彼女の担任が声を掛けてきた。彼女の担任とは普段全く話したことはなく、声を掛けられたことがとても不思議だった。一体何の話かと耳を傾けると私は驚いた。「うちのリホをいじめないで。」彼女の担任は私が彼女をいじめているというのだ。今となっては何と言って責められたのか覚えていないが、いつも遊んでいるときに私が彼女に酷いことを言っているという内容だったと思う。その頃はあまり遊ぶ機会もなく、彼女と喧嘩したりしたのは保育園の頃だったような気がする。完全な言いがかりに私は「え。」と口から言葉を漏らした。彼女の担任がその話をするということはおそらくというか絶対に彼女が私にいじめられていると話したのだろう。彼女が私に嫌悪感を抱いているようには見えなかったし、彼女がその話を担任にする経緯もまったく見えてこなかった。彼女は私にいじめられていると思っていたのか、彼女はどういうつもりでそんなことを話したのか、気になることはたくさんあったが彼女は変わらず私と仲良くしてくれていたから、時間が経つとすぐに気にならなくなった。彼女とはその後も平穏な関係が続いた。




 私たちは好奇心旺盛で何でもやりたがるところがよく似ていた。そのせいか児童会や生徒会など学校の活動で顔を合わせることが多かった。示し合わせていないのに、いつも同じ場所にいた。クラスが同じになることはなかったが、接点は消えなかった。しかし、中学校を卒業した後、高校が別々になったことをきっかけに会うことは少なくなった。それでも寂しさが湧くことはなかった。中学生のときのあの一件で私は彼女とのつながりは距離も時間も関係ないと確信していたからだ。それぞれが自分の青春を楽しみながら、たまにSNSを「元気にしてるんだな。」と互いの存在を確認していた。たまにふと互いのことを思い出すと、会う約束をして店にも入らずに自転車にまたがったままだべった。心地よい関係だった。そばにいるわけではないけどふとした時に思い出してその存在が支えになる。理想的な関係だった。他の友人との関係が切れても「リホちゃんがいる。」そう思うと喪失感が湧くことはなかった。





 そんな彼女との関係が少し変化してきたのは大学に入ってからだった。この時も図らず彼女と私は同じ教育分野に進み、将来は地元で教師をやるつもりだと知り「また一緒だね。」と彼女と笑いあった。私は県外の大学で、彼女は地元の大学に通った。それぞれ大学で新しい友達ができたけれどそこまで深い関係の友達はできなかった。それもあってか私たちは深い関係を求めて以前よりも会う機会が増え、話す内容も濃くなっていった。変化したけど、私にとってうれしい変化だった。前よりももっともっと彼女の特別に近づいている気がした。彼女は県外の私のアパートまで車を運転して何度も遊びに来てくれた。会えない時間はSNSで互いのおおまかな近況を把握し、「今度会ったとき詳細を教えてね。」と互いにメッセージを送っていたりした。彼女のSNSのアカウントはたくさんの人と繋がっていて、彼女はそちらにはあまり投稿はしなかった。15人くらいのアカウント。そちらの方に彼女はたくさんの投稿をしていて彼女のプチ日記みたいになっていた。それを見ることを許されたのは限られた人間で、その中に私は入っていた。投稿には私との投稿もたくさんあり、彼女は基本的にアーカイブ投稿しかしないのだが、私はたまに態々彼女のアカウントを覗いて彼女の日常を楽しんでいた。それだけでも十分優越感を感じていたのだが、彼女は私の影響で別のSNSを始めた。そのSNSは日記よりも手軽に今の気持ちを吐き出せるもので、私はよくそこに表立っては言えない気持ちを書いていた。そこに心の内を吐き出すと胸がすっと軽くなってまたがんばろうと思える。そう話すと彼女も始めてくれた。そこは私と彼女だけの空間で彼女の本音は私だけが見ることができるものになった。私が落ち込んだ様子を見せると彼女は「また話聞かせてね。」とメッセージを送ってくれた。この頃の彼女との関係はいちばん濃密で私は幸せを感じていた。




 これは誰にも言ったことのないことだが、この頃私は彼女に恋心さえ感じていた。この子と人生を歩めたら毎日が幸せだろうなと本気で思っていた。しかし、その気持ちは私に恋人ができたことで単純に人間として好ましい、単なる憧れだと片付けられてしまった。彼女が離れていった今となってはその気持ちが本当は何だったのか確かめることもできない。私に恋人ができてから、彼女との会話はさらにプライベートなものになり、よく二人で飲みにいっては朝まで語り合った。彼女はアルバイトなどで忙しい中でも時間を作って私に会いたがってくれた。その事実が彼女の心が私に向いていることを証明していた。





 しかし、彼女が卒業論文に取り掛かると言った秋を境に彼女の私への態度は緩やかにでも確かに変わっていった。まず毎回欠かさず反応してくれていたSNSに反応がなくなった。遊びの誘いを断るようになった。ここまでは単に忙しいからだと自分を納得させることができた。しかし、毎年欠かさずに送ってくれた誕生日を祝うメッセージがその年は送られてこなかったとき忙しさが理由でないと気づいた。そこから私は彼女が何らかの理由で私から距離を取ろうとしていると確信した。私は彼女をつなぎとめたくてタイミングを見計らって彼女にメッセージを送った。他人行儀な返事が返ってきた。長文で返してはくれるものの、表面的な内容で彼女はどこか私に対して申し訳なさを感じているような口調だった。私から離れたいなら、私を突き放したいなら申し訳なさなんて感じる必要はないのに、なぜか彼女は「わかってほしい。」と言い私を遠ざけた。その完全に拒むわけではない態度がかえって私を諦めさせてくれなかった。何か理由があるのではない、彼女に何かあったのではないか、納得できそうな理由を探してみるがまったく納得できなかった。とりあえず様子をみよう。そう思い私は彼女のSNSのアカウントを覗いた。すると、彼女のアカウントは見ることが出来なくなっていた。




 彼女が私をはじいたのだ。たくさんの人と繋がっているアカウントは変わらず私と繋がっていて、それをみて私は彼女の意思表明を受け取った。私はもう彼女の中で特別ではなくなってしまったのだ。彼女は私を「その他大勢」に分類しなおしたのだ。私は未読のままの最後に送ったたわいもない会話のメッセージを取り消し、メッセージアプリの一番上、恋人のアカウントの上に留めていた彼女のアカウントを外した。彼女がなぜ私から離れたのか、終わらせるならどうして何も言ってくれないのか、考えても私には分からない。




 以前は感じていた彼女とのつながりがプつっと切れた感覚がした。いや、切れたのではない。本当はもっと前に切れていたつながりの切れ端をやっと私が手放したのだ。私はリホちゃんみたいになりたかった。リホちゃんが以前一緒に自転車を漕いでいた時私に言った言葉を今でも思い出す。前を走っている私の束ねた後ろ髪を見て言った。「××ちゃんの髪の毛きれいだね。××ちゃんみたいになりたい。」その言葉を聞いて私は嬉しかったのだ。いつも彼女に憧れているのは私だけだと思っていたから。彼女も私と同じ気持ちを抱いてくれるのだと思えた。憧れて憧れられて、尊敬して尊敬されて、互いが互いを見つめているような関係が私にとっては尊くて何より大切だった。彼女にとってはどうだっただろうか。違ったのだろうか。二人の関係を「いらない。」と言われた感覚がして、今はまだ暗い気持ちでしか受け止められない。涙が次々と出てくる。こんなのまるで失恋だ。何を大げさなと笑いたくなるが、この胸の痛みは本物だ。















私と似た女の子。私にはないものを持った特別な女の子。私の憧れの女の子。私の。私の。私のこれまでの人生を一緒に過ごした大好きな女の子「リホちゃん」。





















私に娘が生まれたなら、この世でいちばんの女の子の名前を付けてあげたい。そして、生涯彼女の名前を呼んでいたい。そう思う私は少し気持ち悪い。










こんなの小説でもなんでもない、ただの自己満足文章です。

誰に伝えたいでもなく、私が抱えていられないからここに吐き出すのです。

こんなにも、思い入れがある名前は初めてです。自分の名前以上に特別な響きがします。

彼女が幸せになりますように。あわよくば、私も幸せになりますように。



そして、くよくよとしたこの気持ちの整理がつきますように。


この作品を書いた時に聞いた曲:夜桜feat.めいちゃん(Oficial Video) https://youtu.be/fJTilpbUEtI?si=SSXK4TIC52p5-9KX

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