権力と神話と崇拝と
そして金曜日。
「伊崎くん!待ったぞ!」
料亭の一番ヤバそうなところ。
案内された先に、諸星会長と知らない男たちが数人。
ジジイというほどではないが、オジサンだ。
「どうも」
「伊崎くんだ」
「本当に若いな」
「こんなにも若い少年が、諸星さんの?」
詐欺に遭ったかのような視線を浴びながら俺は、椅子に座る。
「おいおい、そんなことを言うのはよしたまえよ!
伊崎くんの力は本物なんだ。
私を見ろよ」
言動まで若くなってるし。
やっぱり見た目が変わると性格も尖りだすのか?
⋯⋯あ、俺が生きる証拠やった。
「伊崎くん、紹介しよう!
私の後輩で名だたる建設企業の社長と倉橋財閥現会長だ」
「倉橋と言います。
伊崎くんのお話は最近だけでも100回は聞いてるよ。
何やら特殊なんだとか。
新素材の開発に尽力してくれたんだとか」
このレベルの人間が下手に出ているということは一応しっかり対策はしてるのか。
「伊崎です。お金稼ごうと思って声を掛けたら凄く規模が大きくなっちゃいました」
「ははは、正直だね。
諸星さんからお金は取っておいて良いと思いますよ。
有り余ってるでしょうし」
「んっ!何を言う!」
と、何回かイジられているのを見るに、諸星会長が好かれるのがなんとなく理解できる。
格は保ったまま後輩も混じりやすい空間を作れるというのは才能だ。
「そうだ! 伊崎くん、以前話した企画の初期構想から始めたいのだが」
「⋯⋯え?もうやるんですか?」
初期構想というのはデウバン倶楽部構想の事を言っている。
デウバンという言葉に聞き馴染みはないと思うが、デウバンというのは向こうでの意味は永遠という意味で、まぁ俺がやろうとしているのは単純。
設立して権力を持つ人間を集める事でみんなで助け合おうねー!という場を創ろうということと、俺の駒を集めやすくする為の場所でもある。
そして。
俺の魔力がどうにでもなったことによってエリクサーの暴力が始まった。
魔力があれば様々な物のエリクサー、この世界で神話になるような現象を起こすくらいの物は生成可能だ。
長ったらしいか。
まぁ簡潔に言えば、倶楽部とは謳ってるが、実際は俺の力を享受する代わりに様々な権力を得ようという場なわけだ。
小さくても全国各地で権力を発動するには駒がいる。
倶楽部は一定水準が設けられ、どれだけ貢献したかでエリクサーの量を調節する事で支配して来た大人たちが俺に平伏する為に無意識下で必死に尻尾を振る構図を作れるわけだ。
内容自体は俺が考えていたものだが、その概要を言い出したのは諸星の会長だ。
その力を得たいと思う人間がいっぱいいるのだから、秘密裏に集めよう!と。
「今がその時だと私は感じるぞ?
後輩ならばすんなり入ってくるだろう!」
⋯⋯まぁ。みんな頭が寂し目に加えて肌もボロボロだしな。
「伊崎"さん"!その倶楽部というのは入会条件などはありますか!?」
「おい早いぞ!
どうでしょう?うちの娘は年頃ですが」
「抜け駆けはなしだと言ったばかりじゃないか!」
「ははははっ。な?伊崎くん?
私の思った通りだろ?」
さっきとは違って目が血走ってる。
人の欲望とはここまで瞳を変えるものだと、久しぶりに思い出したな。
「選定は会長に任せます」
立ち上がって俺は会長にそう言い放つ。
「良いのかね?」
「⋯⋯だって会長──俺のことをよく理解してるじゃないですか」
背を向ける俺に訊ねる会長。
それに対して俺は、会長にだけ理解できる言葉でナイフを刺して料亭を後にした。
*
「用件は終わりました?」
「あぁ」
「芸能事務所のことですが」
「あぁーそっちな。
とりあえずは諸星と白波の力が最大限に発揮された事で筋は通してる事になるそうだ」
さっきのオジサンたち。
実は芸能系連中と繋がってる人達でもあったようで、諸星会長が集めた目的は最初からそっちのようだった。
挨拶をしないといけないが、今回に限りあの喜びよう⋯⋯まぁ良い方向に運ぶだろう。
「なんか」
「ん?」
「俺としては問題はないですけど、ドンドン規模が大きくなっててなんか実感ないですよ」
切なそうに笑う石田。
まぁコイツも大出世だもんな。
極道から敏腕秘書へ昇格。
優れた会社二社のトップで役員報酬だけでも生涯の人間が稼げる年収近く稼ぐ訳だし。
「安心しろ。軸は変わらん」
そう。俺はただ、でろでろんとした生活が送りたいだけなのだ。
良い飯を食って、良い女を抱いて、分かり合える身内で意味不明な毎日を過ごす。
表ではなんかそれらしい身分。
裏では覇権を常に握ってる存在。
こんな人生を歩めれば良いのだ。
「伊崎さんに付いていくので精一杯なので考えないだけです」
「まぁ、別に問題ないだろ。
とりあえず、今年はまだまだやる事がある」
才能の原石。
渇望する人間の原石。
狂気じみた人間。
神話を作る為にはどれも必要な人材だ。
「人ですか?
モデルや小さな規模でのオーディション形式でも、人を出させて既にかなりの面談数がありますが」
「いつだ?」
「⋯⋯明日です」
「明日?俺休めねぇじゃん」
「伊崎さん」
赤信号を見た石田が振り返ると。
「⋯⋯俺は毎日働いてます」
やられた。
⋯⋯調整しやがった。
コイツは俺に対して一切引かない事で有名だ。
柔らかーい笑みを張り付け、巻き付いて窒息させるような手段はまさに蛇だ。
「夏休みのバカンス、俺は誘われてないんですよ」
「色々あるだろ」
「アニキはモデルの背中にオイル塗ったって!!」
⋯⋯泣いてやがる。
でもな?石田。
これからそんな機会腐るほどあるんだから、泣くな。
それにお前彼女いるやん。
なんで泣くねん。




