永い(終)八雲
一部混乱があるとは思いますが、作者の供養だと思って頂ければと思います(笑)
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万物の王は傲慢であることが重要視"される"。
相手など関係なく。
しかしだ。
紅い眼光から出るフック。
「っぐ⋯⋯!」
モロに貰った。
しかし返す。
こっちも蒼い眼光を漏らしてやって返す。
顔面へ、ドストレート。
鳴っている音は人間が出せる音ではなく。
それは大砲そのものだ。
一撃。ノーガードで貰う。
まるでその光景はプロレスだ。
そして貰った奴から、今度は蹴り。
俺達は異常者だ。
一発一発殺り合って。
だが俺達の顔は足りない、と。
正気の沙汰ではない。
殴って蹴って顔面を壁に押し付けて。
だが興奮している俺達に戦いが終わるとは思わなかった。
それに、魔力を使わないとしてもだ。
俺が純粋に肉弾戦でここまで参るとは思わなかった。
それもそうだ。
コイツの喧嘩は耐久力と荒々しくもどこか技術の凝縮された技に他ならない。
向こうでは遠距離攻撃、近くても剣の軌道。
だが、コイツは間違いなく対拳。
⋯⋯全く噛み合わない。
喧嘩で戦ったことがないから。
言い訳をしているわけではなく。
ただ純粋に、こんな戦い方があるのかと思っただけだ。
それもこれも、コイツの耐久力があるが故の戦法なのだろうがな。
とにかくコイツの硬さは、耐久力で言えば今まで会った中でも上位に入る。
しかも、魔法や純粋な力で言えば──見たことがない。
少なからず法則が違うのだからこちらより優れているのが当然。
だがコイツは、隙あらば俺の体を壊してくる。
⋯⋯もうどれくらいやり合ってる?
まずい。
ここまで強いと思ってなかった。
「⋯⋯っ」
下から深く沈み込んだ身体がバネのように弾け、アッパーが俺の顎を狙う。
クソみたいな笑い顔で。
"さっさと殺すか?"
腕を上げた俺の頭に過る言葉。
しかし許さない。
自分の矜持が許さないのだ。
単純な力で負けた。
そんな事実に。
こいつの流儀に合わせて奴の拳をそのまま受け止める。
確かに、俺の本職は錬金術師であって、肉弾戦のプロでもなければ、大魔導師でもない。
くそが。骨が軋む。
この肉体のおかげで感覚的に戦えるし、制御出来ているだけ。
だが──それでも目の前のコイツに負けてはならない。
それは文字通り魔法がなければ負けると自ら言っているようなもの。
「ハハァァァッッ!!!!」
「⋯⋯楽しそうだな」
互いのフックが互いの顎を粉砕する。
蒼と紅。
互いの眼光から放つ一撃は人外と言っていいだろう。
ていうかコイツはこの世界にいていい人類じゃないだろ?
「ん?」
その時、奴の周りの空気が揺れたのを感じた。
まずい。
そう思った時には走り出していた。
──今出せる全力の蹴り。
「っ、まじかよ」
その場で足を開き、肘を曲げ、気を溜めるみたいな体勢でただ受け止めていた。
硬すぎだろ⋯⋯!
この蹴り──一撃で熊を殺せるぞ!?
「っ!」
今度はなんだ!?
奴が踏みしめたその時。
ゆっくりと地面の破片が宙に舞う。
必殺技みたいに構えてやがる。
地面はヒビ割れ、周りの空気すら普通の人間ですら見える程揺らいでいる。
別に魔力なんてない。
しかしなんだ?
目が離せない。
拳を固め、大振りに振りかぶったその時。
「⋯⋯!」
奴の背後に、何かが視える。
黒い軍服を袖に通さずに羽織ったコイツの未来みたいな美形の男。
向こうの王族みたいなやつだ。
親みたいに笑ってやがる。
なんだ?誰だ?
幻覚か?
構えてる。
空気が歪んで、世界に風穴を開けるように。
⋯⋯あれ?
動かそうと思った身体がピクリとも動かない。
神経が何も動かない。
それに、
"魔力が働かない"。
轟音が迫る。
動かそうにも、神経が焼き切れてるのかピクピクして自分の足が動かん。
見上げれば拳が迫ってる。
ーー草、緑に関する名字、白い髪。
拳に纏わり付く風圧を眺めることしか出来ない中、過ぎったのは少し前思い出したオバサンの言葉。
ーー直感的に気付くはずさね。
ーーコイツは強いってね。
ーー"ソレ"を見た瞬間、アンタは死ぬよ。
⋯⋯そう。なんで忘れてたんだ?
特徴から速攻特定できるじゃないか。
まさにコイツじゃないか。
ソレ──まさに、この後ろにいる男のことか?
"動けない"。
魔力が働かない。
やべ、マジで死ぬ⋯⋯。
「八雲!!!!」
「⋯⋯っ!?」
俺と奴の間に突如乱入してきた虎。
風圧が消え、突如消失したように感じる。
いや、それよりも、頭に螺旋状に冠と化しているの見るに普通じゃない。
その虎は俺を見ると何も言わずに向きなおし、ヤツの方を見て唸っている。
とりあえずこの虎のおかげで動けるようになったから埃を払う。
「大丈夫ですか!!」
追うように建物から飛び降りてくるスーツの女。
「あ、あぁ。誰だ?」
「あっ、私は普段蓮川と風間の間で隠形の任務を果たしている千葉星咲と申します」
ハキハキとした口調で45度で頭を下げる女。
「なぜ俺を知ってる?」
「なぜ⋯⋯でしょうか?
蓮川の方から何もお聞きしていませんか?」
横に首を振る。
「そうですか。
必要はないかと思いましたが、蓮川は、既に貴方様の軍門に下っております。
既に蓮川の新当主から何かあったときの身代わりとして、護衛として派遣されていました。
今回も初めから見守っており、途中で消息がわからなくなったと思ったら気付いたら素手の戦闘を行っていて、入るべきだと判断しました」
⋯⋯あのオバサン、当たり過ぎて怖えな。
どうにかした方が良さそうだな。
「素直に助かった。
お前、何か欲しいものはあるか?」
「へっ? わ、私如き⋯⋯!」
「いい。お前は今、世界を大きく変えた。
何でも好きな物を言ってみろ」
「え? じゃ、じゃあ⋯⋯」
と、お椀のような形に合わせた彼女の掌には。
「うばやきさんを大人買いしたくてですね⋯⋯っ!」
「おい、舐めてるのか?」
「な、舐めてません!」
おいおい。顔がマジだぞ。
金とか権力じゃねぇの?
アレ一個10円だろ?
「そんなのいつでも食える。
なんかねぇのか?」
「え? 特には⋯⋯」
どういう教育をしてるんだ?こいつの家は。
「とりあえず、後でお前には報酬を払う。
それとあの虎は?」
「あぁ! あれは式神の八雲です!
やくー!」
すると猫みたいに喉を鳴らして女の手にすっぽりと収まりに行った。
「式神か」
「はいっ!」
と、俺達の会話を聞いていた奴は完全にポカンとしている。
気付けば肩にスーツを掛けて煙草を吸っていた。
「興醒めだ。
しかし、中々良かったぞ。
人生で一番気持ちよかった」
「おい、雇われないか?」
背を向けている奴に声を掛ける。
「ハッ、臨時でなら良いぞ。
誰かの下に付くのはゴメンでね。
また、遊ぼうぜ。
はぁ〜。
組長に何ていうかなぁ⋯⋯腕折られたんで撤退したとか言うしかねぇのか?」
ボソボソ何か言いながら奴は去っていく。
俺はそれを見ながら、心底懐かしい向上心に近いモノを思い出した。
「色々頼らず、たまにはああいう泥臭いのも悪くないのかもしれん」
「⋯⋯へ?何かありましたか?」
「いや。問題ない。
行くぞ。一旦撤収だ」
それから、俺は早歩きで理沙ちゃんの元へ。
何やら放心状態で俺の身体を見ると、号泣しだしてマジで焦った。
まぁ、身体を見たらそりゃそうかって感じだ。
⋯⋯結構酷い状態だし。
抱き付かれたのだが、肉体の痛みを伴うのは久しぶりで、少し新鮮だった。
そして再度俺は訊ねる。
「理由があったんだろ?今でも変わらないか?」
そう聞いたら首を横に振って帰ると上目遣いで言われ、俺は理沙ちゃんの髪を軽くなぞって先に行かせた。
残ったのは理沙ちゃんの母親。
そこで話は色々あるが、一旦はこの建物をどうこうすることは力技でやったとしてもデメリットにしか働かなさそうだと俺は判断し、理沙ちゃんをとりあえず引き取ると無理やり納得させた。
肝心の理沙ちゃんの父親は瀕死だが生きていた。
とりあえずその場で辛いほどの拷問を一時的に施してやった。
今の俺にはエリクサーがあるので死なないし、死なせない。
なので十分な時間かけてこれから行おうと思う。
最後に建物はしっかりと修復してから車へと向かう。
全身バッキバキで痛みに耐えながら下り坂を歩く。
そこで考えた。
肉体を戻してもいいのだが、さすがにいきなり戻したら疑われる。
ニヤリと。
なら?とっておきの技があるではないか?
痛みに耐えながら思いついた俺の天才的な頭脳。
⋯⋯ラッキーじゃねぇか。
家に帰ったら始めよっと。




