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自力で帰還した錬金術師の爛れた日常  作者: ニキニキちょす
国内無双編

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天上天下唯我独尊

 悲愴。

 どうやら日本ではよく聴かれる音楽らしい。


 「も、申し訳っ──」


 噴水の如く弾ける。

 ⋯⋯しかしなんと心地よい曲だろう。


 悲しい誰かの感情と、ゆっくりと進むピアノの音色。


 「わ、私達に何か不備が──」


 真っ二つに割れ、山のような軌道でシャワーを浴びているようだった。


 玉座であぐらの体勢をとり、自分の膝に片肘を置いて数百人を見下ろしているのが⋯⋯この俺。


 「リビ、人間の作る悲しみはどうだ?」


 「⋯⋯まぁ悪くないわね」


 少し音色の進行が速まる。

 しかしなんと透明で、パラっとした音色だろう。


 浸るというのはこの事か。


 「ご主人」


 「ん?」


 「ご主人、悪魔王よりも悪魔王してないかしら?」


 ⋯⋯と、見下ろす景色を眺めると、確かにと左後ろにいるリビに同意してしまう。


 目の前は血の海。

 すぐ近くには細長い机がある。

 

 その上には──喋らない首が丁度7つ。


 どれも生々しい血痕、机から垂れる液体がまだ滴っている。


 そして周りは平伏しており、既に戦闘の意思はない。


 「悪魔だと?」


 「そういう事ではないけど、みんな震えているじゃない?私達でもそこまでやらないわよ」


 あぁ。さっきまで戦ってたしな。

 震えるのも無理ないだろう。


 「まぁな。さすがに何もしてないのに爆散したら戦闘の意思が無くなるのも無理ない」


 エリクサーを飲んだ俺は、正直次元が変わる。


 皆がご存知エリクサーは、ゲームや空想上の話では体力や魔力を全回復する為のモノだ。


 ⋯⋯そう。何を隠そう。


 俺の体にある上限値の魔力が当たり前だが戻る。


 それはつまり──人間を辞めるということに他ならない。


 向こうの感覚で言えば200歳に到達する前くらいの自分がこのレベルだったかな。


 ──だが、もっとあったような。

 

 そんな事は今どうでもいいか。

 とりあえず、今の俺は喋るだけでも魔力を込められるし、考えなくても頭のイメージで全て終わる。


 まぁ、初見殺しが可能になる。

 まさに──人から見れば天上人に近いだろう。


 「リビ、コイツらの家は全部で7だったか?」

 

 「えぇ。蓮川、雷禅、風間、炎街、雪園、土渡、金地」


 聞いた俺は、最前列の男に言い放つ。

 

 「今回、このような事態になったのは、蓮川家の若造が発端だ。


 だがまぁ、どの道良い機会だ⋯⋯最近仇なす奴らが多すぎると思っていた所だ」


 そう言うと。


 「わ、私が──っ」


 見えない斬撃が身体を真っ二つに断つ。

 

 「おぉ⋯⋯勢いが良いな」


 血飛沫は俺の方まで飛んでくるが、ゲラハが傘で付着するのを防ぐ。


 「誰が口を開くことを許可したと思ってるのだ、お前たちは」


 無残に床に倒れた死体に向かって俺は、呟く。


 「さて」


 つまらないものだ。

 長い溜息が漏れる。


 「お前たちは俺を攻撃し、連帯責任として現当主の処刑とそれに連なる者たちの処分を終えた。


 まぁ良かっただろう。

 少なくとも自死する権利を与えた俺は寛大だ。


 ただ、やはり腕に自信が多かった奴らが大半だったせいで、こんなザマだ」


 「ご主人、あの時本当に悪魔より悪魔だったわよ」


 「そうか?」


 「目の中に突っ込んで引っ掛けて投げ技だ!とか言って遊んでたじゃない」


 「あぁ、やったやった」


 「ヒクヒクしてるーとか普通に言ってたじゃない」


 「言ったな」


 それしか使い物にならなかったからな。


 「それじゃあんな震えるのもしょうがないと思うんだけど?」


 全員が伏しているが、その動きはカタカタ揺れているのがこの距離から見ても分かる。


 「そこのお前」


 呼び掛けるが反応がない。


 「黒い羽衣を着ているお前だ」


 「はっ、はい!!!!」


 「お前に尋ねる」


 ねっとりと、そしてどこか胸が震えるような曲のパート。


 俺は強者たる者の問いを聞き出したかった。


 「嫁はいるのか?」


 「は、はい」


 「自分でお前の嫁を殺せばお前たちを次の再構成した組織で立派にしてやる。


 ⋯⋯どうする?」


 圧をかけず、自分の顎を手のひらに乗せながら。


 「発言、良いですか」


 こいつは分かってるな。


 「良い、許可しよう」


 「"立派"とは、規模感としてはどれくらいのものなのでしょうか」


 「今お前はどれほどの金と権力があるのかしらん。自己申告せよ」


 「年に三十億の金を操作できます。無税です」


 それに即答する。


 「10倍だ」

 

 「⋯⋯はっ?」


 「ん?聞こえなかったか?10倍だ」


 奴の様子が明らかに変わる。

 人間の動揺とは面白いものだ。


 ギョロギョロ瞳孔が揺れ動き、やがて収まる。


 手には懐にあった短剣を、嫁に向かって振り上げた。


 「──ごめん」


 「嘘でしょ⋯⋯?」


 壊れた男の顔と、絶望した女の顔。

 だが、同時に奴の顔が弾ける。

 

 「ゲルボグサナンスラ」

 (⋯⋯馬鹿者が)


 女を粗末に扱う男は処刑だ。


 血飛沫が嫁の顔に付くが、女は2つの意味で絶望していた。

 

 「女を軽く見る者は俺だけで十分だ。

 ⋯⋯バカが」


 既に血の海。

 つまらん。


 天井を見つめる。


 静かな空間、平伏する人間。

 懐かしい光景すら思う。


 だが、何処か虚しいこの感覚を思い出すのもつまらん。


 俺に魔力を戻したらこの連続なのだから当然だと思っていたが。


 いざ全開にすると虚しいな。

 想起しただけで人が飛び、人が平伏する。


 脳裏に過る。


 ──"殺せ"

 ──"支配しろ"

 ──"敵意を潰せ"


 これはケルビンとしての感覚だ。

 そして今、"それが出来る"状態だ。


 ⋯⋯だが。


 『アンタ、待ちな』

 

 俺は正月の頃を思い出す。

 あれは占いのオバサンと会った日。


 帰り間際呼び止められた時のことだ。


 『⋯⋯なんだ?』


 『アンタに忠告する事がある』


 『忠告?金は払ってないぞ』


 『そんなものは良いんだよ。

 ただね、今年──2つ重要な選択が迫ってる。


 一つはすぐにでも訪れる』


 『⋯⋯それは?』


 聞くとオバサンはすぐに答えた。


 『最初に言ったね。

 あんたは生まれつき王者となる資質を持って生まれてるって』

 

 『あぁ』


 『そして独裁者になるか、導く者になるか』


 『⋯⋯⋯⋯』


 『言ったね? 正確に言えば、アンタの顔を見る限り独裁者になる未来が見える』


 『それも占いで分かるのか?』


 皺くちゃな笑みを浮かべ答える。


 『あぁ。だがね、その先はアンタが最も最悪な形で終わる』


 『なに?』


 『言葉通りの意味だよ。最後の最後──アンタが最も安心したその時⋯⋯最悪が襲う。


 それで、アンタは直感的にしっかりしてりゃ良かったとも言いそうだね』


 『もう一つは?』


 『怪しいけど、アンタの死期が視える』


 はっ、この俺が?


 『俺が?みたいな顔をするなっ!』


 『バレてた』


 『あぁ。まさに、一度アンタは死期を得る。

 それを誰かが救う未来も見える』


 『どういう状態で起こる?』


 『名前が明確に出てるのは草、緑に関係する名字、そして白い髪。


 アンタの身内の誰かの縁で襲われる事になる。

 いや、これは執着というべきかい』


 『そいつが俺を殺そうとするのか?』


 『アンタを試したいという気持ちが視えるから男だろうね。


 ただ、アンタは直感的に気付くはずさね。

 "コイツは強いってね"』


 『ほう?ならそりゃ良い』


 『死ぬよ?』


 『⋯⋯なに?』


 『これは明確に指してる。

 これは──』


 その時のオバサンの表情はまるで俺の中にいる誰かを見ているように。


 『本来なら──』


 まるでオバサンではないかのように。


 『あるはずのない人間が』


 なんだ?


 『この世界"軸"には"存在"している』


 何の話だ?


 『別の時間軸』


 何か得体のしれない。


 『その男はアンタを殺せる力を本来いないはずの世界軸の人間から得ている』


 『なんの話だ?全く何を言ってるかわからん』


 『ただ明確に出ていることを言ってるだけさね。


 一人だけイレギュラーが混ざってるってことさね。


 別にアンタと縁があるとは言ってない。

 ただ、本来なら存在してない何かしらの人間が教えた何かが受け継がれて、それを使えるのがその男さ。


 それを見た時には"動けない"アンタがね。

 そう思ったら死ぬ』


 『まぁ覚えておくよ』


 俺がそんな事になるなんてないだろうけど。


 『とりあえず!

 アンタは支配なんぞしなくても、上手く行くんだからそんな暴力的にやるんじゃないよ!!』





 「⋯⋯⋯⋯」


 そうか。そういうことか。

 "今"か。


 「さて──この辺で止めよう」


 「どうしたの?ご主人」


 「あまり殺ると後でしっぺ返しが来そうだ。

 今後、とりあえず俺に関して一切の関与を禁ずる。


 あとは好きにしろ」


 とりあえず、家族に美味しいものを提供することにするか。


 無敵と言っても、人は無敵はないんだから。

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