閑話:退任式
作者です。
この話は現代の自分たちの状態に対して発言しているように見える部分があるので、一応注意喚起させてください。
あくまでも異世界で過ごした男の発言であることだけは片隅に置いておいて貰えると助かります。
そして、今回の話はつまらない可能性が高い割に文章量が長く感じると思いますから疲れるとは思います。
そこも併せてお願いします。
時系列的に先にこれをどうしてもあげたかったので、許してください。
あとは三人称に加えてセリフしかないのでカッコは一部分しかないということだけ伝えておきます!
まだまだ荒いですが、お許し願います(土下座
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亜空間を開け、色々漁る俺の目に一つの封筒が目に入った。
「⋯⋯ん?」
開けてみると、一つの魔導具と手紙があった。
破いて読み進める。
"貴方様がいつ開けるか分かりませんので、私としては説明をしないとどうしても死ぬに死ねませんので、ここに一言書かせてください。
私の名前はアーゴと申します。
貴方様に覚えてもらっているとは思い上がっておりませんが、かつて貴方様の顔を我が王であられるローマン様のすぐ横で名前を命名した時にいた者です"
「あぁ、あの時か」
"私はもう79と長く生きました。
最後まであの人は嫌がっていましたが、私は"絶対に貴方様"に届けたい。
そう思い、魔導具に記録してこの度、死期を悟り、このような形で一筆したためました。
私はローマン様の最後を見届けたつもりです。
貴方様に見せに行くと行ったその少し前になります。
まぁ、言葉よりも目で見たほうが早いと思いますから、添えている魔導具の方からご覧頂きたいと、深く思います。
ただ、私は貴方様に深い感謝と共に、これだけは伝えたい。
ローマン様は、この発言をされている時。
あのいつもは王族やうるさい役職の人間の野次が飛び交っていたのが嘘のようでした。
貴方様はご存知ないかもしれませんが、かつて民衆が熱狂的に狂ったほど民から崇められた男です。
あれほど人から求められた人間を私は見たことがありません。
かつては英雄と称され、女からは熱望の眼差しを浴び、今ではあの男が居なかったら国が破綻してたと。
そんな肩書きを手にした最後のローマン様の言葉を是非貴方様に聞いて頂きたい。
いや、刻んでいただきたい。
無礼なのは承知です。
長くなりましたが、私の人生もここで終わりです。
ローマン様を、あの男を育ててくれた事、我ら一同心より──深い感謝をしております"
ザエル──アーゴ・リオット
「ふっ、タイミングが良かった」
と、俺は魔導具を起動させた。
*
普段はそこは人を裁く所。
年に一度、様々な人事移動や新たな何かが起こる時に使われる場所である。
⋯⋯そんな場所に、人が慄く程の民衆が集まっている。
中心には、王族や上級貴族の当主が集まっており、それがどれだけ重要な式なのかがよく分かる。
『最後に、本日最も重要な継承・退任式を行う』
一人の人間が紙を読み上げる。
『ラウンド大陸・アルセイム国、律拳公家──至律・ローマン・オルデ・アルセイム』
読み上げる声が微かに震えている。
すると、座っていた190cm以上ある老人が立ち上がった。
それだけで、民衆からどよめきが起こる。
ただひたすらに、その男へ注目する。
コツンと。
先程まであれだけ騒いでいた声が静寂に包まれる。
当然だ。
コツ、コツと。
靴の音がただ静かに響き渡る。
律拳公家。
しかも"至律"と聞けば誰もが恐れる。
律拳公家──王命を必要とせず、貴族を裁く事ができる公爵級の爵位だからだ。
どよめき、声援。
老人だ。白髪が生え。
オールバック。
その素顔にはシワがある。
しかし、この場の誰よりも覇気に満ち溢れ。
威厳を放ち。
下手をすればこの場の誰よりも威風堂々と、中心に立って。
目の前の王族、貴族たちに向けて笑った。
「ご紹介に与りました。
私はローマンと申します。
本日は隣国ガリシアとの方針、これからの国策と。
長々と続いた議論、嬉しく思います。
そこにいらっしゃるオリバー伯爵の御子息がしっかりと勉強されていて、まだまだこの国は捨てたものではないなと思ったね」
そう言うと民衆や一部貴族が鼻で笑った。
「色々語るのも時間が勿体なく思うけれどもね、まぁここは一つ⋯⋯遺言のつもりで聞いてもらいたい」
そう言うとローマンは左に映る民衆と右に見える貴族たちに向けて堂々と独り言のように喋りだす。
「私が何で功績上げたとか何故有名になってこんな大層な役職になったかというのはここでは省かせてもらうけども。
なんで表に出ることになったか。
そうなりますと幼少の頃、私はゴミを食べて生活をしてた。
あれはもう思い出したくもなかった過去だね。
両親に金を稼いでこいと言われ、私は人生に絶望していた。参ったね。
その後にね、この場にいる貴族たちは分かるだろうけども、私はある人間に拾われ、色々な世界を見れるようになるんだけれども⋯⋯私はその時平民と貴族という概念を学んだ。
そしてその時、この世界は平等ではないということに気付いた。
見る機会を得た。
色々な人間がいた。
不満や愚痴をこぼす人間。
戦おうとしたが現実に打ちのめされて人生を過ごした人間。
従って何となく生きる人間。
私はそのどれにも属さなかった。
ただ、満足せずにただ沸々と変えようと。
アライン戦争。
ご存知の通りあの戦争はガリシア、キルシア、様々な隣国が祖国に牙を向いた瞬間だった。
まぁ、今の若い人たちからすれば30年以上前の戦争を語られても困ると思うんだけどもね。
息子にももう聞き飽きたと言われるんだけれども。
⋯⋯あぁ、今も笑われていますな。
というのはいいとして。
アライン戦争は、今ほど技術力も無ければ、知識も少なかった。
貴族の力が強かった。
私は戦争に参加するまでに、冒険者稼業をやってきた。
だから分かる。
当時あの戦争に参加していた貴族のほとんどが、戦ってはおらずにただ指揮だけを執って傲慢にも平民が死んでいるのを笑っていた。
⋯⋯私はそれを見て許せなかった。
自分の幼少の頃と重ね合わせた。
行軍している時の事だ。
ある島に上陸する事になった。
広さもあまりない小さな島だった。
そこでは戦争なんてしていることすら知らない人間たちがいたのだがね、戦争の影響でまともな食料を採れてはおらず何かよく分からないものから採れた肉を頬張っていた。
私は訊ねた。
『それはなんなのか』
答えは簡単でした。
『私達も知らない』
そう言いながら、どうやら食べられなくなった事も理解せずただ当時流行っていた頭が徐々におかしくなるガリシアの魔導具の魔香を使ってその場しのぎをしていることに気付いた。
正常な判断がつかず、自分たちはなんの為に生きているかもわからず。
するとね、近くでそれを見ていた子供たちは言った。
『腹が減った。でもこの食べ物を食べるとみんな身体を壊す。
でも食べなきゃ生きていけない。
だからあの人たちはあれを使うと忘れられる』
などと穏やかに⋯⋯というべきですかな?
最期までそうやって死人のように明るく踊っていたのを見た。
私は、あぁ⋯⋯と。
これが貴族だったらこうはならなかっただろうと。
私はその時思った。
地獄というのはある。
しかしこんなにも太陽のように輝き、空も晴れている。
その中でこんなにも穏やかな地獄があるのかと、私はその光景が今でも焼き付いているのを覚えている。
こうでは駄目だと。
私達は皆同じであると。
確かに、貴族位というのがあってもいいのだろう。
それを目指して功績を求めて国が活性化する。
事実現在に至るまで大体の人間が地位や名誉を求めてやってくる。
しかし現実はそんなことはない。
一部の貴族や権力を持った人間が制御している。
優位であることに誰もが疑問に思わないだろう。
しかし友が言った。
娘がイジメられ退学になったと。
それを聞いてね、私は更に戦場へと駆り立てられた。
学ぶ事すら平等ではないのかと。
必死に戦った。
戦いに戦い、遂に私はご存知の英雄と呼ばれるようになった。
戦争の立役者などと言われ、私は平和の象徴として、王族と血縁を結ぶ事になった。
そうして手に入れたのが、富、今の妻、自由、地位。
しばらくしてね、私は気付いた。
大体1年しないくらいのことだ。
"私は何のために戦ったのだろう?と"。
生活は満足している。
私と並んで進んできた者たちは皆良い生活をしている。
当然だと。
問題はない。
むしろここまで来てくれて何もできなかったのであれば、私は自殺モノだと。
しかし周りも問題はない。
隣を見れば、穏やかに微笑む妻。
家は屋敷。使用人も付いてくれる。
だがね、私はそこで覚めた。
私はこの国を、更に世界を変えるために戦場へと身を投じたのだと。
贅沢な時間を過ごすためではないと。
だがその時間があり過ぎた。
生活から離れられずにズルズルと落ちてしまった時間もあったが、私はね、そこで初めて──頭に思い浮かんだのが、最も敬愛する師であるケルビンの元へと足を運んだ。
私の思考回路、哲学などはほとんどケルビンによるものだったからだ。
今でも時々言われる。
あの女たらしが?
オリバー伯爵、笑わない。
まぁね。今では傍若無人の錬金術師として名を馳せる⋯⋯ように、私は仕立て上げたケルビンであります。
赴いた。
そして私は今までの事、そして、私の考えを話しました。
私は訊ねました。
師匠と。
私は今、とても美徳を語れるほどかっこいい人間ではありませんと。
あなたにとってどんな人間がかっこいいと思いますか?
男としての美徳とはなんですか?
私は最近分からなくなってきている。
こう聞いたんですね。
そうしましたら。
即答でこう答えが返ってきました。
男と女、様々なところで美徳やカッコよさは変わる。
自分に言えるのは男として、の部分であるけれども、男としての本懐──最も美しく、最も輝き、力を発揮するのは自分を燃やしている人間なんだと。
ちょっと当時の私には分からなかった。
だから聞きました。
そうすると。
分かりやすく言えば、守る為に自分を犠牲にしている人間が最もかっこいいのだと。
言葉にすると自己犠牲なんだと。
自己犠牲というと悪く聞こえてしまった私の顔を見て、こう続けました。
男として自分を燃やしている時は女にもモテる。
そして周りからも評価を貰いやすい。
成長するし、守る為に自分を燃やしている人間はそれを見た者達に共鳴させられる。
だがなんで女は変に思うのか。
それは男が守る為に生物として存在するからだ。
女が守る為に戦うのも悪くはない。
しかしならなぜ男はいるのか?
それは、自分の縄張り、女を外敵から守る為なんだと。
だから守っているときの男はかっこいいのだと。
それはつまり、大きく言えば国の為に戦う。
それも自己犠牲であり、良い悪いは置いておいて、男としての美徳であると。
ここまで聞いた私は既に前のめりでしたが、最も感銘を受けたのは次でした。
では、最も醜い人間とはなんでしょう?
するとまたも即答で、敬愛するケルビンはこう言いました。
最も醜いのは、他人を燃やす人間だ。
私はこの時あまりに尖った言葉に感銘を受けた。
意味を聞くと、自分を燃やして共鳴させている分にはいいんだと。
しかし支配、操作をしている時の自分は何も自己を燃やしていないだろうと。
燃やしておいて自分は笑っているだけ。
生物としても人としても、これほど醜いことはないだろう?
女のいじめが酷いのは恐らくこれだろうと。
しかし男がコレをすると、心の底から嫌悪する人間が多いと感じる。
コレを言われた時に、私の頭には一つの考えしかなかった。
私がやりたかったのは貴族と平民が、差はあれど、平等に少しでも近づける事だっただろうと。
その後も色々な話を貰った。
傍から見ればあんなに傍若無人で、傲慢で、女に溺れる人間だ。
でもね。
私からすれば、あんなに孤独であんなに慈愛と狂気を感じさせる人間を見たことがない。
長くなったが、私は内省した。
では、自分を燃やし、他人を共鳴させるには何がいいのだろう?
自問自答し、当時のオリバー伯爵やデルモット侯爵のお父上の代の時に言った。
猛反発を貰ったね。
だが、私はそれでも突き進んだ。
国策を出し、一人でも多くの人間が救われるように。
そうしたら、国策を通す事が許され、今の役職を初代として務めることができた。
貴族の力を弱らせる事ができました。
まぁね、今回のような場で野次が飛ばないというのも珍しいことなんだが。
⋯⋯ははは。
まぁそれでね、そんな事から何十年が経った今、平和になった世界。
まぁ、と言っても、小競り合いは続いている。
だがね、最近の王国を見ていると私はとても遺憾でならない。
ここからはうるさい老人の戯言として聞いてもらいたい。
最近の、肩を組んで、引き分けにしようという姿勢が私は気に入らない。
この王国は礼儀、礼節を重んじる歴史ある国だ。
しかしあいつらは礼儀も礼節も、我々の文化すらも侵略してくる。
ガルシアもキリシアも。
あれを野蛮人と言わず何と言う?
最近、誰の差し金かは知らぬがね。
移民が増えた。
お陰で衛兵や商店を開いてる者たちが営業形態を変え、元々やっていた慈善的なことまで無くなってきている。
この間もキリシアへ金を流しましたな。
あんな国に支援などいらんと思いますがね。
威張れと言う事ではない。
ただ、我々には人材がいる。
技術力も、人の熟練度も違う。
この大陸で一番の自負がある。
そんな人間たちがへりくだる必要はない。
いいえと突きつけられる国でなくてはならない。
だから私のやった最後の国策は外の人間の厳罰化、構造の見直し。
少し威圧されたら腰を引いてね。
一体我々はあの時代なんの為に命を賭けたのか。
今一度見直したく思います。
そして、今。
魔導工学で起こる環境問題。
そして何より、個人という時代が進み、最近の親も子も、もっと祖国に対する敬意を感じない。
あの頃。我々が目指したのは、皆が仲良く笑ってられる時代だった。
では今はどうだろう?
権力の為に金を欲し、生きられるからという理由だけで金を欲す。
敬愛する師の言葉がこんなにも突き刺さる時代を見るとは思わなかった。
違うと。
我々が目指したのは個人で生きるということではなく、皆が肩を組んで祖国を盛り上げ、次の代へと子孫と、明日食べられる物を残す為だと。
環境で人を殺し、快楽や自分の為に金、金と。
だからね、王族の皆さんには今一度慰霊碑に向かっていただきたい。
なんの為にあの戦争に打ち勝ち、育み、若者にこんな過ごし方をさせる国になったのかと。
少し説教臭くなりましたな。
今の若者に言いたい。
自分の為と他人を燃やす人間に決してなってはいかん。
自分を燃やし、他人を共鳴させ共に燃やす人間を探しなさい。
まぁ探さずともよい。
いずれ、着いてくる人間はいるのだから。
⋯⋯私のように」
そう言ってローマンは笑い、自分の象徴である指輪を息子のケイラムに渡し、彼は本当の意味での終幕を迎えた。
老人は涙し、若者たちは苦い顔でそれを見ていた。
貴族たちは微笑み、王族はその後本当に慰霊碑訪問を行ったという。
一つの時代を熱狂させた伝説の男の言葉は、後の時代でも残された。
伝説として。英雄として、そしてスピーチとして。
*
「⋯⋯あの馬鹿、意外と成長したもんだなぁ」
頬杖を突きながら、俺は少し微笑みながらその魔導具を手にし、壊れないようにしまった。




