ディアラヴァ
ごめんみんな。
一日中寝てたんや。
許して⋯⋯なんでも⋯⋯
ーーーー
あれはいつだったか。
ローマンが死に、俺にとっては人生の転機が訪れた。
「誰か、質問あるか?」
俺は、与える事を覚えた。
それまでの俺は、人より強く、人より偉い事を誇って前へ前へ突き進んでた自分だった。
展示会のように女を並べて、脱がせてやりたいようにやってた。
悪行?別に悪いとは思っていない。
当然の権利だ。
あの馬鹿みたいな師匠のせいで数千⋯⋯いや、数万以上は死に瀕した。
しかも、あの師匠⋯⋯俺の研究体質を利用してしゃぶれとか言われて終わってた。
⋯⋯ってじゃなくて。
まぁ良くも悪くも。
ローマンのせいで存在が表に出てしまったのだ。
俺は一部の間だけで留まっていた。
だから希少で、特別視され、俺なんか見たところでスルーするような人間だったわけだ。
アライン戦争。
そこでは俺のせいで数千万人近くの人間が死んだ。
なぜなら、聖国?せいおうこく?
ローマンを救う為、指パッチンしたら問題の国を滅ぼしてしまった。
そこで付いた二つ名が万物の王。
アイツは俺が飯や飲み物を用意できるのを知っていたせいで、子供たちに分け与えた。
それを見て色々なやつから声をかけられ。
⋯⋯はぁ、まぁ。
ガキは笑ってるのが一番だわな。
「俺は毎週のように来るわけじゃないぞー?」
俺が呼び掛けると目の前にいる数十人が挙手する。
「はい、そこの」
「はい! ケルビン様は魔法に才能があると思いますか?」
「ある程度はあるだろう。
だが、少しあればあとはそいつ次第だろう」
魔法は無限。
当たり前だ。
「貴族様が魔法を使えるのはなんでですか?」
「アイツらは、良いお馬だろ?良いお馬さん同士が仲良くなったら?」
「良いお馬さんが出来る?」
首を傾げる子供に俺は正解を言ってやる。
「そうだ。良いお馬さん、つまり魔力や体の構造が使いやすい貴族たちの子供たちにそれがある程度引き継がれる。
だから貴族は才能を持つものが多い」
けっ!王族の女は最高だったなぁ。
あいつらめ、いつもはじゃじゃ馬ばっかり寄越して。
青空教室。
目の前に見える5000人くらいはいるであろう貧乏ガキ共に俺は今日、初の公演をした。
1時間という短い時間だったが、ガキ共が嬉しそうに見ているのを見て、俺は頬が緩んだ。
純粋で、なんにも描かれていない紙にこれからどう彼らは創り上げていくのだろうと。
しかし、そこで俺は奇妙な縁が出来る。
公演が終わり、子どもたちが離れていく中、一人だけ豪華な身なりをした少年が俺を待っていた。
「⋯⋯貴族のガキか? 見当違いだ。
お前の知りたいものはこんなところにはないぞ」
自分でもびっくりするくらい冷たい声が出た。
この世界、富裕層には家庭教師は当たり前だし。
俺は青空教室をやりたかったのは、こういうガキではない将来に希望を持てないガキ共の為だ。
自身で作った教材を片しながらそう言ったつもりだが、護衛と当人はまるで効いていない。
むしろ護衛は今にも斬りかかりそうなものだ。
「貴方に聞きたいことがある」
「帰れクソガキ。俺はお前みたいなガキが一番嫌いだ」
「貴様ァァ!!」
声を荒げたその瞬間、思い浮かべると護衛の一人が地面に埋まる。
「お口は閉じたほうが身のためだ。
王様の前で無礼だぞ」
「⋯⋯っ!?」
魔法使いはこれほどの差があるから恐れられているのに、プライドや誇りが勝ったのか。
⋯⋯護衛としては失格だな。
そして、ガキがいる前で攻撃的な魔法を使った俺もまだまだだ。
今日に限っては、な。
ガキの方は驚く様子はない。
ただ、その瞳には純粋さだけが映っていた。
「それで? そこの埋まった護衛に剣でも教わったらいいだろう? 剣が弱い訳ではないだろう」
「貴方の時間を買うにはどれくらい必要"ですか"」
「⋯⋯なに?」
「私は社交界しか世の中を知らぬ。
しかし、金銭を払えば時間を買えるのは知っている。
貴方の時間を欲しい」
舐められたものだな。
「俺に金が必要に見えるか?」
「見えない、なので困っている」
俺がきっと、コイツを殺さないのは、下心がないからなのだろう。
しばらくガキと真正面から見つめあい。
観念する。
「良いだろう、お前の用件は?」
「私を剣の天才だと皆が持て囃す。
しかし、退屈で仕方ない」
⋯⋯このクソガキが。
「実戦もしていないのに、か?」
「様々な剣術を習った。
しかし、すぐに出来てしまうのだ」
「いいんじゃないのか?」
「私は満足せぬ。
余は継承権が薄く、期待されてはおらぬ。
見ての通り身体も弱く、他人との会話が出来ぬからだ」
「確かに会話がクソ下手ではあるだろうな」
「私は剣を初めて見たとき、これを極めたいと思ったのだ。
しかしすぐに出来てしまい、これが本当の剣術なのだろうかと不安で仕方ない」
「それはそうだろう」
そう言うと目を輝かせた。
俺を見上げ。
「どういうことだ?ケルビン"殿"」
「お前の剣は何処にある?借り物で凄いと持て囃されてるだけでは極めた事にはならないだろう?」
*
「これはどういう事だ?」
後日、俺は珍しく王宮まで足を運んでやると。
「建ててもらった」
目の前にはそびえ立つ巨大な建造物。
「なんの為だ?」
「貴殿に習う為だ」
「⋯⋯お前どこに金を使ってるんだ」
「むぅ⋯⋯喜んでくれると思ったのだが」
顎に手を当てて悩んでいる。
抱えている本を見ると、"他人を喜ばせる方法"を読み込んている形跡があった。
それを読みながら歩くものではないだろう。
⋯⋯ふっ。
「っ、何をする」
「バーカ、行くぞ」
デコピンを噛まし、俺は中へ入っていく。
世界は、ガキはガキらしく生きれないのかねぇ。
それから、コイツとの奇妙な生活が始まった。
「そうじゃない、もっと踏み込め」
「⋯⋯こうであるか?」
確かに、咀嚼の速度が常人のソレではない。
文字通り、一を聞いて十を知る。
護衛たちは毎日俺にしばかれていたのはどうでもいいとして。
コイツは恐らく、秀才であることが分かった。
人から見聞きしたものを外に出すのが得意。
だが、それ以上には至れない。
「⋯⋯一本」
「師に1本も取れぬ」
「経験が違いすぎる」
木刀一本で龍と戦えとか言う無茶振り野郎がいたからな。
出来なかったらしゃぶれ。
⋯⋯嫌だったら覚えろ。
覚えるだろ?
「以前、私に言った言葉を覚えているか?」
「あぁ、借り物でイキるなって?」
「私の何がいけないのだろうか?
貴殿と私には何が違い、何がないのだ?」
年不相応に木剣を見ながら、コイツはそう言う。
「明確に悪いということではない。
極めると公言したからそう返しただけだ。
周りはお前を持て囃すだろうが、俺からすればお前は天才ではなく秀才。
覚えて、馴染ませて、自分のものにするのが極端に早い⋯⋯身に覚えがあるんじゃねぇのか?」
「ある。なぜ周りが出来ないかと言ってしまって、家庭教師の一人が辞めてしまった」
「まぁな。そりゃそうだ。
だがそれはお前の責任ではない。
天才と秀才の違いを知っているか?」
「⋯⋯なんなのだ?」
興味有りげにこちらを見上げる。
「秀才は今あるものを自分のものにする事ができる。
ただ、それだけしか出来ない。
⋯⋯だから実戦で想定外の事をされると何も出来ない」
「ふむ。確かにそうであるな。
事実、貴殿の剣術を受けた時、私は何もできなかった」
「そう、模倣が出来て、それを一定のレベルまで持っていくのは出来る。
天才というのは、それを糧に自分を魅せることが出来る」
──その瞬間、ヤツの目が変わった。
深く、まるで悟ったように。
「お前は糧に出来ていない。
事実、お前には決定的に誇りや剣に対しての敬意を感じられない。
道具であり使う物であることに変わりはないが、ソレに対しての敬意がない奴に極めるなど言語道断。
だからイキるなと言ったんだ」
それから数秒後、明確にヤツの顔が本気になったのを見逃さなかった。
「⋯⋯深い感謝を」
小さなそよ風が俺とヤツの間を通り抜けた。
祝福でもされたかのように。
「俺は大したことなんぞ言ってない。
お前がやるかやらないかだけだ。
天才ってのは、いつだって遊べる。
糧にして、それをどう使ってどう活かすか。
自由⋯⋯天才が変幻自在に見える理由だ」
それからのやつは、明らかに変わった。
王族でありながら、俺の言う事を聞き、俺が言った無茶苦茶な事すらもやり切った。
「やるようになった」
「⋯⋯一手も取れぬ」
当時は12歳だった彼は、今では24歳。
この王族──王位継承権第9位カイアス・オルデ・アルセイムと言うらしい。
今では変人だと噂されているらしいが、実力は──随一だ。
弱かったとされている身体も今では別人のような逞しい身体になり、今では護衛がいるのか怪しいほどだ。
「あれから10年余り。まだ私は貴殿から一手も取れぬ」
「10年で取れるなら俺がそこまで強くない証拠じゃねぇのよ」
「⋯⋯っ、そう言われたらそうかも知れぬ」
コイツは段々と会話が人っぽくなり、政治的な側面でもかなり力を持つようになった。
青空教室の開催に専用の場所を設けたり、平民に有意義な時間過ごしてもらえるように魔法の施設を自費で建設したり。
「おい、ていうかよ?あと何教えればいいんだ?」
「むっ。色々あるではないか? まだ一手も取れぬということは、まだ指導が必要であるという証明であると」
「んな嫌そうな顔すんなよ」
子供みたいに不機嫌になりやがって。
「⋯⋯貴殿しか話す人間が居ないのだ。少しくらい拗ねてもいいではないか」
ふいっと恥ずかしそうにそっぽを向くカイアス。
「はぁ。友達くらい作れよ。
前も女連れてきたらビビって話せなかっただろ?」
「あ、あれは! 貴殿が裸の女とまぐわってた後にいきなり入ってきたのが⋯⋯!」
「ん?そうだっけ?」
「貴殿は女遊びが過ぎる。貴殿の部屋から女の声が聞こえない日がないくらいではないか」
「お前も遊んだらいいじゃねぇか」
「そ、そんな軽々と女とまぐわうものではないだろう!」
「顔真っ赤にしてやがる!したことないな!」
「そっ、その内することになるのだから構わぬ!」
慣れない怒りをぶつけながら地団駄を踏む。
こういう所は子供なんだよなぁ、コイツ。
そこが可愛いんだけど。
「さて、もう一戦──ご教授を」
「ふっ、何時でもいいぞ? 言ったろ?勝つには手段なんぞ何でもいいってな」
*
「王国一の剣になったのに、何故貴殿から一手も取れぬのだ」
「お前も体力が落ちたな?
ちょっと戦ったら息が上がりそうだな」
35歳。
奴は、王には成らないと言って、戦争に参加するようになった。
俺は家に帰ろうかと思ったが、青空教室や女を足枷に絶対離そうとしなかった。
まぁ、高級娼館で過ごす日々はたまらん。
奴は俺から様々な剣術を覚え、糧にしていった。
すると、突然こんな事を言い出した。
"弱者でも、王者に成れる剣を創りたい"
王族が何を言う。
なんて思ったが、カイアスの実情はかなり酷く、家庭の序列、待遇、どれも酷いものばかりだった。
だから──一部の貴族に話をしてどうにかしてもらった。
それのせいか、奴は俺を絶対に離したくないと告白された。
え?俺を人様の男に⋯⋯っ!!
とはならない。
戦場を駆け巡り、やがてヤツの剣は猛獣の剣とまで呼ばれるようになったらしい。
その姿が動物的で。
あまりにも隙がなくて。
カイアスを知っていた人間たちはその姿を見て恐れたという。
「その構え、本当猛獣みたいだな」
「貴殿に言われた。どう"魅せるか"。
私は考えた。王者とは、隙のなさだけでは惚れぬと。
⋯⋯王者とは。
猛獣のように攻撃的でありながら、人間味を持ち合わせたものであると」
「⋯⋯ほう?」
受けた俺の剣が"欠けた"。
「⋯⋯っ、上手く行った!」
思わず俺はカイアスを見た。
「──やるな」
「しかし、まだ一手取れてはおらぬ。ご教授を」
それからも、奴は俺に一手と言ってやめない。
「お前いつまで俺を拘束するつもりだ」
──私が一手取れるまで。
「お前、先に死ぬんじゃないか?」
──いや。もう少しなのだ。
「エリクサー飲むか?」
──私は、弱者が王者に成れる剣を創れるように研鑽を重ねたのだ。そのような物に頼ったら、後世に申し訳が立たぬ。
「俺に悪口が言いたいのか?」
そうして、奴は晩年──本当に俺から一手取った。
齢89歳。
本人は健康だと言い張ったが、俺が寿命で死ねるように調整しただけだ。
それでも、本来の生き方であれば難しい年齢までカイアスは剣を磨き続けた。
「※※※※※」
剣が宙を舞い、"俺"の身体に傷が付いた。
「本当に一手取りやがった」
「ははははは、貴殿から一手⋯⋯取っ⋯⋯」
そのまま仰向けに無力に倒れ。
俺は抱える。
「⋯⋯はぁ」
無意識にローマンを思い出す。
「どいつもこいつも、俺を置いていきやがってよ」
後にカイアスの名前は貴族だけに伝わった。
後世に残ったのは、本人ではなく。
"王者の剣"という剣術のみが平民に伝わり、奥義は使えないにしても、理念と基礎は伝わった。
当時の騎士団長達によって。
*
「弟の仇ィィィ!!!」
稲妻に輝く。
そんな剣術。
「なァ、カイアス」
これは"敬意"だ。
身を地面スレスレまで低くし、左足を前へ滑らせ片手で剣を構える。
あれは剣術じゃねぇよな?
お前が求めた剣は。
『奥義は?』
『世界が変わると言ったところと言えば良いのですか。
血肉の色に視界を変えるのです』
『ほう?』
『時間を超えたような。
まずは孤独になったかのように暗闇に変わるのです』
空間を渡るように、世界は漆黒に変わる。
『その次に、世界は血の色に変わるのです』
黒を抜けると、紅に染まった世界が感知に引っ掛かる総てを映し出す。
『動物性と人間性。
どちらも噛み合い総てを瞳に映した時──その剣は解放されるのです』
構え、俺は嗤う。
『自身を人間である事を辞めるのです。
身体は辞め、頭のみ人間であるのです』
『「その対極が世界を切り裂く」』
⋯⋯だったよな?クソ小僧が。
『そして──合わさる。それが』
「ディアラヴァ」
(無形・無間)




