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自力で帰還した錬金術師の爛れた日常  作者: ニキニキちょす
国内無双編

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よーし。よろしい。ならば戦争だ。格の違いを見せつけるぞ

 昔、古の俺は、貧乏だった。


 今でもなぜあそこまで貧乏だったかは知らないし、返済が終わった時でも理由は聞けなかった。


 「⋯⋯みんなが鈴の洋服の悪口を言ってくるの」


 秘密基地メイン場所。

 主に俺のヤリ部屋完備の豪華なリビング。


 そこで、女性10数人、輩たち100人行かないほど。


 その視線が鈴と大地に注がれる。


 「ボロボロだって。髪の毛も全然結べてないとか、筆箱も、新しくしたらみんなが鉛筆は買えるんだねぇって笑ってた。


 鈴、わかるよ。みんな笑ってるのは、馬鹿にしてるって事だって」


 そして、全員の視線が銀に集まる。

 静寂が支配したその時、俺は淡々と尋ねる。


 「⋯⋯な、なんだ」


 「お前の役員報酬は?」

 

 「い、一億⋯⋯」


 「洋服の値段は?」


 「4000円くらいなのか?」


 「お前の中で洋服は一着2億か?」


 確かに変だなとは思ってた。

 洋服はぼろぼろだし、髪も肩より少し長いくらい。


 もっとケアが必要なはずだ。

 なのにボロボロ。


 「お前兄弟を大事にするどころか、粗末に扱ってどうする」


 滅多に驚かない銀が、全員の視線を一身に集めた。


 だが、銀は分かっていないようだった。


 「そ、そうなのか? ご飯は食べられているし、洋服も着れている」


 「ちょっとですね! 酷いですよ!」

 「そうですよ!小学四年生なんてみんなお洒落したい年頃なんですよ!?」


 「アニキ、それは守れねぇっス」


 全く分かっていなさそうな銀に、大バッシング。

 

 だが、顔つきを見ればわかる。

 大事にしている。


 ならなぜこんな──


 と、俺はなんとなく自分の昔を思い出し、笑ってしまった。


 「あっはははは」


 静まる。俺は思わず溜息混じりに両目を手で覆い、銀の肩に手を置く。


 「お前も、大変だったんだな」


 「⋯⋯すまない」


 きっとこいつは、食べられて服を着れて、どうにか生命活動できる事を主軸にやってきたから分からなかったんだな。


 だがそれはそれ。


 「いいか? 世の中はお前が思ってる以上にこういう反応だぞ? 無知も考え物だ」


 「すまない、鈴⋯⋯その、服を買わないと」


 動揺しつつもしっかり謝罪を入れる銀。


 「ビンボーでも大丈夫」


 「⋯⋯え?」


 「お兄ちゃんと大地もいるし、ここのみんなはすんごく優しいからへいき。


 だけど、知りたかったし、イケナイ事なのかって」


 「⋯⋯⋯⋯」


 「知れてよかった。これから頑張ってお勉強する」


 だがそうではない。

 いじめはそれでは済まないのだ。


 「いや?鈴」


 「どうしたの?湊翔お兄ちゃん」


 「いいか? イジメられているのはビンボーのせいだが、その理由は仮初めに過ぎない」


 「かりそめ?」


 「それは本当の事ではなくて、実際には鈴をいじめたい女の子がいて、鈴をいじめたいから理由をなんでもいいから探してるだけなんだ」


 ウンコ座りみたいな体勢になって、指を絡めて俺は鈴と大地と目線を合わせる。


 「放置すると、お前らはいずれ終わる」


 そう。昔の俺みたいにな。


 「だから──面白い事をやってやろう」


 ケルビンである俺と伊崎湊翔である昔の人格と今活動している体。


 伊崎である自分の体と精神性が訴えてくる。


 "暴力では何も解決しない"


 ケルビンである意識の自分が訴える。


 "世の中⋯⋯結果が全てだ"


 そう。これの重要な所。

 鬩ぎ合う自分の思想たち。


 どちらかを否定してしまっては本末転倒だと。


 片方は動物的で、片方は植物的で機械的。


 なら、人間は動物と知性があるわけなんだから、やるしかない。


 資本主義とそれをどう扱うのかを。


 見せてやる。

 ケルビン()伊崎湊翔()


 その答えを。






 ビンボーは悪いことだと思ってなかった。

 だってそれが普通だったから。


 「お前の家風呂も入れないのかよ!」


 お兄ちゃんは何も言ってくれないから。

 でも、お兄ちゃんは朝から夜まで働いてるもん!


 「お兄ちゃんを馬鹿にしないで!!!」


 そう。その男の子はクラスで一番かっこいいと言われていた男の子だった。


 だから、それを見た女の子たちから嫌がらせが始まった。


 「いたっ!」


 ある時は。


 "ビンボー女"

 "死ね"


 上履きに落書きされたり、切り詰めていたノートや筆箱も、落書きされた。


 でも、悔しくない。

 相手にしたら負けだから。


 私はビンボーかもしれないけど、誰よりも幸せだもんっ!


 でも──。


 「あー貧乏鈴ちゃん、新しい筆箱買ってもらってんじゃーん」


 「やめてっ!!」


 気分良く使っていた。

 欲しくもない色だけど、あのお兄ちゃんが一生懸命働いたお金で何かをくれるのは。


 今までももちろんあった。

 けど、それは家の事に使った方がいいと思った。


 だけど今は、お兄ちゃんの顔が前みたいに何か取り憑かれたような怖い顔をしなくなった。


 あの湊翔お兄ちゃんと出会ってから、お兄ちゃんの顔は穏やかになって、ご飯の量が増えた。


 しかも。


 「鈴、飯食うか?石田のは絶品だぞ〜?」


 秘密基地って言ってたのに、お兄ちゃんの妹だからってご飯とかお菓子とかもくれる。


 「ありがとー!!」


 抱きついた。

 嬉しい。年上の余裕なのかな?

 何から何まで、全部がカッコイイ!


 お兄ちゃんと違って、湊翔お兄ちゃんは私のことを分かってくれる。


 「おい銀ー!!鈴になんてことさせてんだ!」


 「す、すまない⋯⋯大将」

 

 「鈴?」


 湊翔お兄ちゃんは私と目を合わせるために怖い男の子みたいにしゃがんで。


 「辛かったらいつでも来ていいからな?

 大丈夫。お金なら俺が持ってる。

 欲しいのはあるか?」


 「んーんー!ない!」


 そう。欲しいのは、この時間。

 だから大丈夫!!


 「やめてっ!!!!」


 「あーあー⋯⋯せっかく新しい筆箱破れちゃったぁ⋯⋯」


 ──あ。


 ーー鈴。その、これ⋯⋯


 『何?これ?粘土?』


 ーーいやっ!嫌だったらいいんだ。俺、勉強とかしてこなかったから。服とかもセンスがないし


 やめて。

 お兄ちゃんがくれた物なの。


 お兄ちゃんがお兄ちゃんなりに真面目に考えてくれた物なのっ!!


 「ざーんねん!!」


 「ううっ⋯⋯!っ⋯⋯」


 「キャッハハハハハハハ!!康介に手を出すからよ」


 ビンボーだからいけないの?

 なんでそんなみんな私を攻撃するの?


 何かしたの?








 「授業参観、鈴の親一度も来た事ないじゃーん」


 あの一件から、私はこうして毎日悪口を言われることが日常になった。


 学校が楽しくない。


 『授業参観、本日はティーボールです!』


 私、苦手だぁ。


 ウゥゥ⋯⋯。


 『ん? 何か聞こえます?』


 ウゥゥ⋯⋯ウォンッ!


 低いけど滑らか。

 なんの音だろう?


 「おい銀、今日決めてんな」


 「いや大将、俺にはセンスがないって分かるだろう?」


 「お二人とも、ここは授業参観ですよ!」


 ティーボールの説明中の事だった。

 たまたま場所がグラウンドの端で、外の通路が見えていた。


 「ちょっと、何あれ?ヤクザ?」

 「いや、あれセントリー⋯⋯」

 「幾らするのよ」

 「いや、俺の年収何年分⋯⋯」


 誰かのお母さんが噂する。

 見ると、私にはよく見慣れている車が大量に止まって中から出てくる。


 『ちょ、ちょっとすみません!』


 説明が車の音がかき消された先生が怒ってる。


 と、出てきたのは、50人くらいの⋯⋯あれっ?


 「湊翔お兄ちゃん!!!」


 先頭を歩いているのは両手をポケットに入れ、狼のリーダーみたいに中心を歩いてる湊翔お兄ちゃんの姿だった。


 湊翔お兄ちゃん⋯⋯脚長い。


 「えっ、お前の兄ちゃん?」


 隣の康介くんが少し強張った。

 怖くないいいお兄ちゃんなのに。


 「うわぁ⋯⋯何あれ、イカツイ」

 「授業参観に何しに」


 お兄ちゃんに、湊翔お兄ちゃん、石田さん。

 それに、いつも見る秘密基地の端っこで走ってるお兄さんたちが、ここぞとばかりに決め込んで入ってくる。


 「ちょっとアナタ!?」

 「い、いやぁ⋯⋯」


 誰かのお父さんが前屈みでお母さんに叩かれてる。


 あっ、衣里お姉ちゃん!

 それに理沙お姉ちゃんまで!


 来てくれたんだ!


 「オッパイ⋯⋯でかくね?」

 「や、やべぇエロくね?」

 「まずいぞ」

 「何あれ⋯⋯おっぱい、形分かるじゃん」


 クラスの男の子たちがヒソヒソ喋ってる。

 なんの事だろう?


 「あぁ⋯⋯騒がせて申し訳ない」


 湊翔お兄ちゃんが片手を上げて爽やかに挨拶する。


 『どこのご家庭のお父様ですか?』


 「両親ではありませんが、そこの真壁鈴ちゃんの事実上のお兄ちゃんです」


 ザワっとして、視線は私に向く。


 「あぁ、ご迷惑おかけしてすみません。石田」


 「はい」


 いつもとは違って、別人みたいな態度で先生を含めたみんなのお父さんお母さん達の手に何かを乗せていく。


 「申し訳ない、お詫びです。

 100万円一人につきあります。


 迷惑費としてお使いください。

 日頃のお仕事や家事、お疲れ様です。


 どうぞ⋯⋯鈴をよろしくお願いします」


 と、湊翔お兄ちゃんは先生の耳元で何か言うと。


 『も、もちろんですよ!!真壁さんはいつも学校では明るく!っはは!』


 突然元気になった先生。

 でもちょっと、慌ててるような。


 「ではどうぞ。俺達はただ授業参観をしに来ただけなので」


 ま、待って湊翔お兄ちゃん!

 私ティーボール苦手なんだけど!!


 「頑張れー!!!鈴ー!ホームランだぞ!!」


 湊翔お兄ちゃん。

 恥ずかしいっ!!


 「こら伊崎さん! 鈴ちゃんが恥ずかしがってるじゃないですか」


 「えぇっ⋯⋯鈴が授業参観誰も来ないっていうから⋯⋯飛び切り応援したいだろ?そうだよな?お前ら!!」


 一人だけ椅子に座ってる!?

 どこから持ってきたの!?


 「鈴ちゃーん!頑張れー!」


 「すーずちゃーん!!」


 こ、こわい!

 いつもなら怖くないみんなが、とてつもなく怖いんだけど!


 押されるような⋯⋯なんだろうっ!


 「えいっ!!」


 空振った〜!!

 恥ずかしい!


 しかも、満足に打てなかった。


 「ナイススイング!鈴! 

 人生いつでもホームラン狙えるぞ!!」


 「そんな事子供に言ってどうするんですか」


 「銀、お前が本来はやらないといけないんだぞ?」


 「す、すまない!」


 ⋯⋯もう。

 みんな馬鹿なんだから。


 『保護者参加型なので、良ければ⋯⋯』


 と、視線が向くのは──当然湊翔お兄ちゃん。


 「おいおい、あの人中二病なのかよっ!」

 「何だあの持ち方」


 確かに変。

 傘でよくそんな風に肩を叩いているクラスの男の子がいる。


 でも──。

 

 ゴォォっと。

 何か湊翔お兄ちゃんの周りが凄くモヤモヤしてる。


 まるで、お侍さんが刀を構えているような。

 クラスの男の子とは違う──


 染み付いたような動作。


 構えた。次の瞬間───



 ゥゥゥドォォン!!!!


 

 全員の視線が空まで向いた。

 え?あれどこまで飛んでいくの?


 『え、えぇっと⋯⋯』


 「鈴〜!見てたかぁ!? 人生何が起こるか分からんもんだぞー!!だから諦めんな!」


 「だから、何言ってんすか!」


 「いたっ!」


 頭を叩かれ、湊翔お兄ちゃんはトボトボ椅子へと戻っていく。


 その後も。


 「す、すげぇ⋯⋯オッパイがブルンって」


 男の子たちの視線が集まる衣里お姉ちゃんと理沙お姉ちゃんのターン。


 他にもいつも喋ってくれるお姉ちゃんたちがやっていると。


 「あ、あれどれくらいあるんだろう?」

 「やべ勃っ⋯⋯」


 数人の男の子が前屈みで座り込んでいる。


 「大丈夫?」


 「う、うるせぇ!」


 心配しただけなのになぁ。


 でも確かに。


 「そーくんみたぁ!?」


 「おー!」


 動くたびにブルンブルン揺れているおっぱい。


 服もぴっちりしてて、周りの大人も若干視線が変。


 私も下を向くと、何もない。


 「おっきくなりたいな」


 そうしてティーボールは進んでいき、終わりの時間。


 授業が終わり、みんなが帰っていく。


 「頑張ってたなぁ、鈴」


 頭に手を置かれる。


 「声⋯⋯ちょっとおっきかった」


 恥ずかしい。

 こんな感情なかった。


 でも⋯⋯。

 ちょっと見上げると。


 「なーんだよ。でも、楽しかったろ?」


 服を握る力がぎゅっとしちゃった。


 「ね、ねぇ!」


 「ん?どうした?」


 「また⋯⋯来てくれる?」


 湊翔お兄ちゃんは少し驚いたような顔をして。


 「おうっ!来年も来るさ!」


 いつもはニコニコしてるだけの湊翔お兄ちゃん。


 だけど今日の笑い方は、どこかカッコよくて、しわくちゃで。


 「もっ」


 「ん?」


 ドキドキする。

 い、今までこんな事なかったのに。


 「も、もう少し撫でて⋯⋯」


 おかしい。

 湊翔お兄ちゃんは湊翔お兄ちゃんなのに。


 なんだろう?


 「おーっ? 可愛いこと言うじゃん」


 ポンポンと頭の上に手をおいて、優しく撫でてくれる。


 「大丈夫──見たろ?大人たちを。

 何かあったらすぐ言え。


 この湊翔お兄ちゃんに任せなさい」

 

 ニシシ、みたいに笑う湊翔お兄ちゃん。


 ⋯⋯ふふっ。


 「うんっ!!ありがと!湊翔お兄ちゃん!」


 「おおっ、抱きついて来るなんて、可愛いなぁ」


 分からない。

 けど、この感情が何か、いつか分かると思うから。


 今日の湊翔お兄ちゃん⋯⋯カッコよかった。

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