なんで俺、怒られてるの?
折角気配探知で調べ、動向まで確認して得たエリアだったのに。
「あぁ?」
「ちょ、ちょっと誰ですか!」
「え?いや──」
「助けてください!!」
恥ずかしがる事もなく、走り抜けて俺の背中に隠れる謎の女。
「なんだよ、お前」
「私はイジメられているんです!」
「そりゃ見れば分かるよ」
ブラの紐を切ろうとしてたんだろうと分かる切口に、他にもワイシャツが切り刻まれているのを見れば、誰でも分かりそうなものだが。
「助けてくれたっていいじゃないですか!」
「なんで俺が?」
別に一発もなければ、ヤラせてくれる訳でもあるまいし。
「エッチな視線です!見ないでください!」
「お前が走ってここまで来たんだろうが」
確かに歳の割にはデカイが。
「な、何?私の家が何処だか知ってるの?」
向こう側のリーダーらしき高飛車な女が、少し動揺しながらも腕を組んで、尊大な態度で聞いてくる。
おぉ。裕福家庭なのだろう。
腕に乗ってる乗ってる。
そしてそれに続いて気を大きくしてくる取り巻き。
「知らん。まだ処女のクソガキ共だろ?」
「な、ななななにゃに言ってるのよ!!」
いやせめて隠せよ。
バレバレだろうが。
「男としたことないやつが、男を語ったら恥だぞ」
そうだぞ。単純で、馬鹿で、穴に入れることにしか興味のない人種って事に気づくのだから。
世の中の基本ってやつだ。
なぜハニトラがあるのか考えてもらわないと。
あ、俺はよくハマる。
⋯⋯大事な事だ。
大体気付いたら入ってるタイプの男だ。
「わ、私の家は、湊航空の偉い人よ! その気になれば、いくらでも出来るんだからね!」
へぇ。そうなんだ。
「そうなのか?」
「そ、そうよ!権力って凄いんだから」
「じゃあ仕方ない」
まぁ悪ふざけだからいいだろう。
カチャカチャとベルトに手をかける。
「あとで権力にいじめられるなら、今お前を押し倒してくれた方が一生トラウマになってくれそうだな?
お前の価値としては、高いとは思わんが」
「⋯⋯は?」
「何が は?なんだよ。
まさか今の話、ハッタリでしたーとか言わないよな?」
反応がマジっぽそうだし、ちょうどいい頃合いだ。
「ちょちょちょお待ちなさい!」
⋯⋯興味があるのは本当だが、さすがに本当に実行するつもりはない。
「何? このあと“権力”とやらに潰される予定なんだろ?
だったら、今お前を押し倒して捕まった方がまだマシじゃね?
お前、まだまだ成長期っぽいし、体のラインも悪くない。楽しませてはくれそうだしな?」
「なななななな!」
駄目だこいつら。頭が悪すぎる。
なんでこの年頃のガキ共ってのは、いつもこうなんだ。
「まっ、いいや。とりあえず俺はおさらばするよ」
駄目だこいつら。
頭が悪すぎる。
と。俺の背中に、また下着姿の女がいやがる。
っ、何だこいつは。
「おい、邪魔だ」
軽く退かそうとしたが、中々に離れない。
はぁ、仕方ない。
「お前、貸一つな」
女の前で人差し指を立てて見せる。
「うん!」
「伊崎湊翔だ。湊航空の娘さんの名前は?」
もうここまで来たんだ。
最大限使わせてもらおう。
俺得意の笑みを張り付けて手を差し出す。
「えっ!? あ、あっ、えっ⋯⋯っと」
「え?伊崎ってあの白波と個人的に関わってるって」
「娘とも婚約させるって話は本当なのかしら?」
「もう関係持ってるとか」
モブの声に。
ーーそーくんっ!気持ちいい?
⋯⋯っ。
ーーキスしただけでこんなになるなんて、そんなに好きなんだね?
クソが。昔の記憶を一々掘り起こすなガキども。
「チッ、婚約はねぇよ。娘とも関係はない」
「そ、そうなのですね!」
「⋯⋯⋯⋯で?娘であるお前の名前は?」
完全に怯えている。
俺の名前は白波と関連付いてるはずだから、下手は打てないはず。
あのクソ女、一発抜かなかったら後で覚えとけよ。
「別にいいが、もういいよな?」
「こ、こちらとしても申し訳ありませんでした。まさか噂の人物だったなんて⋯⋯あははっ!失礼致しました」
「分かればいい。あと一応伝えておくが、俺は素行があまり良くないし、口も悪い。
白波とは事業で仲良くしてるだけだ。
"娘とは一切関係ない"」
背を向けて、俺は言う。
こんなクズ。
アイツに相応しい訳ねぇだろ。
あの笑顔を救えなかった⋯⋯哀れな老害だよ。
「⋯⋯あの」
手を掴むこのクソ女。
少し強めに向こうへ飛ばす。
ダンッ!!
机2個分くらい吹き飛んだが、いいだろう。
「じゃあな」
はぁ。なんで俺は運がないんだ。
最近、喧嘩を売られてばかりだ。
ーー大好きっ!
浮かぶあの笑顔。
クソ。
何八つ当たりしてんだよ。
みっともない。
⋯⋯こんな未練たらたらだったなんて。
やっぱり帰ってくるんじゃなかったな。
*
「伊崎さん、なんか不機嫌じゃないですか?」
「そう見えるか? めちゃくちゃ不機嫌だ」
車内。
不機嫌とは言いつつも、リビを隣に座らせてそれなりに調子を戻そうと奮闘する。
視覚的にはとりあえず満足だ。
向こうもノリノリだし。
「今日はどうしますか?」
「質問で返すが、なんか今日あった?」
「今日は⋯⋯確か」
石田がスケジュール帳を開く。
「断っても断らなくても良い案件ですね。
木村さんの方から鰻の完成間際とのことで、確認出来ればと」
「行こう。気分転換だ」
木村さんはお父さんって感じで、気持ちが楽になる。
⋯⋯まじで何かあったら言ってね。
「銀と石田はいつもの如く外で待機な」
「「了解」」
「伊崎さん、お疲れ様です。
学校の方はどうですか?」
「入学してすぐだというのに、変なのに絡まれましたよ」
木村さんは個人的にはかなり気に入っている。
車のときもそうだったが、話し相手としてはこれ以上ないくらいだ。
一応向こうも仕事だし、美容にいい成分を追加したコーヒーを手渡した。
最近の事で色々忘れがちになっていたからか、改めて施設を歩きながら説明を受け、その流れで俺は今日あった事を話した。
「ほう? 湊航空の令嬢でしたか」
「実際凄いんですか?」
「ええ。国内でもトップクラスですよ。
最近は色々なところに権力を伸ばしていることから、今そっちの業界ではかなり伸びてきている所かと。
ご令嬢の仰る事はあながち間違いではないでしょうね。
しかし伊崎さんからすれば、なんて言っても、という顔をしていらっしゃいますね」
「白波と事業をほぼ単独で行えていますし、俺からしても別に頭を垂れる程でもないかと」
むしろ垂れる方ではなくされる側なんだけど。
「まだ15歳ですか。5年後にはどうなってることか」
「褒めてくれてます?」
苦笑いが透けて見えてしまったので、少し笑いながら詰める。
「もちろんですよ。末恐ろしいなという意味と、自分はこの歳になってもその足元にも及ばないことへの悔しさ⋯⋯というものと言えばいいでしょうか。
色々な大前提があるとはいえ、才能や努力というのは凄まじいです。
15歳の時、私は何をしていたのかと」
まぁな。正確な年月は忘れたが、エルフとタメが結構いたしな。
むしろ100年かかってないでここまでやれてんのはすげぇよ。
「大丈夫ですよ。その5年後には、木村さんのご家庭になんの不足もなく生活ができるように全力を尽くします」
と、鰻の施設へ到着。
「これです」
異様。それが相応しい通常サイズを遥かに上回るこの鰻。
前回同様。
というか、色々なレビューを参考にした。
というのも、まぁみんなは気づいているかもしれないが、俺はディセンに付与できる効果は基本選べる。
じゃなかったらアレか。
湖一面エリクサーにして、女たちとキャッキャしたのはいい思い出だ。
成分変えて、お互いにあはんなことしまくったのはサイコーだった。
⋯⋯まぁだから俺が最強と言われる所以なんだけど。
色々な意見に目を通して、客が一番欲しがっていそうな物を探した。
結果、やっぱり美容系だということを理解した。
どうやら俺は失念していたようだ。
やはり長いこと経っているからか、肌が良い事や顔、体型すらどうにかなる自分にとって、変えられない人間からしたら手が出るほど欲しいようだ。
ちょっとした話題としては、国内の偉い人の娘が強請ったそうだ。
無いと言うと金なら払うと言ったらしい。
しかも、女優やアイドルも個人的に連絡が来たそうだ。
⋯⋯おや?枕営業どんとこいでは?
芸能人に相手してもらえるとか最高じゃね?
スマホあるし、自分の宝物が増えそう。
事務所とも連携があるらしいし、と俺が良い反応を見せると、会長は嬉しそうに"話しておくよ"と良い顔はしていたものの、やっぱりトップカーストの人間の恐ろしさを思い出す。
と、今回の鰻。
今回はしっかり美容に対して効果はあるものの、栄養と同じくしっかり摂らないと消えていくように設計した。
そう、さっき話したように、欲しいからあれこれしてもらえるように。
まぁでも、ご飯と一緒だから悪いことをしてるつもりはない。
悪い事という範囲で喋るなら、メメと達磨くらいだろう。今の所。
メメはあれとして、回復しても達磨は痛みを感じたままリビとゲラハの精気タンクだしな。
一生そのままだからな。
まぁ、忘れないようにな。
俺に刃を向けた人間は──今まで一人としてまともな人生を歩んではいないのだからな。
「水質、どれも改善されているので問題はありません」
「これでやっと、世に爆弾が放たれます」
「奇跡のウナギで販売するんですか?」
「予定ではそうですが、迷っていますね」
と、そろそろ夕方か。
「あ、両親にウナギを贈りたいので本格的な時期になったら頼みます」
「承知しました。もう時間ですか」
「まぁ、一応これでも学生です。制服も着てますしね」
すると木村さんは笑う。
「そうは言っても──今ここで作業しているほとんどの人間は伊崎さんの部下みたいなものですから」
「ですね。まっ、俺は仕事をやっていれば文句を言わない人間ですから、好きにしてください」
「では、お気をつけて」
「また近い内に」
そうして秘密基地に帰ると。
鈴と大地が車の帰りを待っていたのか、降りてきた俺に抱きついてきた。
「「湊翔お兄ちゃんー!!」」
「おぉ⋯⋯おぉ、どうした?ていうか、銀お兄ちゃんはどうしたんだい?」
こら、そっぽを向かない。
「ねぇ!」
「ん?」
「鈴たちってビンボーなの?」
小学4年くらいの少女が俯きながら答える。
⋯⋯よし、間違いなく何かあったな。




