異世界と地球での違い
石田と銀を引き連れ、そのまま話し合いの場へと案内される。
まさか教師方も目付きだガタイだが最初に目に入ったのか、かなり二人を見て表情が引きつっていたのだが、それはごめん。
許して欲しい。
警護だから。
入ると真っ先に目に入ったのは、誰だか判別付かないくらいまでに包帯でぐるぐる巻きにされ、車椅子でなんとか生きている状態な俺の被害者と、貧乏ゆすりをしながら今か今かと待っている彼の両親の姿だった。
⋯⋯こんなのにも守ってあげようという両親がいるのか。
やはり面白い。
と、両親の方が俺が入ってきたのを確認したようだ。
物凄い剣幕で怒鳴り始めているのだが、ごめん。
オートのせい何も聞こえていない。
都合の良い地獄耳の最強バージョンである。
まぁこういうところで魔法を使わないと、俺って何も活かせてない事になるじゃんね?
殺傷目的で魔法を使ったら駄目だからね?
キラッ☆
ゴホン。
いかん、少し子供たちとみたプリキュインに感化されかけているようだ。
毎週俺の家に来てはせがまれるから仕方ないじゃん。
「顔面骨折、歯牙脱臼、多発四肢骨折のため、全治約6ヶ月を要する見込み。変形治癒や機能障害の可能性についても経過観察を要すると診断では書かれています。
後遺症の可能性も否定できなくありませんので、少なくとも半年から1年近くの通学が不可能となります。
ここまでで双方の事実確認として問題ございませんでしょうか?」
「問題ありません」
「問題はないわよ!早くその犯罪者を警察に突き出す準備がこちらにはあるのよ!」
やべ。石田が返事をしているのだが、話を聞いてなかったせいで状況が。
「伊崎さん。加害者としてなぜこのような経緯になったのか、説明してくれる?」
担任の教師に優しい口調で尋ねられる。
「んん⋯⋯」
なんて言おうかな。
「伊崎くんと言ったかな?」
「ん?はい」
悩んでいると向こうの父親が言葉を発した。
「ウチの大樹をこんな目に遭わせたという風には全く見えないんだ。
そんな片足を太腿に乗せて、ソファを我が物顔で陣取り、背もたれに身体を預けている。
これが反省していると言えるのかな?」
「そう言われると正直に言えば、反省の色はありません」
教師含め、周りは全員ドン引きである。
二人を除いて。
「被害届を出していないだけでもありがたいと思いなさい!大樹がこんな姿になっているっていうのに⋯⋯!
さぞ貴方の母親の教──」
あぁ゛?
「──大将」
ーードンッッ!!
気付けば、目の前の机を乗り越え、コイツを"殺そう"と拳を放っていた。
だが、その拳は顔面を貫く事はなく、すんでの所で止まる。
「大将」
空間を常識の少し上を行ったせいで、遅れて衝撃波が舞う。
学校の連中も、目の前のこの女も、俺を見て震えている。
「ひッ⋯⋯!!!」
しっかり睨みつける。
お前と一緒にするんじゃねぇよってな。
数百年の想いとてめぇのたかが少しの愛がなんだって?
「てめぇ如き誰に向かって言ってんだこのクソ──」
ギュウウっと俺の拳を止めた銀の力が跳ね上がる。
「危ない所だったぞ。少し遅れてたらそこの母親はワンパンだ。少し見境がなさ過ぎだ」
「⋯⋯チッ」
乗り上げた机を元に戻してソファに座り直す。
そして俺は姿勢を戻して問い掛ける。
「お宅の息子について伺いたいんだが」
「⋯⋯な、何かな?」
「息子さんの評価だよ。親御さんがどんな評価をしているのかは気になる」
「立派な跡継ぎだ。うちの会社をゆくゆくは継いで、更に大きく羽ばたけるものにしていく。
何かおかしいかな?」
答えるまでに時間は掛からなかった。
即答かよ。
「では、こちらからも尋ねる。
敢えて後ろにいる教師には聞かないが、イジメをしていた主犯格がお宅の息子さんだ。
この事実を知っているのか?」
「おや? うちの息子がそんな事を?
まさか⋯⋯なぁ?」
そう横目で隣の女を見ると女も頷いてこちらを見て嘲笑っている。
魂が揺らいでいる。
つまり"知ってる"。
「そもそも。君はさっきから乱暴だね? それだけ素行が悪かったら⋯⋯被害届も出さないと。
それに賠償金もだ。
高校にも行けなくさせないと。
これだけのことをしでかしたんだから──」
ガチャ、と。
「失礼します」
空気が変わった。
その凛とした声一つで、今まで修羅場のような空気感だったのが少し雰囲気が緩む。
「だ、誰だね!」
「お話の途中、失礼いたします。私、諸星グループ会長室直属、特別戦略室の佐藤衣里と申します」
「も、諸星!?」
「う、嘘⋯⋯っ!?」
「この度伊崎湊翔様の件について様々な書面でまとめたモノをお持ちしました。ご確認を」
俺を横目で見た佐藤さんがアピールと言わんばかりに眼鏡をクイッと上げてニヤリ。
⋯⋯そうだな。
俺もまだまだだ。
いつもならもっと冷静に対処するんだが、こっちに帰ってきて⋯⋯家族がいるとどうにも短気になっちまう。
それにあっちでのやり方がこっちで通用するわけもなく。
──はぁ。仕方ねぇ。
窓の外を見て、俺は深呼吸。
今回は俺の完敗だ。
佐藤さん。並びに──爺さん。
家族を守るのは、結構面倒くせぇみてぇだ。
「あっはは⋯⋯」
読んでいる途中の二人が青ざめている。
一体なんの書類だ?
近くで確認した校長が慌てて佐藤さんに罵声を浴びせる。
「こ、こんなの脅迫と何ら変わらないじゃないか!!
今着手している仕事が終わったら今後はない。
こんな諸星レベルのところから堂々そんなことを浴びたらどうなるかなんてご存知でしょう!?」
「恐れ入りますが、それは些か曲解かと存じます。そちらの選択肢は、あくまで私どもがご用意した最終手段に過ぎません。
それに、お二人が読まれているのは、別の物です」
「べ、別?」
「今回関わった伊崎"様"が問題になってしまったイジメの証拠と証言、今までにあった生徒からの状況などをシミュレートした様々な形式で⋯⋯ほぼ御子息が行った手法が一致している事の確定。
私どもはこのまま裁判に持ち込んで良いと考えています。
諸星にはお抱えの弁護士団もいますし、このような状況証拠、多数の評判、彼らがこの武器を持って"何もなかった"と言うには少し短絡的なお話かと存じますが──どうでしょう?
これ以上伊崎様のお時間を取らせると会長自ら来るよう仰られていますので」
⋯⋯目が笑ってないよ。佐藤さん。
ていうか凄いな。
仲良くなったのつい最近だろ?
書類の分厚さが数年仲が良い友達の集計のやり方だぞこれは。
「⋯⋯っ」
「この場限りではありますが、現在諸星グループとしての権限をある程度頂いています。返答次第ではすぐに対策を取らせていただきたく思いますが、どう致しますか?」
隙を全く与えない佐藤さんの口撃をくらう二人。
こりゃあとんでもない人材がついたな。
あん時の宰相みたいだな。
「こ、今回は、お互いに色々とあった⋯⋯ようですから⋯⋯はは」
「そ、それでよろしいのですか!? 鈴村さん!」
「激怒されているのは、こちらの件でしょうか?」
佐藤さん。なんかまた書類を出して校長たちに突きつけている。
読んだ全員はこれまたさっきと同じように青ざめ、ハンカチで汗を拭きだす始末。
「わ、私がこんな事っ⋯⋯!」
絶句した校長がハンカチを握り締め一応反抗している。
だから、何を見せてるんだって。
「あっこちらですね。拝見しました。
教師という聖職にありながら、未成年の生徒を盗撮ですか。
このデータが公になれば、貴殿の社会的信用、そしてご家庭がどうなるか……もはや申し上げるまでもございませんね」
つまり全員訳ありで。
全員がグルであったと。
「そろそろ退出してもよろしいでしょうか?私どもはやる事がありますので」
え?それって⋯⋯
ウインクする佐藤さん。
さとーさーん!!!
「さぁ、帰ろう。やることが待ってる。
煌めいた日々が俺を待っている」
「うわ、あの子供なんて憎たらしい」
「まぁ石田、そう言うな」
⋯⋯いやいいじゃん。
俺が何したってんだ。




