落雷
伊崎湊翔。
ただ15歳のガキだと思ってたのに、何だ──こいつ!?
株式、投資なんてまだガキにわかるわけないだろう!?
まさかここまで知ってるとは思ってもなかった。
こっちの説得も駄目なら、仕方ない⋯⋯!
「動画見るか?」
あの女は見かけは清楚っぽくしてるだけで、とんでもない女だからな。
金になるぞーっと、思ってたのに。
「おぉー」
両手を後ろに組んでノシノシやってくる。
くそ。折角の切り札を共有する事になるなんて。
「ほら」
映像を見せてやる。
前のめりで見ているのを見て、まだ余地はあるとこの時考えていた。
最悪白波をコイツに充てがってやれば、乗り越えられるんじゃねぇか?
今じゃ加工センターだけだが、ゆくゆくは⋯⋯。
持ち株だけで考えれば、まだ足りない。
父上も結構人を集めているようだし、それに。
ーー力、どちらにせよ、会長はお前と紗季嬢と婚約させようと必死だ。
後継としても、まだまだ経験不足だろう。
アレが成人した時、味方は恐らくいない。
⋯⋯これからが楽しみだよ。
紗季。お前を使えるのが。
「どうだ?結構いいだろ?」
しかも、コイツからすれば、同じ同級生のアレじゃないか。
いやぁ希少価値しかないよなぁ?
見てぇよなぁ?
いやぁ俺も逆だったらやべーっつーの!
しかもこんなしっかり映ってたら止まらん!
「⋯⋯⋯⋯」
「どうだ?」
何故か、ヤツの顔は⋯⋯死んだように固まったまま。
ん?どうしたんだ?
すると、奴から聞こえてくるのは、半開きになった口から蒸気のような吐息が微かに聞こえるだけ。
「おーい?」
顔の前で手を振っても、まるで反応がない。
なんだ?機械がまるでインストールしてるみたいだな。
いや。それほどあまりにも刺激的だったか?
こりゃこの先大変だぞ?
一緒に見ていると、ちょうどビクビクしているところだった。
「大和田組長、伊崎くんも欲には勝てないみたいd──」
だが、10秒程ヤツが固まった──次の瞬間。
「坊っちゃん!!!」
「え?」
大和田さんが慌てている。
どうしたんだ?
「おい、ど────」
やつの方を見たその時。
揺れる前髪の中からこの世の全ての憎しみでも凝縮したような。
何か、逆鱗に触れてしまったような。
さっきまで飄々と覗きこんでいた少年とは別人のような顔が。
まるで"何かが乗り移った"ように。
表情筋という筋が全て浮き上がったもっとも醜いとも言える顔が、悪魔が──こちらに向いていた。
まるで世界がスローになったように見える。
大和田さんがこちらに向かって走り出してる。
なんだ?何が起こって──
ーーブシャーッッ!!
「⋯⋯⋯⋯え?」
別にヤツは醜悪な顔をしているだけで、別に両手を突っ込んだまま微動だにしていない。
だが。なんだ──この音は。
破裂ッッ⋯⋯!?
大和田さんの方を見る。
く、首が⋯⋯縦に揺れて⋯⋯え?へぇっ?
血が⋯⋯血が⋯⋯ッッ
「うぅわァァァァァァつっ!!!!」
はぁ、はぁ⋯⋯はは⋯⋯はぁ?
「ひ、人がぁ!!」
ーーダァァァァアン!!!!
大和田さんの体が真っ二つに別れたのに気付いたとき、遅れて落雷の音がやってきた。
やつを見ると、背を向けた状態で蹴りを終えたような状態だった。
コイツが⋯⋯コイツがやったのか!?
「なに!?ひ、人が⋯⋯!! 人が簡単に頭をふっ飛ばされるわけない!!」
バケモノだ。
コイツは、人間じゃなかったのか!?
「ひ、ひひひひひとが蹴っただけで死ぬわけないじゃないか!!!!」
理解とはもっとも素晴らしいものであり、最も恐ろしいものだ。
父の家訓だ。
「み、見るな!」
全身が震えて、上から圧迫して。
痙攣して顎が動かない。
「見るなァァァァァ!!!!!」
あれっ?水?
自分のズボンが、濡れている。
あぁ。この歳になって、漏らしたんだ俺。
「た、助けて!! 金なら払うってぇっ!!!!」
人は追い詰められると口が回るというが。
「いくらだ?」
自分がここまで口が回るとは思わなかった。
「百億がいいか? いや、200?」
やつは何の言葉も反応しない。
「悪かった!白波と仲が良かったもんな! 不快だったのか!?」
どうすればいいんだ?殺されるっ!!
「俺にできることなら何でもする!!政治家との人脈も繋げてやれる!!」
「くそっー!!!」
と、その時。
また顔が、飄々としたやつの顔に戻った。
何が、どうなってやがる。
周囲を見渡し、キョロキョロさせ。
どこか懐かしそうに口元を綻ばせて、落ち着いた口調で──俺を見つけたヤツは言う。
「いかん、"一瞬"──力が入ったみたいだ」




