亜空間旅行(中編)
少し精神的にキツイものがあったのだが、目を背けずにいれた方だろう。
刻む事も、自分なら書きそうだなと思う文章だ。
「まっ」
扉から出て、指先に魔力を集中させて壁に刻む。
"2016年、俺はみんなの人生をどうにか出来た"
"大丈夫"
「これで、お焚き上げだな」
もう来ることはないだろう。
「⋯⋯⋯⋯」
振り返って俺は、そっと扉を触る。
「叶ったよ。
白波紗季、渡瀬美智、伊崎静音、伊崎吉伸、伊崎南、伊崎拳哉。
そして、伊崎湊翔。
⋯⋯今、全員生きてる」
少しジンと来るな。
「過去の俺よ、安らかに」
煙草に火をつけ、一吸い。
「さっ、そんな事より」
ゴミ箱とオートマタコレクションが気になって夜しか眠れない。
早速向かう。
「おぉ、ゴミ箱に看板があるなんてな」
到着するのだが、入口前に看板がある。
"ここから先、ゴミ箱にて"
"関係者以外立ち入りを禁ずる"
「ゴミ箱に立ち入りを禁ずるなんてどうかs──」
入りながら少し顔を上げると、そこには。
「⋯⋯あぁ。
当時の俺からしたらゴミだな」
瞳には大量の光が反射している大ホールである。
「懐かしい物がいくつもあるな」
まぁ要約すると、この部屋にある"ゴミ"と称されているのは、俺が万物の王として貴族や地方の人間たちに関与していた時代。
年に数回、遥々俺に献上品を持ってやってきていたんだ。
その時の献上品が、この大ホールに全て集められている。
献上品⋯⋯まぁ、分かるだろ?
「これは竜の涙、こっちはピンクダイヤモンド⋯⋯だっけ」
確か龍帝に勝利した後、毎年龍族から貰っていたな。
ちなみに余談だが、この竜の涙は球体なのだが、大きさで言うとネックレスの先端部分に付いているくらいの大きさだ。
この球体には竜族の特殊なマナが含まれており、人間が使う魔法とは別次元の威力と濃度がこの涙には込められている。
例えて言うなら、ファイヤーボールという魔法があったとして、竜の涙を使用すると4段階ぐらい人間の測りで言うと威力が上がる。
これには龍族ならではの特殊な臓器によるものだ。
まぁ詳細が知りたかったらいつか研究資料もあるだろうから説明してやるさ。
「俺、こう見たらマジで大悪党だな。
いや、実際そうか」
その場にしゃがみ込みながら大量の献上品を手でどかして一つずつ見ていく。
「おっ、これは港町のなんとかのビーナスがなんちゃらだったな。
こっちはイエローサファイヤ。
あーあったな。
確かガキ共が宝石を使った杖が欲しいというから、献上させたんだっけかな」
それだけではない。
大ホールにたっぷりあるのはドレスや貴重な素材、魔導具や魔剣の類もだ。
「白波や衣里たちにあげるか?」
この量⋯⋯。
とても消費できる量じゃない。
「あとは⋯⋯おぉ、お遊びで作った俺の実験品もあんのか」
小瓶に入った俺の精製した何か。
確か覚えてるのは、感度がゴニョゴニョだったり、夢見が良くなったりするやつとか、色々あったな。
「⋯⋯っと、マジでこんな事ばっかしてたら時間がかかって仕方ないな」
とりあえず女物と必要そうなものは回収してっと。
「昇降機でチラッと見て、帰りにオートマタと書斎に寄ろう」
流石に1000年以上溜め込んだこの亜空間をこんな一日で制覇できるわけないな。
左手の方に昇降機があるので乗って操作を試みる。
ゴミ箱に昇降機って感じだが。
「転移じゃないのは仕様か?」
ウウーンとゆっくり上がっていくエレベーターのようなもの。
魔力を使えば色々出来るはずなのに。
勿体無い。
手摺りに寄りかかり、じわじわしか上がっていかない昇降機が登るさまを、俺は待ち続けた。
*
「俺は錬金術師のはずなんだが⋯⋯科学者か何かか?」
とりあえず登り終わった。
登るとすぐに見えたのは、看板と明らかにヤバそうな台座に乗っているジジジと音を鳴らしそうな玉だ。
「なんだ?これ」
"戦略級兵器倉庫、触れたら死ぬ物もあるので、俺以外が触らないように"
看板もかなりだな。
明らかにヤバそうだ。
触れたらマジで壊れるか爆発するかの二択だ。
「⋯⋯ああ、待てよ?」
その場で考える。
確か⋯⋯
「これ、魔導の石じゃなかったか?」
そうだ。
確か全盛期の俺が作ったやつの中に音を鳴らすように設計した魔導具があったような気がする。
「魔導の石なら、結構色々ツッコミどころはある」
これは言わば、ゼウスプロジェクトの完全上位互換だ。
これはもう最初から俺の全盛期の魔力を永遠に込めていた代物だ。
「ただ、下手をすると詰む」
今の俺の知識量で触れたらまずいな。
「それに多分、この場所を動かすための動力源臭い」
広大で、無骨なこの場所。
天井はその果てを見せず、奥行きも果てを見ることはできない。
例えると全ての色がコンクリ一色。
そんなこの場所に一人でいたっていう事実。
「そんで、明らかに異質なモノがいくつも雑に置いてるな」
一番近いものを触ると。
「俺、馬鹿正直に看板置いてるやん」
"台風サイコロ!"
"振って1から6のどれかの天気に変えることが出来るよ!"
「これ、どこで使うんだ?」
だが、これは場所によって神様になるだろうな。
魔法で天気を変えることなどできない。
それを可能にしたって事は、だ。
美容室に置いてあるようなカートには他にも乱雑にご丁寧に付箋に近いものにその兵器の名前が書かれてある。
"不壊のツルハシ!
絶対に壊れないよ!"
"アースクイックルワイパー!
これは地震を起こして国を破壊する道具だよ!"
"ミラージュシンドリア!
任意の鏡とこの手鏡を繋ぐことができるよ!"
"スクロール・インパクト!
これを使うと任意の場所に隕石を落とすことができるよ!
これ使ったら他国の人に怒られた!"
「⋯⋯馬鹿、こんなものなんで一緒くたに集めてんだ馬鹿者」
思わず汚いものみたいに投げてしまった。
危ねぇじゃねぇか。
スクロールなんて何枚も置いてあるし。
あとは、わざと空間を確保してあるあそこにある銃とかデカイ塔、そんなんがゴロゴロ置いてある。
少し近付いてメモを見る。
"吸魔の塔。
半径100キロに存在する魔力を奪う代物。
転移後に空からこれを出して投げつければすぐに無力化出来る。
ただし自分も無くなるので、設置後10秒で転移することをおすすめする"
"デマイヤ。
周波数によって生命を絶命させるラッパだぞ"
"魔導船・アルタイヤ"
"魔力供給により、永遠に飛行可能。
カスタムパーツは別フロアに"
まぁ見るだけで近くにこれだけある。
奥も色々見えるし、一旦これくらいでいいだろう。
「とりあえず降りよう。
予想以上に時間が掛かりそうだな」
こんなんじゃマジで1年かかるな。
徒歩1分圏内にこれだけの兵器だなんだのってある訳だからな。
と、俺はそのまま下層の扉を見つけてまたスキャンを通すとカチャンと音が鳴る。
そしてまた。
光が俺に映し出される。
"お前はお前だ"
"下層は面白くない"
"ただの積み上げだ"
"きっと中層の感覚でいるとつまらなく感じるだろう"
"だがまぁ、見てくれ"
"遺した自分という存在の証を"
「あぁ。お前は俺だろうから」
少し鼻で笑って、俺はそのまま下層へと足を進めた。




