魔法
目に映るのは、久方ぶりの魔法の弾幕。
こちらで見たあの弾幕とは違い──
「久しぶりだな。
火山砲弾を見るのは」
魔法の爆発を利用し、宙を走り、飛び──燃える陽の玉の弾幕にある僅かな隙間を掻い潜る。
回転しながら。
奴へ迫りながら。
俺は、
"興奮している"
そう。
ありふれた日常。
それは「俺が欲しかったもの」。
だが、その時代はたった二十数年の話だ。
あとの何千年はほぼ私であり、我であり、渇望がやまない人間であった。
戦いもそうだ。
雄たる者──強くなければならない。
現代ではそれはお金というツールに過ぎない。
しかしいつ如何なる時代、文明においても、強さというのは古今東西、強いというのは雌を守るために必要であり、雄の存在理由である。
そして雄は、その為に戦うために必要な攻撃性を常に持ち合わせている。
だから俺は、実際に日常を享受していたところで止まない。
「敵をブチ殺すという欲求ッッ!!!!」
右腕に魔力を凝縮させて、展開する十字の煌めく藍色の結晶。
そうだ。
私は常に渇望する。
戦いを。
殺し合いを。
性能を比べられ、最強と言われる存在に。
賞賛される事を望む。
それが、
「雄という存在価値だからなァァァ!!」
「⋯⋯っ!?」
空に舞う無数の薔薇。
それらは金属音を奏で、弾け──爆発する。
「レンガオルタネイト!」
──またか。
迫る弾幕を、捻りながら魔力障壁を展開して防ぎ、レンガオルタネイトを返す。
「オイ、聖職者!
てめぇはさぞ良い行いをしてきたんだろうなァ!?
神の啓示といえば許されるなんて図々しくてやってらんねぇぞアレイスター!!」
「くっ⋯⋯まさか地球にここまだの魔法使いがいるなど⋯⋯!」
「全く、
全く最高に愉快だァァァ!!!
クソ聖職者共がァ!!」
魔力の槍。
後方に設置していたモノ。
俺の魔法と共に飛ぶ。
ランダムな軌道を描き、放射状に。
「っ、」
「邪神、というからには私も少々気にはしていたんですが、どうでしょう?」
思わず驚く。
なぜなら、ヤツの瞳が黄金に光り、黄金の膜を形成して俺の魔法の軌道を逸したからだ。
だが数秒もしない内に理解する。
「そうか。
神聖力を身につけているのか」
アレを身に付けるのは相当むずいはずだが。
「神聖力を知っていらっしゃるんですね。
今のは一律、守護の膜でして⋯⋯と、ご存知でいらっしゃいましたか?」
銀髪にエルフのような美男子。
なるほど。
「アレイスターは地球人と同じ価値観に堕ちたようだなァ?」
「なんだと?黒い醜い人種め」
「まぁ当然だわな?
アレイスターは黒い髪というだけで人を殺す存在価値すら認めぬ異教徒だ」
その時、歯が砕くような音が広がる。
「オイオイ、異教徒。
そんなに怒るなよ。
ちょっと暴言吐いただけだぜ?」
「舐めるなよ、存在価値すらない人種め」
血管バキバキ。
最高じゃねぇの。
「律法──浄化の矢」
奴の周りには光の矢が。
「なんだ?数で俺と勝負しようってか?」
「邪神め──ここで滅ぼしてやる!」
俺は心底嗤う。
「誰に」
指を上げ、後方に魔法陣を展開。
「貴様!一体いくつの魔法陣を作れ──」
"転移"
「っ!?」
「俺は残念な事に──魔法だけじゃねぇんだな」
背後から綺麗なサイドキック。
勿論、魔法でしこたま強化済みな。
「おぉー、結構飛ぶな」
"誰に"──滅ぼしてやると言っているんだ?
糞共が。
「いけ」
待機している魔法陣から絶え間なく射出し続ける魔力槍。
「星よ」
パンッ!
胸の前で合わせ、内から外に広げる俺の掌の間。
その間にはビリッと迸る星の火花。
その火花は俺という存在を夕方にも関わらず俺を太陽で照らすように灯り、そこから産まれる二匹の猛虎。
「灯せ、喰らえ、全てを食い尽くす星虎。
|星の番人──星喰らう獣」
凶咆めいた星の虎は掛け、追撃を食らわせる。
俺達を覆っていた雲は星虎の攻撃の衝撃派状に変形しているが。
「さすが神聖力。
俺の魔力量では障壁を二段階しか破れなかったようだ」
目の前にはレールガンでも撃ったような空間が広がる中。
「⋯⋯⋯⋯ッ!?」
「どうやら、高をくくっていたようだな?小僧」
そこには、ローブがビリビリに焼けたイケメンが台無しになるほどの惨状が映っていた。
「噂には聞いていましたが」
明らかにその表情は強張っている。
口は結び、冷や汗。
「血管、パッキパキだぞ?」
「⋯⋯ふぅ」
神聖力でどうやら服も直せちゃうらしい。
万能だな、本当。
「なるほど。
あなたがあの──万物の王と呼ばれたお方か」
「ほう?
俺の二つ名を知ってるやつがいるとはな。
かなりジジイじゃねぇのか?」
「はい。
私はまだ入団して2000年しか経っていませんので」
「若いな」
「そうですね。
話には1万年以上前に存在していた錬金術師として習いますから」
ん?
「それはどういうことだ?」
「どういう⋯⋯と、言いますと?」
「俺は2000年ちょっとしか生きていないぞ」
「ふっ、またまたご冗談を」
まずいな。
ここに来て自分の知らない事が増えるとは。
「回帰に記憶が一部飛んでいるようですね?
これは面白い。
だからでしょうか?
確かに技には驚きましたが、全盛期でないというのはどうやら本当のようだ」
パンパンと手袋を脱ぎ捨て、手の甲に彫られた魔法陣が光って浮かび上がる。
「無駄ですよ。
神聖力を込めていますから」
ヤツの言うとおりだ。
あれはどうしようもない。
「全盛期は、それこそ言葉の一つで龍を爆散させ、天帝すらも見下ろせば、なす術無しに伏したという強者だったと聞いておりますが、私でも状況によっては勝て──」
奴は自分の胸を触る。
「どうした?
何かあったか?小僧」
「き、貴様」
「全盛期でないからなんだ?
無限が有限になったくらいで。
無量大数から兆に減ったところで──てめぇらが俺より強い可能性は万に一つもない」
空いた穴を確認しながら、奴は血を見るとパニックに陥る。
「し、神聖力で治らない!?
どういうことだ!!」
「俺が知らないとでも思っているのか?
神聖力は資質によるもの。
俺にはお前の残りの神聖力が見えてるんだよ。
お前、効率が悪すぎだ。
だから俺に負ける」
「ま、まさか⋯⋯この世界に万物の王が来ているなんて⋯⋯陛⋯⋯下を⋯⋯」
「答えろ、何故こんな事をする」
「黙れ劣等種が。
偉大なアレイスター様のお考えなど、理解──」
魔力槍の連撃でヤツの身体を幾度も串刺しにする。
「うるせぇよ、カスが」
クソ、流石に死んだ状態では確認も出来ねぇな。
とりあえず、予定より急がんといかねぇ事は分かった。
「マジでめんどい事になったな」
こりゃやる事が増えるぞ。




